第十八話 小さな約束
ダンジョンから帰還した後。
医務室。
悠真はベッドの上で、小さなスライムを見つめていた。
「……。」
ポムは元気がないわけではない。
しかし。
いつもより少し静かだった。
「ポム。」
「ぷる。」
「痛いところはない?」
「ぷる。」
返事をするように身体を揺らす。
でも。
悠真には分かった。
無理をしている。
「神代さん。」
声がして振り向く。
雪乃だった。
「少し、いいですか?」
「はい。」
雪乃はポムを見る。
「ポムは……。」
「あなたを守ろうとしたんですよね。」
悠真は頷く。
「僕には分かりました。」
「弱いのに。」
「怖かったはずなのに。」
「前に出ました。」
雪乃は静かに続ける。
「それは、すごいことだと思います。」
悠真はポムを見る。
「……。」
「僕は。」
「最初、ポムを強くするつもりなんてありませんでした。」
雪乃が少し驚く。
「では、なぜ?」
悠真は少し考える。
「一人だったから。」
「え?」
「僕は、一人で集中できる場所が欲しかった。」
「でも。」
ポムを見る。
「この子が来てから。」
「一人の時間が、少し変わりました。」
その時。
医務室の扉が開く。
「おーい。」
蓮だった。
「二人とも真面目な話してるな。」
「蓮。」
「いや。」
蓮は笑う。
「でも、分かる。」
「悠真。」
「お前、変わったよ。」
悠真は首を傾げる。
「そうかな。」
「ああ。」
蓮は昔を思い出すように言う。
「昔のお前は、自分の好きなことだけ見てた。」
「悪い意味じゃない。」
「集中できる才能があった。」
「でも。」
蓮はポムを見る。
「今のお前は、守りたいものを見てる。」
悠真は何も言わなかった。
でも。
少しだけ嬉しかった。
その日の夜。
《個人空間》。
いつもの六畳の部屋。
しかし。
今日は少し違った。
ポムが中央にいる。
悠真は向かいに座った。
「ポム。」
「ぷる。」
「約束しよう。」
ポムが首を傾げる。
「僕は君を道具にしない。」
「強くするためだけに、一緒にいるんじゃない。」
「君が君らしくいられるようにする。」
ポムは静かに揺れる。
「だから。」
「無理して僕を守らなくていい。」
少しの沈黙。
そして。
ポムは悠真の手の上へ乗った。
「ぷる。」
まるで。
「違うよ。」
と言っているようだった。
悠真は目を見開く。
「……。」
ポムは小さな身体で、一生懸命伝える。
守りたい。
一緒にいたい。
その瞬間。
《個人空間》に変化が起こった。
壁に、小さな光が浮かぶ。
今までなかった表示。
【共生条件】
第一段階達成
対象:
神代悠真
ポム
【進化条件】
残り条件:
「互いを認めること」
悠真は表示を見る。
「……進化。」
ポムが反応する。
「ぷる?」
悠真は首を振った。
「急がなくていい。」
「僕は。」
「今のポムも好きだから。」
白い空間。
アーカスはその様子を見ていた。
「……。」
「普通の契約者なら。」
「強さを求める。」
「進化を急がせる。」
しかし。
悠真は違った。
「だからこそ。」
「君は選ばれた。」
アーカスは静かに呟く。
「神代悠真。」
「君の力は、奪う力ではない。」
「育てる力だ。」
翌日。
ダンジョン協会から通知が届く。
内容は――
第一階層で発生した異常魔物について。
調査結果。
原因不明。
そして。
最後に一文。
「該当パーティには、追加調査協力を依頼する。」
悠真たちは知らない。
あの日。
ダンジョンの奥で。
何かが目覚め始めていたことを。




