第十一話 積み重ねる者
翌日。
授業を終えた悠真は、誰よりも早く寮へ戻っていた。
「ポム。」
「ぷる?」
「今日から、本格的に頑張ろう。」
ポムは元気よく跳ねる。
「ぷるっ!」
悠真は静かに目を閉じた。
意識を集中する。
次の瞬間。
見慣れた六畳の部屋へと景色が変わった。
「ただいま。」
「ぷるる!」
ポムは嬉しそうに部屋を飛び回る。
ここは誰にも邪魔されない場所。
悠真だけの世界。
そして今は、ポムにとっても「帰る場所」になり始めていた。
悠真は部屋の隅にノートを置く。
表紙には、自分で書いた文字。
『修練記録』
一ページ目を開く。
【一日目】
・素振り 500回
・体力づくり 腕立て50回
・読書 3時間
・ポム 体当たり200回
「記録を付けよう。」
「昨日より少しでも前へ進めるように。」
「ぷる!」
ポムも嬉しそうに返事をする。
それから二人の修練が始まった。
悠真は木剣を握る。
一振り。
二振り。
三振り。
派手な技ではない。
ただ、基本を繰り返す。
何百回も。
何千回も。
汗が床へ落ちる。
その横で。
「ぷる!」
ポムも木片へ体当たりを続ける。
ぺちっ。
ぺちっ。
ぺちっ。
最初は音だけだった。
しかし。
百回を超えた頃。
木片が少しだけ動く。
「ぷる!?」
ポムは驚いて悠真を見る。
悠真は笑顔で親指を立てた。
「できたな。」
「昨日より前に進んでる。」
「ぷるるっ!」
ポムは飛び跳ねて喜ぶ。
その姿を見て、悠真まで嬉しくなった。
夜。
修練を終えた二人は床へ寝転ぶ。
「疲れたな。」
「ぷる……。」
ポムもぐったりしている。
それでも。
どこか楽しそうだった。
悠真は天井を見上げる。
「僕はレベル1のまま。」
「でも。」
「昨日の僕より、今日の僕は少しだけ強い。」
その言葉に、ポムは静かに身体を寄せた。
「ぷる。」
まるで、
「僕もだよ。」
そう言っているようだった。
その瞬間。
《個人空間》の壁が、淡く光る。
悠真は気付かなかった。
しかしアーカスは見ていた。
「やはり……。」
静かに微笑む。
「この空間は、努力を記憶している。」
床に落ちた汗。
削れた木剣。
積み重ねた時間。
そのすべてが、この空間に刻まれていく。
「面白い。」
「私が創ったはずなのに。」
「君は、このスキルさえ進化させようとしている。」
白い世界で、アーカスは小さく笑った。
「期待しているよ。」
「悠真。」
翌朝。
現実世界では、一日も経っていない。
しかし悠真とポムにとっては、充実した数日間を過ごしたような感覚だった。
悠真はノートを閉じる。
一番下に、小さく書き加える。
昨日の自分を超える。
それが、神代悠真の目標になった。
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