第十話 初めての友達
ポムを連れて学園へ戻ると、周囲の視線が一斉に集まった。
「見ろよ。」
「スライムだ。」
「よりによって一番弱い魔物じゃないか。」
「あんなの連れて何になるんだ?」
笑い声が聞こえる。
悠真は立ち止まらなかった。
腕の中のポムが、小さく震えている。
「ぷる……。」
「気にしなくていい。」
悠真はそっと撫でた。
「君は君だから。」
ポムは少しだけ落ち着きを取り戻す。
「ぷる。」
その様子を見ていた鬼塚教官が近づいてきた。
「神代。」
「はい。」
「テイマーは珍しい。」
鬼塚はポムをじっと見つめる。
「だが、スライムを相棒に選ぶ奴はもっと珍しい。」
悠真は少し考えてから答えた。
「選んだんじゃありません。」
「……?」
「助けたかったんです。」
鬼塚は黙って悠真を見つめる。
「だから仲間になりました。」
その答えに、鬼塚はふっと笑った。
「そうか。」
「それなら大事に育てろ。」
「強さは後から付いてくる。」
「はい。」
その日の放課後。
悠真は誰もいない訓練場へ向かった。
「ポム。」
「ぷる?」
「少し練習してみよう。」
木の枝を地面へ立てる。
「まずは体当たり。」
ポムは枝を見つめる。
「ぷるっ!」
ぺちっ。
枝は揺れもしない。
「……。」
「ぷる……。」
しょんぼりするポム。
悠真は笑わなかった。
「大丈夫。」
「最初からできる人なんていない。」
「もう一回やってみよう。」
「ぷる!」
もう一度。
ぺちっ。
少しだけ枝が揺れた。
「できた。」
「ぷる?」
「今、少し動いた。」
「成長してる。」
ポムが嬉しそうに飛び跳ねる。
「ぷるるっ!」
それから何度も繰り返した。
一回。
二回。
十回。
百回。
日が沈む頃には、枝は大きく揺れるようになっていた。
その時。
悠真は《個人空間》を思い出す。
(そうだ。)
(ここなら。)
景色が切り替わる。
静かな六畳の部屋。
ポムは辺りを見回して飛び跳ねる。
「ぷる!?」
「ここは僕だけの場所。」
「今日から、ポムも使っていい。」
ポムは目を丸くしたように身体を震わせた。
「ぷる……。」
「ここなら誰にも邪魔されない。」
「好きなだけ練習できる。」
ポムは悠真を見つめる。
そして。
ぴょん。
悠真の肩へ飛び乗った。
「ぷる。」
「ありがとう……って言ってるの?」
「ぷる!」
悠真は思わず笑う。
「よろしく、相棒。」
その言葉を聞いた瞬間。
《個人空間》に、小さな光が舞った。
仲間との信頼度が上昇しました。
信頼度:1
表示は一瞬で消える。
悠真は気付かなかった。
だが。
白い世界では、アーカスが静かに微笑んでいた。
「始まった。」
「経験値ではない。」
「レベルでもない。」
「"絆"という、新しい力が。」
彼の視線の先で、小さなポムが嬉しそうに跳ねていた。
その夜。
ポムは悠真の枕元で丸くなる。
「ぷる……。」
安心しきったように眠る姿を見て、悠真はそっと毛布を掛けた。
「おやすみ、ポム。」
その言葉に応えるように、ポムは小さく身体を震わせる。
安心感?満足感?とにかく心地よい感覚。それは神代悠真にとって、生まれて初めて感じる感覚だった。




