第九話 最弱の相棒
実技授業から数日後。
一年A組の生徒たちは、初めて学園内の訓練ダンジョンへ入ることになった。
鬼塚教官が全員を見回す。
「今日の目的は討伐じゃない。」
「ダンジョンを知ることだ。」
巨大な石造りの扉がゆっくりと開く。
ひんやりとした空気が流れ出した。
「隊列を崩すな。」
「勝手な行動はするな。」
「魔物を見つけても、まずは報告。」
全員が頷く。
悠真も最後尾から静かについていった。
ダンジョンの中は薄暗く、壁には青白い結晶が埋め込まれている。
「本当に本物みたいだ……。」
思わず呟く。
「本物だ。」
鬼塚が振り返らずに答えた。
「ここは学園の管理下にある第一階層だ。」
「危険度は低い。」
「だが油断すれば怪我をする。」
その時だった。
「いた!」
前方で誰かが叫ぶ。
ゴブリンが一体現れた。
上級生が一瞬で倒す。
「……速い。」
悠真はその動きを目で追う。
剣の軌道。
足運び。
間合い。
(勉強になる。)
戦うことより、観察することに夢中だった。
しばらく進むと、一行は広い空洞へ出る。
そこで鬼塚が言った。
「十分休憩を取れ。」
生徒たちが思い思いに座り込む。
その時。
「ぷる……。」
かすかな音が聞こえた。
悠真だけが顔を上げる。
岩陰で、小さな青いスライムが震えていた。
丸い身体。
透き通る青色。
手のひらほどの大きさ。
「……スライム?」
誰にも気付かれていない。
スライムは怯えたように後ずさる。
その視線の先には。
一匹の大きな洞窟ネズミ。
スライムを獲物として狙っていた。
「危ない。」
悠真は反射的に動いた。
木剣を振るう。
「はっ!」
ネズミは驚いて逃げ去る。
静けさが戻る。
スライムはまだ震えていた。
悠真はゆっくりしゃがみ込む。
「もう大丈夫。」
優しく手を差し出す。
「怖かったな。」
スライムは恐る恐る近付く。
そして。
ぷるん。
小さく悠真の指先へ身体を寄せた。
「……。」
悠真は自然と笑っていた。
「可愛いな。」
その瞬間。
ステータスカードが淡く光る。
《調教師》が発動しました。
条件を満たしました。
対象が契約を望んでいます。
「え?」
悠真が驚く。
次の瞬間。
青い光が二人を包み込んだ。
契約完了。
スライムが仲間になりました。
「ぷる!」
嬉しそうに身体を跳ねるスライム。
悠真は目を丸くした。
「仲間……?」
鬼塚が近付いてくる。
「神代。」
「どうした。」
悠真はスライムを見せる。
鬼塚は一瞬驚いたあと、小さく笑った。
「そうか。」
「テイマーだったか。」
周囲の生徒たちも集まる。
「え?」
「スライム?」
「最弱じゃん。」
「そんなの仲間にする意味ある?」
笑い声が広がる。
悠真は何も言わない。
腕の中で震えるスライムを、そっと撫でる。
「大丈夫。」
「一緒に頑張ろう。」
スライムは嬉しそうに身体を震わせた。
「ぷるっ!」
その声を聞いた瞬間。
悠真は自然に口を開く。
「今日から。」
「君の名前は――。」
「ポム。」
「ぷる?」
「よろしく。」
「ポム。」
「ぷるーーーーっ!」
小さな身体が、嬉しそうに飛び跳ねた。
その光景を、白い世界からアーカスが静かに見つめていた。
「出会えたね。」
優しい笑みを浮かべながら、彼は小さく呟く。
「最弱と呼ばれる者同士。」
「だからこそ、誰よりも強くなれる。」




