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宣戦布告

「そこ!狙いが甘い!試合は間近だぞ!」

遠藤の檄が飛ぶ。

「シード校だからといって油断はするな!そこ!残心を崩すのが早い!礼に始まり礼に終わる!」

秋めいてきたとは言え日中の日差しは厳しい。

ハァハァと息を切らしている部員たちを見て遠藤はチラ、と時計に目をやると、

「15分の小休憩!各々しっかりと水分補給!」

そう言って弓道場をあとにした。

「9月も半分過ぎたのに…暑さのぶり返しやばいよね…」

弥生が汗を拭きながら紅葉に話しかける。

紅葉は水筒の中のスポーツドリンクを飲みながら、コクリと頷いた。

(暑い…しキツいけど…)

あの日の高橋杏奈の姿が脳裏をよぎる。

(あの子に勝つためには短期集中でとにかく稽古しかない…)


と、その時だった。

弓道場の隅、ネットの張り巡らされた木立の中に人影。こちらにひらひらと手を振っている。

「⸺ッ!」

見まごうはずもない。高橋杏奈。

制服姿でこちらに手を振っている。

紅葉は弓道場を飛び出すと杏奈のもとへと走り出した。

「や。見に来ちゃった。やるじゃん。」

ボーイッシュに切りそろえた髪をくるくると指で弄びながら杏奈はカラカラと笑う。

「そっちも視察に来たでしょ?お互い様ってことで。」

そう言って杏奈は紅葉の肩に手を置いた。

「ウチ⸺今年は負ける気ないから。それだけ言いに来た。麻生さんも本気だからね。」

紅葉は杏奈を見上げる。170cm程あるだろうか。

「望むところ。今年はウチも優勝狙ってる。」

鋭い眼差しで紅葉がそう答えると、杏奈は

「上等。絶対に勝ち上がってくる。待ってて。」

そう言ってひらひらと手を降るとその場を後にした。


(体格差では不利…わかってる…)

紅葉は先程手を置かれた肩を擦る。

(でも…)

そして去っていった杏奈を見据えると一言。

「私達にも私達の思いがある。絶対に譲らない」

そして踵を返すと弓道場に戻って行った。

弥生が駆け寄ってくる。

「さっきの…。」

不安げな表情の弥生に紅葉は強く頷くと、

「絶対負けないって言われた。宣戦布告されちゃった。でもそれはウチも一緒。さ、稽古に戻ろう。」

そう言いながら弓矢を手にする紅葉を見た遠藤の脳裏に遠いあの日の自分が重なる。

(受け継がれるものか…。)

遠藤はふっと笑うと次の瞬間にはまた険しい表情に戻り指導にあたり始めた。


その日の稽古も授業も終えて、紅葉はマイクロバスの中で書いたノートを見返す。

(身長と筋肉のつき方は今更どうこうできない…だとしたら…)

シャープペンシルをカチカチとノックすると、カリカリと何かを書き綴ってゆく。

「紅葉。少し寝ないと…。」

ヨイチが話しかけるが紅葉の耳には届いていない。

そのときだった。

「みゃっ!?」

不意にヨイチの体が宙に浮く。

イナリがそっとヨイチを抱き抱え、口元に指を立てる。

(好きなようにさせてやれ)

眼差しだけでそう語りかけられて、ヨイチは髭を下に垂らしながらベッドに降りた。

(絶対的な集中力…アレと一緒だね…。余三郎よ…お前さんは…どこをほっつき歩いているのやら…)

イナリが窓の外を見る。

下弦の月が登り始め、ざわざわと叢雲が走る。

「会いたいのは…わたしもそうなのだがね…」

聞こえるか聞こえないかの声でイナリが呟く。

そのかすかな声はベッドでふて寝を決め込んだヨイチの鈴の音にかき消されていった。

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