8・公爵様が私(大人版)を好きすぎて困っています
「そ、そうですか?」
「まあ、魔石の再生なんて前代未聞の貴重な方法、利用したいと考える奴も多いだろうけどね」
そうですよね~。そういう面倒ごとが嫌だから、隠しておきたかったんですけどね~~~。
「他の悪い奴に目をつけられる前に、俺に守られたほうがいいと思うな。幸い、俺には君と、君の家族を守れる地位がある。なに、悪いようにはしないよ。魔石の再生方法を教わる代わりに俺が君達を保護すると、正式に魔法契約書を交わそう」
ルヴェール様は、にこにこと笑っている。
一見、穏やかで爽やかに見える……けれど、やっぱり腹黒な匂いもする。
魔石の再生方法を、別の貴族や商会には渡さず、独占したいということだろうか? 自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ大発見だもんなあ。
知られればいろんな人から狙われるのは事実だし、公爵様が後ろ盾になってくれるというのなら、私にとっても悪い話ではない。
悪い話ではないけれど……なんだかずっとこの公爵様に手の上で踊らされているようで、不信感が拭えない。
「お言葉ですが、平民の子ども相手に、成人した貴族であるあなた様が契約を持ちかけるなんて、公平とは思えません」
ちゃんと契約を結べば安心というのは、まやかしだ。書面に、しれっとこちらに不利な契約を盛り込まれてしまえば元も子もない。むしろ、契約を交わしてしまったら解消するのが困難だからこそ、慎重に行うべきである。
「子ども、か。……今までの物言いからして、君は、まるで大人のようだけどね」
(大人のようって……やっぱり、正体がバレている⁉)
「君くらいの歳の子なら、『自分はもう子どもじゃない』と背伸びするくらいのほうが自然だと思うけど。自分から『平民の子ども』と言うとはね。それ以外にも、君の発言は子どもの枠から外れたものが多い」
「お、おほほ。いや~、私ってば変わり者ですのでぇ」
自分の正体は隠しておきたい。私は公爵夫人になんてなる気はないし、まして転生者なんてバレたら、何に利用されるかわかったものじゃないし。
「ふうん……まあいい、話を戻そう。不当な契約を結ばれることが心配なんだね、当然の自衛だ。もちろん、契約の際は君の保護者に主体となってもらい、内容について協議・確認の後、正式にギルドの、魔法契約担当責任者に立ち会ってもらう。君の母親はギルドの受付だから内部や責任者のことにも詳しく、責任者が信用に足るかの判断もつくはずだ。もちろん、契約にかかる費用は全てこちらで出す」
(……悪い条件ではないけど)
「なら最初から、私の母のもとへ行けばよかったのに。わざわざ子どもである私のところに来るなんて、幼い子なら懐柔しやすいと思ったからでは?」
こんなこと、わざわざ口にするメリットはないのだろうけど。やっぱり私は人を疑ってしまう性質だし、コミュニケーションが上手くいかない。
だけど公爵様は気分を害した様子もなく、優美に微笑んだままだ。
「いいや。ただ俺が君と、もっと話してみたかっただけさ」
「おやおや、それは口説き文句でしょうか?」
公爵様ほどの地位と美貌をお持ちなら、相手には不自由しない。だけど、私を惚れさせれば、てっとり早く魔石再生の方法を聞き出したり、利用できる。
「まさか。俺には、愛する人がいるからね」
ぐふぅ。しまった、自ら墓穴を掘るような真似をっ!
「前も言った、森で出会った女性。弟の命の恩人だ。名前も知らないけれど、本当に素敵な人だった。傷ついた他者のために迷わず治癒魔石を差し出す、心優しい人だ。俺は公爵としてこれまで数多の人間と出会ってきたが、あれほど心の美しい人は初めてで、この胸は感動で熱く燃え……」
私への賛辞を、ルヴェール様はあらゆる美しい言葉で装飾し、歌うように紡ぐ。
あああ~、美化しすぎです。その女性は、目の前にいるちんちくりんですよ。
……でも、こんな腹黒そうな人でも、私の正体に気付くってことはないんだねぇ。
ふふ。一見完璧そうに見えても、ちょっと抜けてるんだ。それに関しては、少し面白いかも。
「そういえば、レーラ。彼女は、我が領地の鉱山でも採掘できないような、強力な治癒魔石を持っていたんだが。心当たりはあるか?」
ルヴェール様はそう言うと、懐から魔灰を取り出して見せた。
そういえばあのとき、あまりにも急いでたので、魔灰をそのまま落として逃げちゃったんだよね。
にしても、この世界において汚いゴミ扱いの魔石を、懐に入れて持ち歩くとは……相当ですね。ガラスの靴を持ってシンデレラを探す王子様かな? お探しのシンデレラは、あなたに会うために変身していたわけではありませんが……。
(しかし、どう答えよう?)
公爵様にはぜひ、美化されすぎた夢から覚めてほしい。そして不毛な恋は諦めていただきたい。
だからこそあえて、夢をぶち壊すことを言ってみた。
「じ、実は……私が作った癒し魔石が、盗まれたんです! その人が犯人かもしれません!」
ふはは、どうだ。命の恩人と思っていた人が実は盗人なんて、ドン引きでしょ。
これだと大人版の私が盗人ということになってしまうけど、まあ私の本来の姿はこっちなんだから、二度と大人の姿に変化しなければいいだけだし。
「へえ……」
さあルヴェール様、幻滅してください! そしてもう、大人版の私に夢を見ないでください!
「彼女は、自身も困窮していたというのに、目の前で困っている人を見過ごせなかったんだな。なんて心が清らかな人だ……ますます好きになったよ」
おおーーーーーーーい、まさかの好感度アップ⁉⁉⁉
「いやいや、盗人ですよ⁉ おかしいでしょう!」
「きっと、何か事情があったんだろう。結果としてその魔石は弟の命を助けてくれたし、俺の心も救われた。彼女が素晴らしい人であることに変わりはない」
ルヴェール様はただでさえ美形なのに、愛する人への想いで無駄にキラッキラしている。恋の力、恐るべし。
「とはいえ、君にとっては災難だっただろうし、盗みによる損害額は俺が保障するよ」
「い、いえいえいえ! ルヴェール様のせいではございませんので!」
「遠慮しなくていい、金銭には困っていないからね。ひとまず、大金貨三十枚くらいでいいかな?」
そ、そんな大金をポンと出さないで! 公爵様にとっては大した金額じゃないのかもしれないけど、平民はそんな金額言われたら、焦りまくりますからぁー! しかも盗まれたとか嘘だし!
「もちろん足りなければ上乗せするとも。さあ、好きな額を言ってくれ」
「ほ、本当にいいですからーーーーーーーっ!」
読んでくださって誠にありがとうございます!
ブクマ・評価などもとっても嬉しいですー!!
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