7・公爵様との再会と、魔石再生について
リヒューティとトラッシュが、ルヴェール様によって追い払われてから、数日後。
もう買い物に制限もなくなり、私も家族も平穏な日々を送っている。
(ルヴェール様が、私の大人版に恋してしまったとか言ったときは、何事かと思ったけど。別に正体がバレたわけじゃないし、あれ以降も特に何もないし。このまま平穏な日々が続いていくよね!)
そう考え、鼻歌交じりに掃除人の仕事をしていると――
「やあ、レーラ」
「ごふぅっ!」
突然、爽やか笑顔のルヴェール様が現れて、私は飲み物を飲んでいたわけでもないのに噴き出してしまった。
「ル、ルヴェール様、ご機嫌うるわしゅう。ここはレヴァイゼ領でもないのに、何かご用でしょうか? しかも、こんな地元住民でも近寄らないような場所に……」
現在地は、この辺りで有名な魔灰放置場……いわゆるゴミ溜めのような場所だ。魔灰は汚らわしい物扱いだから、家に置いておきたくない人が捨てに来るのである。
「君に会いたくて来たんだ、レーラ」
(まさか私の正体がバレた⁉)
「君の家が魔石の販売を禁止されていたことについて、詳しく話を聞きたくてね」
(あ、よかった。正体はバレてないっぽい……)
「話? どのようなお話ですか」
「いや、少し不思議でね。君の家は、約ひと月ほど魔石を売ってもらえなかったそうじゃないか。なのに特に生活に困っていた様子はないと、街の人々から聞いてね」
ぎくーん。
やばいやばい。ルヴェール様は魔石の鉱山を所有する公爵様だ。魔灰から独自に魔石を作っていたなんて知られたら、面倒なことになりそう!
「魔石が、たくさん家に買い置きしてあったんです。魔石がなくなるたびに買いに行くのは面倒だからまとめ買いしておいただけなんですが、そのおかげで助かりました」
「そんなことはないだろう? あの魔石店の店主から話を聞いた。君の家は、事前に大量の魔石を購入なんてしていなかった。だから、君達家族がいつまでも不便そうにしていないのを陰から見ていて、不思議に思っていたそうだ」
一瞬で嘘ってバレた! 既にそこまで調べてあったんかい!
「いえ、それは、あの」
「だから、思ったんだ。もしかして君は、独自に魔石を入手する、なんらかの方法を発見したのではないかと」
「ま、まさかぁ。そんな方法あるなら、ぜひとも教えていただきたいくらいですよぉ~」
「ちなみに、君が仕事帰りに魔灰を持ち帰るところを見かけたという者がいる。魔灰のような汚いだけのゴミを、わざわざ自宅に持ち帰る人間など普通ありえないので、珍しくて印象に残っていたそうだ」
おのれ、誰だ余計なことを言った奴は。
というか別に、魔灰、汚くないですからね? この世界では汚らわしいもの扱いだけど、単なる灰色の石だし、匂いもないし。人間の心のほうがよっぽど汚いからね(※あくまで個人の感想です)。
「う……うふふ。私のことを調べたならご存じかと思いますが、私、誰もやりたがらない掃除人の仕事を好んでやっているような変人でして……。ゴ、ゴミとか大好きなんです! いい感じの魔灰をコレクションするのが趣味でして!」
「へえ。今までそういう趣味の人と出会ったことがないから、興味深いな。じゃあ、その魔灰コレクションというのを見せてもらえるかな?」
ぎくぎくーん! 魔灰は全部、魔石再生の素材として使っちゃったから、今、家には全然ない! 嘘がバレてしまう!
「いえいえ、公爵様にお見せするようなものではありませんので!」
「はは、大丈夫だよ」
ルヴェール様は、にこにこと柔らかな笑みを浮かべて言った。
「そもそも嘘だということは、わかっているからね。正直に言ってくれて大丈夫だよ?」
ひーーーーー! 魔石を勝手に再生してたってだけでもヤバいのに、公爵様に嘘を吐いたなんてバレたら、もうおしまいでは⁉
「ふふ、冷や汗をかいている……君はわかりやすいね。でも別に君を罰するつもりなんてないから、安心してほしい」
安心できない。
だって、私は魔石の「再利用」だと思ってるけど、もしかして「密造」扱いされる可能性だってあるし。ひ~、緊急事態だったから仕方なかったんです。私だけのことならともかく、家族のことはご勘弁を~!
青ざめてガクブルしていると、ルヴェール様はそっとその場に膝をついた。
「なあ、レーラ」
彼は、私に目線を合わせてくれる。
その仕草から、安心させようとしてくれていることが伝わってきた。
「あ、あの⁉ 公爵様ともあろう御方が、平民と目線を合わせるなんて……」
「身分が違っても、同じ人間として、同じ目線で語り合いたいだけだ。……俺の勘違いでなければ、君には何か事情がありそうだ。嫌なら無理に話す必要ないが、もし複雑な事情を抱えているようなら……俺なら、力になれる」
「…………」
「またあのリヒューティみたいな奴らが面倒ごとを起こしても、俺なら守ってあげられる。俺に打ち明けることは、君にもメリットがあると思うな。公爵家の力を借りられる、という点で」
(……悪い人じゃ、ないのかな?)
真摯に語られ、人間不信な私でも、うっかりそう思ってしまいそうになる。
とはいえ、そもそも「いい人」「悪い人」という括りで人を分類すること自体が危険だけど。
人は多面だ。トラッシュだって、最近の動向は本当にクズだけど、昔は優しい面もあった。だからこそ母さんも結婚したんだろうし。
人はいい面も悪い面も……「私にとって」いい面も悪い面もあり、そのときどきで、どちらに傾くかはわからない。
というか、何より……。
密造の罪で捕まるのは、やっぱり嫌ぁぁぁぁぁぁ!
公爵様が私のことをどこまで理解しているのかはわからないけど、さすがに魔灰から魔石を作っているとは思っていないはず。隠し通せるものなら隠し通したいっ!
「大変ありがたいお言葉、感謝申し上げます。ですが、お気持ちだけで充分です。どうぞ私のような者に構わず、公爵様は公爵様を必要としている人々に手を差し伸べてくださいませ(※訳:お貴族様と関わるのとかやっぱ怖いんで、よそ行ってください)」
「ふむ、そうか……」
ルヴェール様は目を伏せる。長い睫毛の影が目にかかり、憂いを帯びたその表情は、まるで芸術品のようだ。
「そこまで頑なに話せないとなると、つまり盗みかな。まさか、助けた相手が窃盗犯だったとは……」
「盗んでませんっ! 魔石を再生する方法を見つけたんですぅぅぅ!」
「おや、それはすごいな。正直に言ってくれて嬉しいよ」
ルヴェール様はニコニコと笑っている。最初から、こうなることを狙っていたように。
「……さっき、嫌なら話さなくていい、とおっしゃいましたよね?」
「ああ、もちろん。別に話さなくてもよかったんだよ? 俺は君を罰する気なんて毛頭ないからね。ただ、君のほうから打ち明けてくれたんだろう? 事情がわからないと俺も君を助けようがないから、話してくれて助かるよ。ありがとう」
白々しい! 今のはどう考えたって、話さざるをえなかっただろうが!
一瞬でも信用しようとしたのが間違いだった。この人は腹黒だ。
「にしても、魔石の再生とは……。とても、興味深いね」
「あ、あの。追い詰められてと言いますか、不可抗力と言いますか。私の家で個人的に使用していただけで、誰かに売ったりはしておりませんので、何卒ご勘弁を」
「勘弁も何も、何度も言っているが、俺は君を罰する気はない。実際、魔石の販売を禁止されるなんて、君は辛い状況にあった。そんな中で、必要に迫られて魔石を再生する方法を編み出した。――罰せられるどころか、賞賛されるべきことだよ」
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ・評価なども、本当に嬉しいですー!!
明日からも昼と夜の一日二回投稿予定です。
今後もレーラ達をよろしくお願いいたします!





