5・ゴミ人間達の再来
●トラッシュ&リヒューティSIDE
オルデュール商会が、レーラの家に魔石販売を禁止するよう手を回してから、ひと月経った。
エリーとの離縁をすませ、隣の領地にあるオルデュール邸で新婚として暮らしていたトラッシュとリヒューティだが、レーラ達の様子を見るため、また彼女達の住む街へやってきていた。
「あいつら、魔石が使えなくて困ってるだろうな~。寒さに凍えているだろうし、コンロでスープを作って食べることすらできない」
「ふふっ、無様よね~。さすがにかわいそうだし、助けてあげましょうか」
レーラ達への魔石販売を禁止するよう命令したのは自分達なのに、「助けてあげる」と、まるで自分達が正義のような言い方だ。
この二人の中では、あくまで悪いのはレーラ達で、自分達は正義の鉄槌として罰を与えただけで、慈悲深いから最後には助けてあげる、というストーリーができ上がっていた。
二人は惨めな生活を送っているレーラ達を拝んでやるため、こっそり彼女達の家を覗き見る。すると……。
「皆~。お夕飯できたわよ。温めたチーズを載せたパンに、野菜と燻製肉のスープ。果物もあるわ」
「やったー、母さんの作るスープ、大好き!」
「チーズのっけたパンもうまい! チーズが溶けてトロトロだ~」
幸せそうに食卓を囲む一家を見て、トラッシュとリヒューティは呆然としていた。
魔導暖炉には温かな火が灯っており、テーブルの上には湯気を上げる食事。それを笑顔で食べる家族達。どこから見ても、困っているようには見えない。
「ど、どういうことだ……?」
「もしかして、魔石を大量に買い置きしてあったのかしら? 平民のくせに、小賢しい……!」
「……全然辛そうじゃないな。むしろ、幸せそうだ……」
言いながら、トラッシュの中に怒りが込み上げてきた。
「俺がいなくなったのに、なんで笑ってるんだよ⁉ もっと寂しそうにしてるべきだろ! 薄情な奴らめ!」
「そうよ。もっと悔しそうにして、惨めな生活送ってるべきなのに……! いやまあ、こんな庶民の生活、私から見たら惨めだけどね!」
身勝手なことをしたのは自分達なのに、レーラ達が幸せそうだと、腹が立って仕方がない。二人は、どこまでも性根が腐っていた。
「こうなったら、もっとあいつらを懲らしめてやりましょう!」
「そうだな! 薄情な奴らは、しっかり反省するべきだからな!」
◇ ◇ ◇
●レーラSIDE
「すみません、パンを四つください」
「……悪いけど、売れないんだ」
「え?」
ある日のこと。いつも通り街のベーカリーでパンを買おうとしたら、お店の人からそう言われた。
「うちも、あんたの家の人間に売るもんはないよ」
「とっとと帰れ!」
他のお店でも、冷たく追い出されてしまった。
昨日まで、魔石店以外では普通に買い物ができていたのに、明らかにおかしい。
(こんなことをするのは、確実に……)
「ふふっ、困っているみたいねぇ」
振り返ると、想像した通りの人物が立っていた。
リヒューティとトラッシュだ。
「この辺り一帯に、話はつけているわ。あんたは今後、どのお店も出禁よ、出禁!」
オルデュールは大商会であり、特に主要商品は、魔石を用いた最先端の魔道具だ。コンロやオーブン、冷蔵庫など。
この街でも、オルデュールが取り扱う魔道具を用いて商売をしている店は多い。
だからこそ、オルデュール商会を敵に回すわけにはいかない。
……だけど、私のような小娘を敵に回しても、痛くも痒くもない。
つまりは、そういう判断だったのだろう。
「いやあ、大変そうだなあレーラ! このままじゃ、この街じゃ暮らしていけないなぁ」
「あははっ、いっそこの街から出ていく~? それとも……今この場で、私達に頭を下げて謝る?」
「私があなたに、何を謝るっていうんですか?」
「決まってるでしょ! 私達への無礼な発言よ!」
「謝るのはあなたのほうでしょう。既婚者に手を出したうえ、こんな陰湿な手段まで使って追い詰めるなんて、恥ずかしい人ですね」
「この……!」
リヒューティは美しい顔を般若のように歪め、私に何か投げつけてきた。
……灰だ。
この国では灰は不浄なもの。つまり、私への嫌がらせのために、わざわざ持ってきたのだろう。
「きったない掃除人の分際で! あんたなんか、無様に灰を被っていればいいのよ!」
……馬鹿馬鹿しい。こんなことをすれば、私が泣くとでも思っているんだろうか?
灰を被るくらい、どうってことない。まるでシンデレラじゃないか。
もっとも、王子様なんていないし、いらないけど――
「おい」
――え?
声に驚いて、振り返る。すると、そこに立っていたのは……。
……この前、瀕死の少年の傍にいた男性だ。
その男性を見て、リヒューティが目を丸くした。
「こ……公爵様⁉」





