4・治癒魔石で困っている人の命を救いました
ある日のこと。私は、森を訪れていた。
今後リヒューティが、魔石以外、どこまで他の商人に手を回してくるかはわからない。
だから今のうちに食料を確保して、保存食でも作っておこうかと考えたのだ。
今は秋。森に行けば、野草や茸、果物も採れる。
たくさん食べ物を持ち帰るために、今日の私は変化魔石で、十代後半くらいの女性の姿になっている。この姿なら普段より体力もあるし、歩幅も広い。
そんなわけで、せっせと食料を集めていると――
「ん?」
森の中に、人が倒れているのを発見した。
小さな男の子だ(といっても、この世界での私よりは年上そうだけど)。何者かに襲われたのか、血を流して倒れている。
その横では、男の子の家族なのか……黒髪の青年が、ひどく心配した様子で男の子に声をかけ続けている。
私は、彼らのもとへ駆け寄って、声をかけた。
「大丈夫ですか⁉」
こちらを振り向いた青年は、悲愴な表情を浮かべていた。
だから私は、言った。
「どうせ人間にやられたんですよね⁉ 人間ってほんと愚かですから!」
「……君は魔族か何かか?」
「はっ⁉ いえ違うんです、私は人間です! だから私も愚かなんですぅ!」
人間は愚かだ。そんな中で、自分だけ違うと思うのは傲慢だ。
人間は愚か、つまり私も愚か! 驕るつもりはありません、平等です!
ただ、人間が愚かであっても、目の前で死にそうになっていたら、放ってはおけない。
「この子は、俺の弟なんだが。……魔獣に襲われたようなんだ」
あ、原因は魔獣でしたか。人間じゃなかったんですね。
弟がもう助からないと思っているのか、青年の顔は深い絶望で染まっていた。
「待っててください。今、治しますから!」
「え……?」
私は鞄に入れていた治癒魔石を取り出す。
この森は食料になるものも多いけれど、魔獣も多いため、襲われたら自分で治癒できるように、持ってきておいたのだ。
起動石を使って効果を発動させると、少年は真っ白な光に包まれて――
次の瞬間、その身体から傷は全て消え、苦痛に震えていた吐息も落ち着いた。
「あ……れ……? 痛くなくなった……」
「フェリル……! 大丈夫なのか⁉」
「うん……! すごい、痛いのも苦しいのも、全部なくなったよ……!」
「よかった……本当によかった……!」
青年は、少年を抱きしめて涙ぐむ。いい光景だなあ。
なんて、もらい涙していたら、青年はこちらを振り返った。
「今のは、治癒魔石か? しかし、これほど強力な効果があるとは……?」
えっ? もしかして私が再生した魔石、普通の魔石より効果が強いの?
普通の治癒魔石の威力を知らないので、よくわからない。今使った魔石も既に、魔灰と化してしまったし。
「あなたは、一体……?」
青年がじっと、私を見つめる。
……ていうか、あれ? この人の服装、明らかに上質じゃない?
人間に興味がなさすぎてあまり容姿を見ていなかったけれど、身に着けているものが明らかに高価そうだ。
髪は艶があって黒絹みたいだし、瞳は青い宝石みたい。人間は皆ゴミだから造形とかどうでもいいけど、多分この人は一般的に言う「美形」なんじゃなかろうか。
いやまあ、美形とかそういうのはともかく。
この人、貴族じゃないか?
そう気付いて、さーっと血の気が引いていく。
どうしよう。目の前で小さい子が死にそうになっていたらそんなの嫌すぎて、とっさに魔石を使っちゃったけど。
この状況、やばくない? 私みたいな平民が治癒魔石を持ってるなんて、明らかにおかしい。盗みを疑われるかも。
ていうか、身分の高いお貴族様とか、関わりたくない!
無事でよかったとは思うものの、それとこれとは別。ニンゲン、コワイ!(※私も人間です)
「あの! 私、名乗るほどのものではありませんので!」
「待ってくれ! あなたは弟の命の恩人だ。何か礼をさせてほしい」
「え? いやその、えーっと」
冷静に考えれば、律儀に答える必要なんてなくて、何も言わず逃げてしまえばよかったのかもしれない。
だけど私は超コミュ症。知らない人、しかもお貴族様にそう言われて、混乱して、思わず口走ってしまったのだ。
「優しくしてもらったら、いつか自分も誰かに優しさを与えるのが、いいんじゃないでしょうか。……もし何か機会があったら、困っている人を助けるとか……平民にも優しくしてください」
この世界は生活水準が高いほうではあるけれど、それでも身分制度の社会ではある。
リヒューティは貴族でこそないものの大商会のお嬢様で、それを利用して平民である私達一家を追い詰めているわけだ。
ただでさえ人間はゴミなのに、これ以上そんなゴミ人間が増えてほしくない。
身分を盾に、平民を軽んじるような真似はしてほしくなかった。いやこの人がそんな人なのかはわからんけど。
「それじゃ、私はこれで!」
もはや自分でも何を言っているのかわからないまま、猛ダッシュで逃げたのだった――





