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3・魔灰の再利用

 子どもである私の口から、こんなにすらすらと責める言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。彼女はピシッと固まっていた。


「それに、父さん……ううん、もう父さんなんて呼びたくもない。トラッシュさんもありえない。せめて、もっと早く私達に知らせて、慰謝料や養育費のこともちゃんとしてから離縁するべきだったでしょう? 真実の愛とか言うなら、彼女に手を出す前に誠実な対応をするべきだったよね。トラッシュさんも、リヒューティさんも人として最っっっ低。ゴミ以下だよ」

「あんたねえ、黙って言わせておけば……!」

「わっ!」


 リヒューティが、私を突き飛ばした。

 母さんが「レーラ!」と受け止めてくれたけれど、母さんがいなかったら思いっきりお尻を床にぶつけていただろう。


「なんて礼儀知らずなガキなの、母親に似たのね! 私にそんなことを言ったこと、後悔させてやるから!」


 そう言って、トラッシュとリヒューティは出ていった――



 ◇ ◇ ◇



 数日後のこと。

 母さんと、お店で魔石を買おうとしたときのことだ。


「すみません。火と水の魔石をください」

「……もう、あんたのところに魔石は売れないよ」

「え? どうしてですか?」

「あんたらの家の人間に魔石を売るなと、ある人から言われたのさ」

「……オルデュール商会が手を回したんですか? うちの家族に魔石を販売するな、と」


 いつも普通に魔石を売ってくれていた店主が、煙たがるように私を見下ろす。


「何があったのか詳しいことは知らないが、大商会のお嬢様を敵に回すような真似をするのが悪いんだろう。自分の立場を弁えていればいいものを」


 ……詳しいことを知らないし、知ろうともしないのに、説教だけはするらしい。


 まあ、人間はゴミ以下だからね。そんなことよくわかっていたはずなのに、まだ怒りが湧いてくるなんて、私はいまだに人間に期待していたんだろうか。いけないいけない。人間に対する希望なんて、ちゃんとゴミ箱にポイしなきゃね!


「ニンゲン……オロカ……」


 うっかり魔族のような言葉が口から漏れてしまう。私自身も人間なんだけどね。

 結局私達は魔石を売ってもらえないまま、家へ帰ることになった。


「……レーラ。ごめんね、辛い思いばかりさせて」

「母さんが謝ることじゃないよ! 悪いのはトラッシュとリヒューティなんだから」


 ……とはいえ。

 火の魔石がなければ、魔導コンロで調理をしたり、魔導暖炉で部屋を暖めたりもできない。

 水の魔石がなければ、魔水道から水を出すことも、洗濯をしたりお風呂に入ったりすることもできない。

 魔石の販売を禁じられるということは、インフラを止められたようなものだ。


(私が、余計なことを言ったせい?)


 母さんは私達のことを考えて、辛かっただろうに怒りを抑え、穏便にすませようとしてくれていた。

 トラッシュとリヒューティの怒りに火を点けるようなことを言ったのは、私だ。


(いやいや、向こうが悪いんだから、逆ギレするほうがおかしいでしょ)


 それより、今後どうするべきか考えたほうがいい。

 ずっとこの状況が続けば、私達は水さえろくに飲めない日々を送ることになるのだから。


(魔灰だったら、いくらでも手に入るのに。はーあ、魔灰を再利用することができたらいいのになぁ)


 ――ん? 再利用?

 なんとなく思いついただけのアイディアだけど、興味が湧いた――



 ◇ ◇ ◇



 翌日、家族が寝静まった頃。

 私は台所で、とあることを試していた。

 用意したのは、いくつかの魔灰。これはただのゴミだから、持ち帰っても咎められることはないのだ。


 魔灰は全部同じ灰色だけど、私は毎日掃除人の仕事をしてきたため、指先の感覚で、なんとなく元の魔石がなんだったか判別できる。なので魔灰を「元はなんの魔石だったか」で分別してゆく。


 そして分別したものを、まずは砕いた。魔灰の硬度はガラスくらいだ。割れた欠片が散乱しないよう厚めの布で包んで、金槌で叩く。一個だけじゃなく、何個か粉々に砕いた。それを小鍋に入れ、魔導コンロの火にかける。液状になったものを、買い置きがあった氷の魔石を使用して冷却する。すると……。


(……!)


 もとは魔灰だったものが、小鍋の中で、艶やかな青い固形物になっている。


(色は、魔石そのものだけど……ちゃんと使えるかな?)


 魔石を発動させるには、「起動石」というものを使う。

 魔石を使うような人間には魔力がないから呪文など唱えても無意味だし、念じるだけで魔石が発動してしまうなら誤作動もありえるので、便利だと思う。


 なお、魔道具の場合はもともと道具内に起動石が組み込まれているのが一般的で、スイッチを入れることで起動石が魔石に触れて稼働するようになっているそうだ。


 私は起動石を取り出し、試しに作った水の魔石に触れさせた。すると……。


「!」


 魔石から、問題なく水が出てくる。


 再度起動石を触れさせれば、普通に水が止まった。便宜上「起動」石と呼ばれているけれど、ようするにスイッチのオン・オフを担う石であり、起動中の魔石に触れさせれば効果終了させることができるのだ。


(すごい! ただのゴミである魔灰から、魔石が再生できるなんて……)


 一体、どういう原理なんだろう。

 正直、ダメ元で試しただけで、本当に魔石ができるなんて思っていなかった。


 だって魔灰は魔力を使い果たしたカスみたいな物質じゃあないのか。空ペットボトルの容器はリサイクルはできたって、ペットボトルに元々入っていたジュースを元に戻すことなんて不可能だろう。やはり魔石は普通の宝石や結晶と違い、ファンタジーな物質なんだなと、あらためて実感する。


(もしかして……魔灰はそもそも、魔力を失ったゴミなんかじゃなかった、とか?)


 この世界では、魔力を使いすぎた人間や魔獣は、一時的に意識を失うことがある。

 そして魔石の元となっているのは、古代の魔法生物だ。つまり魔石とは、「石化した魔法生物」である。


 これは私の仮説にすぎないけれど、魔灰はもしかして、生物が魔力を使いすぎて休眠状態に陥っているような……「一時停止状態」みたいな感じなのでは?


 魔灰の状態でも魔力自体は奥底にまだ眠っていて、ただしそれを引き出すことができない、ロックされてしまっているような状態。

 そこに何らかの外的刺激を与えることで、休眠状態が解除される、とか。


 加熱や冷却が引き金となるのか。あるいは、魔力不足で休眠しているのであれば、他の魔灰数個融合させることで、少なくなった魔力同士も結合し、再度効果を発動できるようになるのかもしれない。


(これって、大発見なのでは……⁉)



 ◇ ◇ ◇



「おはよう。朝ごはんできてるわよ」


 翌朝、起きると母さんが朝食を用意してくれていた。

 テーブルの上には、私と双子の食事……パンとサラダが並んでいる。


「あれ? 母さんは食べないの?」

「ええ。お腹が空いていなくて」


 嘘だ。魔石の購入を禁じられ、危機感を抱いて、少しでも節約しなきゃと思っているんだろう。うう、健気な母さんだよ。


 でも、母さんが我慢する必要なんかない! 私は、昨日再生した魔石を取り出して見せた。


「ねえ、母さん。これ、見て」

「これって……魔石でしょう? でも、ちょっと歪ね。こんな魔石、買い置きしてあったかしら?」

「実はね、昨日の夜、魔灰を再利用して作ったの。形はちょっと歪だけど、ちゃんと使えるよ」


 起動石を用いて、水の魔石を使ってみせる。

 妹も弟も、目を輝かせた。


「すごい! これ、姉さんが作ったの?」 

「魔灰から、魔石を復活させたってこと⁉ ホントに?」

「もっちろん。大発見でしょー」


 可愛い妹と弟にキラキラした目で見られて、お姉ちゃんとして嬉しくて、胸を張ってみせる。


「魔灰なら、いくらでも手に入るもん。だから母さん、もう心配しないで。あんなゴミどものせいで、母さんが我慢したり苦しんだりする必要なんてないんだよ!」


 そう言って笑うと、母さんはじわりと目を潤ませた。


「……レーラ。ありがとう」

「母さん……?」

「あなたはトラッシュ達の前でも、私のために怒ってくれた。それに、私が悲しまないように、こうして魔石が買えなくても困らない方法を試してくれたのよね。……本当に、優しい子……」

「え、べ、別に。私は、そんな……」


 前世で人の悪意に晒され続けた私は、優しくされると、逆にどうしていいかわからない。

 思わずもじもじしてしまうが、照れながらも、なんとか言葉にした。


「だって私……母さんに、感謝してるから」


 私は前世では親からも愛されず、人間不信だった。

 この世界で初めて、家族の愛というものを知った。

 母さんが笑いかけてくれること、頭を撫でてくれること、抱きしめてくれること。

 その一つ一つに、いつも救われていた。


「だからこっちこそ、いつもありがとう、母さん」

「もう、レーラ……! 本当にいい子なんだから!」


 母さんは私を、ぎゅっと抱きしめてくれた。


(あ~。こうして、子どもとして親に甘えられるのって、いいなぁ)


「いいなー! 姉さん、わたしもぎゅーってする!」

「ふふ、おいでおいで」

「うん! ほら、シンも来なよ!」

「お、俺も? うーん、まあ、ちょっと恥ずかしいけど……」


 妹と弟もこちらへやってきて、皆でぎゅっと抱きしめ合う。


「ふふ。皆、いい子ね。母さん、幸せよ。本当に……」

「わたし達も、幸せー!」

「皆でいれば、何があっても大丈夫だよな!」


 笑顔溢れる、幸せな光景。

 私は、人間はゴミだと思っているけれど、今この時間は素直に幸せだと思える。

 胸がじんわりと温かくて、ちょっぴりだけ目の奥が熱い。


「魔石が買えなくても、魔灰を再生できるし、何も困らなくなった。でも皆、このことは、他の人には秘密だよ」

「どうして?」

「リヒューティ達にバレたら、今度は食品とかを売らないように手を回されちゃうかもしれないし。それに魔灰が再生できるなんて広めちゃったら、魔石をたくさん売りたい商人からも、余計なことしやがってって目をつけられちゃうかも。不用意に目立つと、敵を作る可能性があるから、黙っていたほうが得策だよ」

「そっか。姉さん、頭いい!」


 こうして魔石の再生が可能になり、今まで以上に魔石を贅沢に使えるようになった。

 そして、何度も失敗を重ねたものの、いくつか特殊魔石の生成にも成功した。

 特殊魔石の魔灰を再生したのではなく、別の魔石同士を掛け合わせると、稀に特殊魔石と化すことがわかったのだ。

 ただし、どういう法則で特殊魔石ができるのかは、まだわかっていない。


 特殊魔石の生成が成功したのとまったく同じ種類の魔灰、分量、手順で試しても、同じ魔石ができる確率は低い。大体は失敗して謎の物体になってしまい、起動石に触れさせてもなんの効果も発揮しない。


 特殊魔石についてはまだまだ研究していく必要があるけれど、普通の火や水の魔石については、もはや完全に再生できる。


「じゃーん、また火の魔石と水の魔石がいっぱいできたよ!」

「姉さん、すごーい!」

「てか、魔灰から、もとはなんの魔石だったのか判別できるのがすごいよ」

「うんうん。姉さんは触った感じでわかるっていうけど、わたし達には全然わかんないんだよねえ……」

「あはは、慣れだよ、慣れ!」

「わたし達も、姉さんみたいに掃除人のお仕事したほうがいいのかな?」


 妹と弟は今八歳で、掃除人としての仕事はしていない。

 だけどうちは母さんが冒険者ギルドで働いていることもあり、そのツテで、ギルドの雑用などをこなして、少額だがお金を稼いでいる。賃金だけでいえば掃除人のほうが上だから、それを気にしているのかもしれない。


「掃除人の仕事は、私には向いてるってだけ。二人は自分の好きなことをすればいいんだよ。適材適所!」


 魔石は今後無限にゲットできるし、私達には仕事もある。

 トラッシュとリヒューティは、私達が苦しんで「すみません、私達が悪かったです、もう勘弁してください」と音を上げることを望んでいるんだろうけど。あなた達の望み通りになんて、ならない。


 私は、今傍にいてくれるこの家族達と、幸せになってみせる!

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