23・公爵様とのデートの始まり
瞬く間に、祝祭当日となり――
私は変化魔石で大人の姿になって、約束の場所でルヴェール様を待っていた。
(ふふふ……さあ、どん引きしなさい、ルヴェール様っ!)
本当はそんな気なかったのに、二人で祝祭に行くことになってしまい(私が本につられて返事をしてしまったので、完全に自分のせいだが)私はささやかな抵抗をすることにした。
今日の私の装いは、この国において超絶センスが悪いものだ。奇抜な柄物と柄物を組み合わせ、街を歩けば人に指をさされて笑われるであろう、変な格好。
この格好を見たルヴェール様が私に幻滅して、「やっぱり一緒に祝祭に行くのはやめよう」と言ってくれたら万々歳である。
(完璧な作戦! さあ来い、ルヴェール様!)
気合いを入れてぐっと拳を握りしめていると、ルヴェール様がやってきた。
……な、なんか今日は一段とキラキラしている気がする。普段から美しい人だけど、もはやオーラすら違うというか……愛する人との逢瀬だから、向こうも気合いを入れてきたのだろうか? こんな人が街をウロウロしていたら、ご令嬢達がメロメロになって卒倒するのでは?
「来てくれたんだね、会いたかったよ。おや、その格好は……」
「ふふ、どうですか、この格好⁉」
さあ、幻滅してください、ルヴェール様っ!
彼はじっと私を見つめ、にっこりと微笑んで――
「素晴らしいな……どんな格好をしていても、君はいつでも美しく、可愛らしい。今までのファッションの常識とは違うが、あまりに斬新で、芸術性を感じる。これは、新しい時代の幕開けかもしれない」
そんなわけあるか! 時代の幕なんて上がりません! 早急に下ろしてください!
「君はどんな格好をしていても素敵だけど……実は君のために、服を用意しておいたんだ。せっかくの祝祭だからね」
「わ⁉」
ルヴェール様がぱちんと指を鳴らし、私を囲むように、光の壁のようなものが生まれる。
「誰からも見えないので、安心して着替えてほしい」
なるほど。確かにこの魔法は、光の試着室みたいだ。眩しいわけでもないし、綺麗。
ルヴェール様に魔法鞄を渡され、中には私のための衣服が入っていたので、おとなしく着替える。彼に幻滅してほしかっただけで、さすがに私も、この格好のまま王都に行きたくはないし。
上質な服に靴、そして首飾りなどの装飾品。全て着替え終わり、光の壁の外に出ると――ルヴェール様が、目を瞠った。
「どうかなさいましたか?」
さっきの奇抜な格好と違い、普通に服を着ているのだから、何も驚くことなんてないだろう。
小首を傾げると、ルヴェール様は微かに目元を染め、気恥ずかしさを隠すように口もとを手で覆った。
「いや……想像以上に美しくて、驚いた。目を奪われる、というのは、こういう感覚なんだな。初めて知ったよ……」
「え? ……う、あぅ」
……甘くて、心がくすぐったい感覚。
別に私はルヴェール様に恋愛的な気持ちを抱いているわけでもないのに、そんなにまっすぐ愛を伝えられたら、どうにも落ち着かない。なのせそんなこと、前世も含めて一度も言われたことがありませんから!
ルヴェール様は自分を落ち着かせるように息を吐き、あらためて私を見つめた。
「そうだ……ずっと知りたかったんだ。君の名前は?」
「ハイネです」
なお、元の世界での私の名前である「灰音」からとった。元の世界での私の、平凡な容姿と似合わない名前であるため、よくからかわれたものだが……他の名前で呼ばれてもしっくりこないし、一日限りの名前なのだから、これでいい。
「そうか。今日は来てくれて本当にありがとう、ハイネ」
「いえ、その……単刀直入に言いますが、私は本のために来ただけで、公爵様に対する興味はございませんので。そこはご理解くださいませ」
「なんて正直なんだ。表面だけ取り繕って陰で悪口を言う人間よりずっといい。君は本当に素敵だ、ハイネ」
ルヴェール様は、ニコニコと笑っている。ああ~、このままルヴェール様のペースに巻き込まれてしまいそう。
(いやいや。私は公爵夫人になんてならない! 今日一日で、絶対に諦めてもらうぞ!)
そうして私達は、ルヴェール様の転移魔法で王都へ移動し――
◇ ◇ ◇
「わあ……!」
祝祭の存在は知っていたけれど、実際にこの目で見るのは初めてだ。
ルヴェール様は上位貴族なので簡単に転移魔法を使っているけれど、そもそも平民は魔法を使えないし、転移なんて滅多に体験できるものではない。そのため王都に来たこと自体が初めてなのだ。
これまで私は祝祭の日は、生まれ育ったダストリアの街で、家族と一緒にいつもよりちょっと豪華なごはんを食べるのが習慣だった。……もっとも、いつもトラッシュが酔いすぎてベロベロになるので、あまりいい記憶でもないけど。
「ふふ、そんなに瞳を輝かせて……喜んでもらえて、嬉しいよ」
「はっ! い、いえいえ。珍しいから見ていただけです。別に喜んでるとかでは……」
「ほら、あそこに美味しそうなお菓子の出店があるよ。行ってみようか?」
「ぐ……ま、まあ、せっかくの祝祭ですからね。行かないと損ですもんね!」
美味しそうな匂いを漂わせる出店につられ、ふらふらと人混みの中で踏み出す。
「それにしても、人が多いですね」
「これでも、今年は少ないほうだ。ガーベッジで流行している謎の呪いが、王都にも影響し出しているからな」
そういえば、周囲を見回せば、身体に灰色の呪い紋があり、具合が悪そうな人も多い。
ただ、呪いは人に移るものではないということもあり、年に一度の祝祭を楽しみにしていた人もたくさんいるため、祝祭は中止にならなかったし、呪われている人も参加しているのだろう。呪い紋のある人を、呪われていない人々は、冷たい目で見ているが……。
(ルヴェール様が準備を進めてくださっていて、私が生成した治癒魔石が、近いうちに販売できることになっているらしいし。大丈夫、だよね……)
読んでくださってありがとうございます!
本日から一日一回更新となりますが、まだまだルヴェールとの関係の進展や、トラッシュ達へのざまぁなどいろいろありますので、今後もぜひよろしくお願いいたします!





