15・分別は特殊スキル?
「さて。そろそろ本題に入ろうか」
「はい」
双子がフェリル様の部屋で遊ぶことになり、母さんはそれを見守ることにして……私は、ルヴェール様と二人きりになった。
「魔石の再生についてだ。どのように行ったんだ?」
今後公爵邸で暮らすかはともかくとして、魔石の再生方法は、私達の保護と引き換えに教えることになった。
正直、魔石の再生方法が知りたいからって、いつまでもつきまとわれるのは面倒だし。とっとと教えてしまったほうが楽だと判断したのだ。
「実際にお見せします。厨房をお借りできますか? あ、魔灰を持ち込むことになりますが」
「魔石再生に必要なんだろう。なら、当然許可する」
さらりと答えられた。身分の高い人こそ、魔灰には抵抗感を示すものなのに。私も変わり者だけど、ルヴェール様も変わり者では?
ともかく、私達は厨房に移動した。ルヴェール様が人払いしてくださって、他の料理人や使用人は誰もいない。
私は、あらかじめ用意しておいた魔灰を取り出す。
「まず、魔灰を分別していきます」
「分別?」
「はい。元の種類ごとに分けていくんです。今回用意した魔灰なら、これは元が火の魔石、こっちは水の魔石……と、こういう感じに」
鞄の中に、大量に用意しておいた魔灰を、ひょいひょいと元の種類ごとに分けていく。
「待ってくれ」
「なんです?」
「君は、魔灰の元となった魔石を、どうやって判別しているんだ?」
「指先の感覚でわかります。私はずっと掃除人として、魔灰を扱ってきましたので」
ルヴェール様は、魔灰を触ってみる。そして眉根を寄せた。
「……正直、よくわからないな」
「うちの家族もそう言いますね。慣れないと難しいと思います」
私がそう答えると、ルヴェール様は何か思案するように黙り込んだ。
「レーラ。君、能力鑑定をしたことはあるか?」
「え? いえ、ないです」
能力鑑定というのは、ギルドにある魔法装置によって、自分のスキルなどを調べることだ。
レベルが上がればスキルも増えるし、スキルによって向いている職業も異なる。冒険者などは定期的に鑑定を受けることが多いそうだ。
ただ、鑑定にお金がかかるので、私はやったことがない。
「それはもしかして何か、君の特殊能力なんじゃないか。今からギルドに行って調べてみないか」
え? 嫌だな。万が一、珍しい特殊スキルだったら、また目をつけられて大変なことになりそうだし。私は、目立たず平穏に暮らしたい。転生者だとかバレるのも面倒だし。
あと、ギルドの人と話さなきゃいけないのも嫌だ。知らない人と会話する機会は、できるだけ回避したい。
「いえいえ、遠慮しておきます! 私は単なる平民の子ですし、特殊能力なんてないですよ! それに分別さえしちゃえば、この後の行程は至って簡単ですので」
そもそも、魔灰から分別できなくたって問題ない。魔灰になる前の……使用する前の魔石の種類を記録しておけばいいだけだ。仮に私が何か分別のスキルを持っていたとしても、大して役に立たないだろう。
私はルヴェール様に、魔石の再生方法について説明しつつ、実演してゆく。
分別した魔灰を熱して溶かして、冷やして固める。この厨房は、公爵邸らしく魔導コンロもたくさんあるので、同時進行で火・水・風の魔石をそれぞれ作った。
魔灰だったものが、形は歪とはいえ、鮮やかな色を取り戻す。
ルヴェール様は完成したそれを手に取り、試しに使用してみる。
「……すごいな、問題なく使える。まさかこんな方法で、魔石を再生できるなんてな……。これは、錬金術の一種ではないのか?」
なるほど。私は「リサイクル」のつもりだったけど、これはもしかして錬金術ということになるのか?
私、錬金術師? おお、がぜん異世界ファンタジーな感じがしてきた!
「お褒めいただき光栄です。ですが……レヴァイゼ領には鉱山があるのですから、魔石の再生方法を追求する意味はないのでは?」
魔石の再生方法を他の貴族に渡したくない、というのはわかる。
だけど、魔灰から家庭で簡単に魔石が再生できるのなら、新品の魔石が売れなくなってしまう。レヴァイゼ家としては、それは望ましくないのではないか。
「確かに鉱山はあるが、資源は無限じゃない。いつかは尽きるものだ。再生方法があるなら、知っておくにこしたことはないだろう」
「まあ、それはそうですね」
「それに、あの治癒魔石は、信じられない効果を持っていた。自然に採掘される治癒魔石で、あそこまで強力な効果を持つものはない。正直、一般魔石の再生よりも、特殊魔石の再生こそが本題だ」
「そうですけど……特殊魔石は、まだ完全な生成方法が確立していないんです。偶然の産物と言いますか……再現することが難しくて」
「ふむ。珍しく完成した、完璧な治癒魔石を盗まれるとは、君も大変だったな」
ああ、そういえば、そういう設定にしてました。
大人版の私とルヴェール様が会うことは二度とないだろうけど、一応自分の冤罪を晴らしておくか。ルヴェール様は盗人でも幻滅しないとわかってしまったし。
「その……すみません、それは嘘でした」
「ほう? 詳しく聞かせてもらおうか」
「実は、ポケットに入れておいた魔石を、うっかり落としてしまったんです。だから多分その女性が、拾ってくれたんだと思います」
「そうか。なら最初からそう言ってくれればよかったのに」
「えーと、貴重な魔石を落としてしまったなんて、間抜けすぎて言いたくなくて」
「ふうん。ふふ……君は、隠しごとが好きなんだね」
クスクスと、ルヴェール様はなんだか妖しい感じで笑う。
「まあ、嘘だと思っていたよ。彼女は、盗みなんてする人ではないだろうし。……とても、優しい人だからね」
「一度会っただけで、本当はどんな人かなんて、わからないでしょう? そんなに入れ込むのは危険だと思いますよ」
「これまで何度顔を合わせてきた人間達よりも、一度会っただけの彼女に、俺は救われた。……それが全てだ」
……本当に、大人版の私のこと、好きなんだなあ。
その「彼女」が目の前のちんちくりんだとわかったら、どんな顔するんだろう?
……うん、まあ、幻想をぶち壊さないようにしてあげよう。この秘密は墓場まで持っていきますので、安心してください!
「さて。では次に、特殊魔石の再生方法を探ろう。まずは、以前治癒魔石を再生できたときのやり方を教えてくれるか?」





