14・私の力で、変えることができたもの
そうだ。見覚えがあると思ったら、彼は、森で倒れていた男の子。
レヴァイゼ家の次男ということは、やはりルヴェール様の弟だ。
「申し遅れました。私はレーラと申します。ええと、すみません。今後お世話になるかもしれませんが、極力、お屋敷の隅っこのほうにいますので。存在を消して、なるべく顔を合わせないようにしますので。私のことは片隅の埃とでも思っていただければ」
自分の家に、見ず知らずの平民が出入りするとか、まして寝泊まりするなんて嫌だよねえ。
このお屋敷はとても広いから一般的な家とは全然違うけど、それでも、家に知らない人が入ってくるなんて、私だったら嫌だ。
だからこそ、フェリル君……いや、フェリル様にはなるべく迷惑をかけないようにしたい。
けれどフェリル様は、私の予想に反し、穏やかに微笑んだ。
「……気を遣わなくていい。君達のことは、兄さんから聞いている」
フェリル様は私達に、年下を慈しむような笑顔を向けてくれる。
私は十歳の平民で、フェリル様は十二歳の公爵家次男。年齢にも身分にも差があるので、彼のほうが私より大人っぽく感じる。……中身の年齢なら、前世の記憶がある私のほうがずっと上なんだけどね?
「僕はずっと、事情があって、あまり外で遊んだりできなかったから……年の近い友達というものが、憧れだったんだ。よかったら仲良くしてくれると嬉しい」
「友達って……私どものような平民でよろしいのですか?」
「ああ。……貴族同士であればわかり合えるわけじゃないし」
フェリル様は目を伏せ、どこか影を感じさせる様子で言った。
そういえば、フェリル様は呪いにかかっていて、貴族の中でも忌避されていると、風の噂で聞いたことがある。
「あの……フェリル様。今は、お身体の調子はよろしいのですか?」
私の治癒魔石は、勝手に作ったもの。それに特殊魔石は、まだ生成できる条件が確立していない。万が一、副作用とかあったら怖い。
「うん……最近はすっかり元気なんだ。親切な女性に、助けてもらって」
すると、デリアが反応する。
「それ、ルヴェール様も言ってた! すっごく優しくて素敵な人なんでしょ?」
「そのおかげで、俺達はルヴェール様に助けてもらえたんだし。誰だか知らないけど、感謝だよなー」
「ねー、わたし達も会ってみたいよね!」
(……ぎくぎくぎく)
デリアとシンは、その女性が私であるとは知らない。二人は幼いから、口を滑らせてしまいそうで、秘密にしているのだ。母さんにも言ってない。なんか気まずいので。
きゃっきゃと話す二人を見て、フェリル様はふっと穏やかな笑みを浮かべる。
「僕も、とても感謝している。いつかその人に、お礼を言いたい……」
そう言ったフェリル様の瞳は、言葉通り、恩人への感謝に溢れているように見えた。
「ああ。俺も、彼女はとても素敵な人だと思っている。優しく、可憐で、謙虚で……」
一方でルヴェール様は、うっとりと陶酔するように語る。ああ~、本人はそれが私だと気付いていないけど、だからこそ、むずかゆいよ~。私を美化しすぎです!
「兄さんがこんなことを言うの、初めてなんだ。それに……あの人は僕にとっても命の恩人だし、尊敬する人なんだ」
フェリル様は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
「今まで、たくさん冷たい目を向けられて、人なんて信じられなかったけど……」
うんうん、わかるよ! 人なんて信じないほうがいいよねぇ。人間はゴミだもの!
「あの人が言っていたから、僕もこれから、人に優しくしようと思う」
私が言っていたから⁉
私がなんとなく残した言葉、影響大きすぎでは⁉
だらだらと冷や汗を流す私に気付かず、フェリル様はキリッと真面目な顔になる。
「だから、この屋敷で何か不便や不都合があれば、遠慮なく言ってほしい。僕にできることなら、力になる」
そう言ったフェリル様は、年下達を引っ張っていこうと一生懸命お兄さんぶっているようで、とても微笑ましい。
私は人間が苦手だけど、私や家族を尊重してくれる人は別に嫌いじゃない。まして私の中身は、この子よりずっと大人だから。小さいのにいろいろ苦労してきて、それでもなお優しい子なんだな、と思うと、純粋に「いい子だな~」と思う。
デリアとシンは輝くような笑顔を浮かべ、フェリル様に手を差し出した。
本来、平民が貴族にこのような接し方をするのは不敬であるが、事前にルヴェール様が魔法契約書によって、私達一家の言動に対する不敬は問わない、としてくださっている。
何よりルヴェール様もフェリル様も気にした様子がないし、それどころか、嬉しそうだ。
「じゃあ、お友達ね!」
「これからよろしく!」
うぐ……この子達、天使か? 眩しい。皆キラキラしてる。
うちの双子、やっぱり可愛いな~。フェリル様もええ子や~。
はぁ、いい光景だ。癒されるぅぅ。
(……にしても……)
フェリル様が元気になったのも、こうして私達家族が公爵邸に来られたのも。私があの日、治癒魔石を使ったからだ。
あれがなかったら、この子達は出会えなかった、お友達になれなかったんだよね。ていうか、フェリル様は命を落としていた可能性すらある。
……私がやったことで、変わったものがあるんだなぁ。
まあ私の力というか、魔石の力なんだけど。
(でも、公爵様が財を尽くしても治らなかった呪いを治癒したなんて。……私が再生した魔石って、一体なんなんだろう?)
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