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13・綺麗な衣装に大変身

 今後私達がレヴァイゼ領で暮らすかどうか考えるため、まずは見学という形で公爵邸に行くことになった。私も母さんも、弟のシンも妹のデリアも全員でだ。


「準備はいいか? じゃあ、いくぞ」


 ルヴェール様が転移魔法を使い、私達は眩い光に包まれて――


「うわああああああ、すごーい! 一瞬で景色が変わったよー!」

「すげえ、何ここ……! お城みたいだ!」


 私達は、さっきまでの自宅ではなく、立派なお屋敷の中にいた。

 シンとデリアは、興奮してキョロキョロと周囲を見回す。

 私も、思わず目を見開いてしまった。

 

(う、うわああ……)


 異世界転生して十年目だけど、ずっと平民として暮らしていたので、こんな豪華なお屋敷を訪れるのは初めてだ。


 繊細に織られた絨毯。天井を飾る煌びやかなシャンデリア。一つ一つが芸術品のような家具類。立派な額縁に入った美しい絵画。……眺めているだけで、身体の内側までキラキラしてきそうな、まさに上流階級の空間だ。


「すっごーい、綺麗だね~!」

「つーか、めちゃくちゃ広いぞ!」


 双子は、とてもはしゃいでいる。母さんも、双子ほどではないけれど目を輝かせ「まあぁ……」と感嘆の息を吐いていた。


「さて、皆。使用人に、服を用意させておいたんだ。好きなものに着替えてほしい」


 ルヴェール様がそう言って微笑み、彼の後ろから、シックなメイド服に身を包んだ使用人さん達が出てきた。


「さあ、お嬢様、お坊ちゃま、こちらへ。お着換えしましょうね」

「わたしが、お嬢様⁉」

「俺が、お坊ちゃま……?」


 妹は目を輝かせ、弟は困惑気味だ。


「ささ、レーラ様も。どうぞこちらへ」

「えっ、わ、私は大丈夫です」

「そうはいきません。レヴァイゼ邸で過ごしていただくのですから、お着換えしていただきます。ふふ、心配なさらずとも、お洋服は何着もご用意がありますから、きっと気に入るものが見つかりますよ」


(いや、気に入る服がない心配をしているんじゃないけど……)


 使用人さんに案内され、母さんと双子達と一緒に辿り着いたのは、ひと部屋が丸々衣服で埋まっている場所だった。まるで、公爵邸の中にブティックがあるみたいだ。


「ルヴェール様……こんなに集めたのですか?」


 私(子ども版)とルヴェール様が出会って、まだ日が浅いというのに。公爵家の権力と財力があれば、短時間でこれだけの衣服を用意することなど朝飯前なのだろうか。


「ここが、これから君達の家になるんだ。着替えは、多いぶんには困らないだろう?」

「今日は見学に来ただけで、まだ住むと決めたわけではないですけどね」


 私は人見知りバリアを張っているつもりなのだけど、周りの使用人さん達はニコニコと笑顔を崩さない。さすがは公爵邸の使用人、おもてなしのプロである。


 まあ、今の私は十歳の女の子だから、そもそも人見知りするくらいが普通で、全然怖くないっていうのもあるだろうけど。


「気に入るお洋服が見つかるまで、どんどん試着なさってくださいませ。まずは、こちらはいかがですか? レーラ様に、きっとよくお似合いです。さ、どうぞこちらへ」


 私は着替え用のパーテーションの奥に案内される。同時に、家族とはいえ、唯一男の子であるシンはルヴェール様と共に別室に移動していった。


「では、レーラ様。着替えさせていただきますね」


 メイドさんの手で、服を脱がされそうになる。


「じ、自分でできますから!」

「まあ、幼いのに自立心溢れていて、素晴らしいですわね。ですがこれも私達の仕事ですので、レーラ様は何もなさらなくていいのですよ」


 う~む、元日本の成人女性として、人に着替えを手伝ってもらうって気恥ずかしい。この世界の令嬢にとっては、これが普通なんだろうけどね。


 結局、メイドさんが私を着替えさせてくれた。私は、何度も着せ替えさせられるのは面倒だったので「もうこれでいいです」と言ったのだが、母さんと妹のデリアに「こっちの服も着てみせて!」「こっちも可愛い!」と乗せられ、次々といろんな服を着ることになってしまった。


「それでは、次は髪を整えましょう」


 服が決まると椅子に座らされ、何やらいい香りのする液体を髪に塗られる。そのままメイドさんに髪を梳かしてもらい、髪飾りもつけてもらった。


「レーラ、素敵よ! すっごく可愛いわ」


 母さんは、目を輝かせてそう言った。母さん自身も着替えていて、貴族の奥様みたいに綺麗になっているけれど、自分のことより私の姿にテンションが上がっているみたいだ。


 そのとき、外から扉がノックされて、執事さんの声がした。


「シン様のお着換えが終わりました。入ってよろしいですか?」

「ええ、ぜひ」


 デリアも着替えが終わっていたので、母さんがそう答える。扉が開き、シンとルヴェール様が入ってきた。


「わあ! シンも似合ってるじゃない!」

「似合うとかはよくわかんないけど……この服、すっげー着心地がいい」

「ああ、わかる。生地が柔らかくて、すべすべだよね」

「うんうん! それに、レースやリボンがこんなにたくさんついてる服、初めて着た~! すごいすごい!」


 家族の中でも、妹のデリアは一番テンションが高くなっていた。私とシンは戸惑いながらも上質な洋服に喜んで……母さんは、そんな私達を見て感慨深そうだ。


「ふふ。デリア、似合ってる。すっごく可愛いよ」

「ありがとう! 姉さんも可愛い! お姫様みた~い!」


 デリアに腕を引かれ、鏡の前に立つ。

 今まで、普段は仕事で汚れてもいいような服ばかり着ていたから、こんな繊細な格好をした自分は新鮮だ。……デリアの言うように、まるで、童話のお姫様にでもなったみたい。


 するとルヴェール様が、優美な微笑みを浮かべて口を開く。


「皆、似合っているよ。とても素敵だ」


 その言葉に、うちの家族は口々にお礼を言った。


「ありがとうございます、ルヴェール様!」

「ありがとうございます」

「子ども達にこんな綺麗な服を着せてあげられるなんて……夢のようです。ルヴェール様、本当に感謝申し上げます」

「いいや。皆よく似合っているから、用意した甲斐があるよ」


 ルヴェール様の視線が、私に向く。


「レーラも。今までの君も素敵だったけど、そういう格好もとてもよく似合っているね」

「ありがとうございます」

「君が大人のレディだとしたら、俺はきっと心を奪われていたよ」

「はあ、そうですか。では子どもでよかったです」


 こんな言葉、懐柔したくて言っているだけだろう。真に受けたりしない。

 ただでさえ、「大人版の私が彼に好かれている」とかいう、わけのわからない状況なのだ。私は恋愛願望も結婚願望もないし、これ以上ややこしくしたくない。


「さて。着替えてもらったことだし、次は、屋敷の中を案内しよう」


 ルヴェール様の言葉に、双子がまた目を輝かせる。

 それにしても、広い屋敷。屋敷内を歩いているだけで、一日が終わってしまいそうだ。


「あ……」


 廊下を歩いていると、向かい側から歩いてきた一人の少年と顔を合わせた。

 黒絹のような髪、幼いながらも落ち着きのある青い瞳。ルヴェール様と少し似ているけれど、まだ子どもだ(この世界では私も子どもだけど)。


「あなたは……」

「……はじめまして。僕はフェリル、十二歳。このレヴァイゼ家の次男だ」

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