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16・魔石を知ろう

「はい。では……」


 以前治癒魔石を再生できたときに材料として使った魔灰は、元は火・水・土・風・氷の魔石だったもの五種。少し水の魔石が多めだ。

 あとは特に変わったことはなく、普通の魔石の再生と同じように行うだけ、のはずなのだが……。


「……なるほど。これは確かに失敗だな」


 同じように、砕いて溶かし固めたのに。できたものは、魔灰がそのまま大きくなったような、灰色の塊。魔石特有の鮮やかな色彩などどこにもない。起動石を使ってもなんの効果もない。


 何か成功の秘訣か全くわからないので、とりあえず何度も繰り返す。

 すると七回目くらいで、やっと虹色の魔石……治癒魔石の精製に成功した。


「これは成功ですね。大体、十回に一度くらいの割合で成功する感じかと思います」


 ルヴェール様は、まるで希少な宝石を扱うかのように、治癒魔石に触れる。実際、治癒魔石は下手な宝石より高額なものなので、あながち間違いではないけど。


「すごいな……」

「何が再生の鍵になっているのかわかれば、大量生産できるんですけどねー」

「しかし、今使っていたものは、本当に全て同じ材料なのか? 実は元の魔石が違っている可能性はないのだろうか。君を疑うわけではないが、正直、俺には魔灰の区別がつかない」

「私の指先の感覚は確かなものです。私は誇りを持って掃除人をしていましたから!」


 胸を張って答えると、ルヴェール様は顎の下に手を当てて何か考える。


「ふむ。では……元となった魔法生物の種類に関係しているのだろうか」

「種類……ですか?」

「ああ。魔石は、もともとは古の魔法生物だったことは知っているか?」

「ああはい、一応。どんなのか、詳しくは知りませんが」

「では、知識として共有しよう。こちらへ」


 なんだろう? と思いながらも、ルヴェール様の後について廊下を歩く。すると、辿り着いたのは……。


「と、図書室⁉」

「ああ。俺は以前、フェリルの呪いを解くため魔法研究をしていたから、魔法に関する資料はたくさんある。他に、なかなか外に出られなかったフェリルが退屈しないよう、娯楽小説なども揃えているよ」


 アンティークな雰囲気の本棚に、分厚い本がずらりと並んでいて、紙とインクのいい匂いが漂う。思わずうっとりと、涎が出そうになってしまった。


「レーラは本が好きなのか?」

「はい、大好きです!」


 わりと文明レベルが高い異世界だから、街にも一応図書館はある。だが、とてもこじんまりしたもので、蔵書数はあまり多くない。それに比べて、この図書室はものすごく本の種類が豊富だ。


「そうか。君が今後この屋敷で暮らすなら、自由に使ってくれて構わないよ」

「うぐっ……」


 公爵邸に住むかどうかはまだ迷い中だけど、この図書室はかなり心惹かれる。


「え、えーと、それより。魔石のもとになった魔法生物って?」

「ああ、これを見てくれ」


 ルヴェール様は本棚から大きな図鑑のようなものを取り出し、見せてくれる。

 この世界には写真はない。だけど絵が描いてあった。丸くて、まるでゼリーのようなそれは……。


「……スライム?」

「そうだ。魔石のもととなった魔法生物はスライムといって、遥か昔、この大陸に存在していた。だが今は全て魔石と化し、生物としては絶滅している」


(この世界でスライムって、絶滅してたのか!)


 言われてみれば確かに、森でも草原でも、見たことがなかった。


(なんだか……すごく、懐かしい気がする)


 前世ではスライムといえばファンタジーの定番モンスターだから、感慨深い。


 図鑑には、赤や青など、魔石のもととなったたくさんのスライムが載っていた。

 基本はファイアースライムやウォータースライムなどだけど、それらのスライムが癒しの薬草を多く摂取することでヒーリングスライムが生まれ、変化の実を摂取することでメタモルフォーゼスライムが生まれるなど、派生形も多いと書いてある。


「つまり、そのスライムの純粋な属性だけでなく、摂取するものによって他属性が混じるなど、変異することがあるらしい」

「へえ~。属性って一種類だけじゃないんですねえ。……あ、でも、人間でも高位貴族は二種類以上の魔力属性を持っていたりするんでしたっけ?」

「ああ。俺も、全属性の魔力を持っているしね」


 この国において平民は魔力を持たず、貴族は魔力を持っている。

 そして、上級貴族であるほど魔力が強く、属性も多い傾向にある。

 それでも全属性の魔力を持っているというのは、かなり稀有なことだ。さすがは公爵様。


「だから、火の魔石であっても、実は少量水の魔力を持っていたりする場合があるんだろう。それが、魔石の再生に関わっているのかもしれない」

「ふーむ。でしたら、魔石か魔灰に鑑定の魔道具というのを使えばいいのでは?」

「実を言うと、君と出会う前、既に魔法研究者に調べさせたことがある」

「なんと。ルヴェール様、以前から魔石にご興味があったのですか?」

「いや、魔石再生とは別件でね。フェリルの呪いを治癒するための研究の一環として」


 腹黒な感じに振り回されてばかりだから忘れがちだけど、この人、弟さんのことは本当に大事にしてるんだよね。


 私も、家族のことだけは大事だから、その点だけは好感……かも。

 だからって、公爵夫人になる気は微塵もないですが!


「鑑定の魔道具を使用しても、魔石は『火の魔石』『水の魔石』などとしか表示されない。たとえ他の魔力が含まれているのだとしても、ごく微量であった場合は鑑定にも表れないのだろう」

「実際、火の魔石を使っていたら水や風の効果が出てきた、なんてこともないですもんね。鑑定魔道具にも反応しないなら、本当にごくごく微量な魔力の違いなのかもしれません」

「鑑定しても無意味なのは、魔灰も同様だ。『魔灰』と表示されるだけで、元がなんだったのかまでは判別できない。例えば武器に鑑定魔法をかけても、『剣』などと表示されるだけで、詳細な材料や製法といった情報は出てこないように。それと同じということだろう」

 

 ふむ。ネット小説でも、人間に鑑定魔法を使っても、レベルやスキルがわかるだけで、血や骨で構成されているとか、親や出自とか、そういう情報は基本的に出てこないもんね。鑑定魔法で鑑定できることにも、限界があるのかもしれない。


(鑑定魔法でもわからない何かがあるってことかぁ。なんだか、研究しがいがありそう)


「どうした? レーラ、なんだかワクワクしている様子だね」

「私、人と接することは嫌いですが、こういうのを黙々と調べたりするのは、結構好きなんですよね」


 掃除や読書もそうだけど、ようするに私は、人と会話せず一人で没頭できる作業がいいのだ。


 それに錬金術師とか鑑定士とか、そういう響き、ネット小説好きとしては、ちょっと憧れだったんだよね~。ワクワクと胸が躍ってしまう。


「ルヴェール様。私、魔石についてしばらく研究してみていいですか?」

「もちろんだ。この屋敷にある資料や道具は自由に使ってくれて構わないし、他に必要なものがあるならなんでも揃えるよ」

「ありがとうございます!」


 ふふ、今まで掃除人として私のお給料のもととなっていた魔石ちゃん達だ。魔石への感謝の意も込めて、じっくり調べて解明してやろう。


 よーし、やる気が出てきたぞー!

読んでくださってありがとうございます!

ブクマ・評価をいただけますと、めちゃくちゃ嬉しいです!

既にしてくださった方、誠にありがとうございます!

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