11・ゴミ達は商会長に怒られます(リヒューティ&トラッシュSIDE)
「何をやっているんだ、お前らはっ!」
リヒューティとトラッシュは、レーラ達が住む街から馬車で、隣の領地にあるオルデュール邸へと戻っていた。
そして今、リヒューティの父であり、オルデュール商会長である、パーザー・オルデュールからの激しい叱責を受けている。
なおリヒューティ達が自分から、レヴァイゼ公爵家との取引が切られることを打ち明けたわけではない。
怒られるのが嫌だった二人は、あの件に関しては忘れることにして、何の報告もせずいつも通り贅沢三昧な日々を送っていた。
あんなの嘘だ、と思い込みたい気持ちがあったのだ。公爵様はあんなこと言ってたけど、単なる脅しに違いない。だってオルデュール商会はこの国有数の大商会だし。そんな大商会に対し、ちょっと平民の小娘にお灸を据えてやっただけで取引を停止するなんて馬鹿げている。公爵様ともあろう御方が、そのようなことをするはずがない、と……。
だがパーザーのもとに、ルヴェールから正式な書面にて「今後、オルデュール商会とは一切の取引をしない」と通達があったのだ。その理由として、リヒューティとトラッシュの行いも全て綴られていた。
あまりに突然のことに、目玉と心臓が飛び出す思いだったパーザーは、娘とその婚約者に事情を問い詰めることにしたのである。
そうなると、リヒューティとトラッシュも真実を吐かざるをえなくなった。自分達を養ってくれている父の前で小さくなりながら、それでもなお、自分達の非を認めない。
「酷い、お父様。どうして私達がこんなに怒られなきゃならないの? 悪いのは、あのレーラとかいう小娘なのに!」
「たかが平民の小娘など、放っておけばよかっただろう。それによって公爵様の不興を買うなど、何の益もない」
「でもでも、あんな小娘に馬鹿にされて、私は悲しかったんだもんっ!」
そこでトラッシュが、「リヒューティは俺が守る」とばかりに彼女の前に出る。
「お義父さん、リヒューティは俺のために怒ってくれたんです! 彼女は俺のことを思いやってくれる、優しい子なんです。怒らないであげてください!」
まるで世界を敵に回してでも姫を守る勇者のように、キリッとした顔である。だが――
「黙っていろ! もとはといえば、お前が原因だろうが!」
「ひいっ⁉」
パーザーに怒鳴られ、トラッシュは身を縮める。もともと、怒られることが大嫌いなのだ。
しかし、どんなに精神が子どもじみていても、トラッシュはいい歳をした大人である。彼がプルプル震えたところで、パーザーの怒りが収まることはなかった。
「トラッシュ。お前は娘を助けてくれたから、しがない冒険者だが、特別にリヒューティとの結婚を許可してやった。今まで、この屋敷で贅沢な暮らしをすることも受け入れてやった。その結果が、これか? よくも、恩を仇で返す真似をしてくれたものだな!」
「お父様、そんなに怒らないで! 小さいことを気にしないでよ、許してくれたっていいじゃない!」
「どこが小さいことだ⁉ いいか、これはオルデュール商会存続の危機なんだぞ。我が商会は、レヴァイゼ領の魔石を使った魔道具を主力商品としてきた。このまま公爵様のお怒りが解けなければ、お前達だってこれまでのように贅沢な生活を送ることはできない……それどころか、これからは食うに困る可能性が高いんだ」
パーザーは悲愴な顔で告げるが、これまで何の苦労もなく甘やかされ、貧しい生活とは無縁だったリヒューティには、ことの重大さがわからない。
「魔道具以外にも、別のものを売ればいいんじゃないの?」
「そんな簡単にいくか! それに、公爵様の不興を買ったと噂が広がれば、他の貴族や商会からだって忌避される。取引相手にも、顧客にも困ることになるんだ」
「ふ~ん? なんかよくわかんな~い」
リヒューティは「私悪くないし~」とでも言いたげだ。トラッシュはその陰で、相変わらずプルプルと震えている。
パーザーは頭を抱えて嘆息しながら、二人に言った。
「とにかく、お前ら。そのレーラとかいう小娘に謝罪して和解し、なんとか公爵様の機嫌を直していただくんだ。いいな」
「はあ⁉ なんで、私が謝らなきゃいけないのよ⁉ 私は悪くないのに!」
謝るなんて、負けを認めるということ、屈服するということではないか。リヒューティはそう考えていた。だからこそ、彼女の選択肢に「謝罪」なんて言葉はない。
「ね、もうこんな暗い話はやめましょうよ。未来の、もっと明るい話をしましょう! 例えば、私とトラッシュの結婚式のこととか! 私ぃ、ウェディングドレスのデザインについてずっと考えていたの。王都で一番人気の針子に作らせようと思って……」
「ああ、とてもいい考えだね、リヒューティ! 君の美しい花嫁姿を見るのが、とても楽しみだよ! 俺の妻は、やはり君しかいない!」
「ええ! 私の最高に綺麗なドレス姿、期待しててね! 私達が幸せなところ、あいつらに見せつけてやりましょうよ!」
「うんうん! レーラ達、悔しがるだろうなぁ! 俺に冷たくしたことを、後悔するだろうなぁ!」
きゃっきゃと笑う二人を見て、パーザーは怒りに震える。
「この馬鹿どもが! こんな状況で、結婚式の費用なんて出せるわけがないだろうが!」
「え⁉ じゃあお父様、私達の結婚式はどうなるの⁉」
「中止だ、中止! 今は無駄な出費なんて許されない! 今後のオルデュール商会を立て直すため、お前達にも働いてもらうからな!」
「そ……そんなぁ~~~~~~~~~~‼」
ルヴェールの不興を買い、それを一切反省する気のない二人は、この先、更なる破滅を迎えることとなる。
だがそれを、今のリヒューティとトラッシュは知らない……。





