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EP 7

市民の怒り(絶対ルール⑤発動)

ギャァァァァァァァァァッッ!!!!!

鼓膜を切り裂くような人参マンドラたちの断末魔が、夜の闇に響き渡っていた。

ポポロ村の境界線に落ちた一発のRPG(対戦車擲弾)は、最上級の魔力を含んだ農地を美しくえぐり取り、巨大なクレーターを作っていた。

「……終わった。俺たちの戦争は、ここで終わるかもしれん」

ルナミス軍客将、坂上信長は89式小銃を取り落とし、夜空を見上げた。

「……総員、武器を捨てろ。抵抗すれば『消去デリート』されるぞ」

レオンハート軍客将、エリアス・ソーンもまた、狙撃銃を投げ捨てて両手を挙げた。彼ほどの冷徹な男の額から、滝のような冷や汗が流れている。

日米最高峰の精鋭部隊が、戦意を完全に喪失していた。

なぜなら、ポポロ村の方向から**『音を置き去りにした何か』**が飛んでくるのが見えたからだ。

ドゴォォォォォォォォンッ!!

廃村の中心に、隕石が落ちたかのような凄まじい着地音が響いた。

もうもうと立ち込める土煙を吹き飛ばしたのは、圧倒的な『闘気』の嵐だった。

「……あーあ。せっかく寝てたのに。誰ですかぁ、私の可愛い人参さんたちを黒焦げにしたのは」

土煙の中から現れたのは、動きやすいラフなパジャマ姿の少女だった。

白い兎の耳を持つ、ポポロ村村長・キャルル(20歳・元レオンハート第三王女)。

右手には人参柄のハンカチを握りしめ、可愛らしく首を傾げている。

だが、その瞳からは一切のハイライト(光)が消え失せていた。

「ひ、ひぃぃ……っ! お、俺はただ、敵を撃とうとして……手が滑って……っ!」

RPGを誤射した獣人兵士が、腰を抜かして泣き叫ぶ。

「ほうほう? 手が滑った。なるほどぉ」

キャルルはニコッと微笑んだ。

次の瞬間。

パンッ! という破裂音と共に、キャルルの姿が消えた。

いや、違う。マッハの速度で踏み込んだのだ。

「――流星脚メテオ・ストライク、ちょい手加減バージョン」

彼女の姿が再び現れたのは、廃村に残されていた分厚いコンクリートの壁の前だった。

空中で一回転したキャルルの踵が、壁に軽く触れる。

直後。

ズガァァァァァァァァンッッ!!!!

コンクリートの壁が、まるでビスケットのように粉々に粉砕され、その衝撃波だけで周囲にいた数十人の兵士たちが木の葉のように吹き飛ばされた。

「「「アッバーーーーーッ!?」」」

「……威力約3万ジュールか。戦車の主砲と同じエネルギーを、生身の脚から……ッ」

エリアスは吹き飛ばされながら、冷静な分析脳の片隅で(この世界の物理法則はどうなっているんだ)と戦慄した。

信長は地面を転がりながら叫んだ。

「す、すまん村長! うちの弾じゃないが、ここでドンパチやったワシらにも責任がある! 命だけは、命だけは勘弁してくれェ!」

「ふふっ。命なんて取りませんよぉ。私達は、無害な村人達ですから~」

キャルルは明後日の方向を向きながら、トボけた顔で口笛を吹いた。

そこに、聞き慣れたコテコテの関西弁が響いた。

「ほな、代わりに『ルール』に従ってキッチリ払うてもらいましょか」

暗闇から、黄金の算盤を弾きながら現れたのは、ポポロ村財務担当のニャングルだった。

「えーと、被害状況の査定や。燃えた人参マンドラが約500本。土壌の魔力汚染の浄化費用。それに、村長はんの安眠妨害の慰謝料……」

ニャングルの目が、細く、残酷に三日月型に歪む。

「しめて、金貨1,000枚(1,000万円)の損害賠償になりまっせ」

「い、一千万だと!?」

エリアスが悲鳴のような声を上げた。

初期資金1億円で始まったこの戦争。部隊を酷使し、極限まで節約し、ドワーフの工場で夜勤までしてようやく維持していたレオンハート軍の資金に、一撃でトドメを刺すような額だった。

『ピピッ』

上空から、無機質なシステム音声(ガオガオンの法を管理する音声)が響き渡った。

【警告。ルール⑤『民間施設の破壊』を確認】

【レオンハート軍(実行犯)の口座より、金貨800枚を強制徴収します】

【ルナミス軍(交戦による事態誘発)の口座より、金貨200枚を強制徴収します】

「なッ……!? ワ、ワシらもか!?」

信長の端末からも、無慈悲に資金が吸い取られていく。

「当然やろ? アンタらがここで夜にドンパチするから被害が拡大したんや。連帯責任やで」

ニャングルは煙管を吹かしながら、無慈悲に言い放った。

エリアスと信長は、震える手で自分たちの魔導端末の『残高』を確認した。

【レオンハート軍 残高:金貨 12枚(約12万円)】

【ルナミス軍 残高:金貨 5枚(約5万円)】

――終わった。

100人規模の軍隊を維持する資金としては、完全に『破産』を意味する数字だった。

明日の弾薬はおろか、一番安いスポンジ卵のMREすら買えない。

「あー、スッキリしました!」

キャルルは満面の笑みに戻り、パジャマの裾をパンパンと払った。

「それじゃ、罰金もいただいた事ですし、私達は帰りますね! 皆さん、これからも仲良く、ルールを守って殺し合ってくださいね~♡」

キャルルとニャングルは、絶望のどん底に突き落とされた両軍を放置して、ルンルン気分で村へと帰っていった。

深夜2時。

クレーターだらけの廃村に、冷たい夜風が吹き抜ける。

「……おい、サカガミ」

土まみれのエリアスが、虚ろな目で信長に声をかけた。

「……なんじゃ、エリアス。続きをやるか。ワシの残弾、あと10発しかないがの」

信長もまた、魂が抜けたような顔でへたり込んでいた。

「いや……もう撃ち合っている場合じゃない」

エリアスは、懐から最後の『ラムネ』を取り出し、信長に向かって放り投げた。

「食え。そして……協定ディールだ。このままじゃ、俺たち両軍とも、あの中二病の配達員(良樹)にストライキを起こされて、餓死して終わるぞ」

信長は、受け取ったラムネをポリポリと噛み砕いた。

脳に広がる僅かな糖分が、敵将同士に奇妙な連帯感をもたらしていた。

「……違いない。ワシらは、戦う相手を間違えとったんかもしれん」

信長は立ち上がり、エリアスに向けて手を差し出した。

「週に一度のルール⑧……指揮官同士の交渉じゃ。明日、中立地帯の『料亭・鬼龍』で会談ランチじゃ。ええな?」

「……ああ。弾とカネを借りるか、それとも捕虜を売買するか。徹底的に話し合わせてもらう」

精鋭部隊のプライドなど、すでに微塵も残っていなかった。

彼らは今、互いの軍を倒すためではなく、「ポポロ村の鬼畜な経済システムと住民から生き延びるため」に、一時的な休戦と共闘の道を歩み始めたのだった。

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