表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

EP 5

精鋭部隊、地下工場でバイトする(そして至高の『Mod 40型』)

「オドレら! 腰入れんかい! 魔導エンジンのコアはデリケートなんじゃ! 落としたら減給じゃぞ!!」

カンッ! カーンッ! とけたたましい金属音が響き渡る。

ルナミス帝国・隣町の『ドワーフ地下自動車工場』。

そこには、すすと油にまみれながら、巨大な魔導戦車のパーツを肩に担いで運ぶ屈強な男たちの姿があった。

ルナミス軍・第一レンジャー小隊。

数日前まで最前線で弾幕をくぐり抜けていた精鋭部隊は今、時給銀貨1枚(1000円)の日雇い土方バイトで汗水流していた。

「隊長ぉぉ! 第3ラインのパーツ組み上げ、終わりましたァ!」

「おう! 次は第4ラインの魔石運搬じゃ! 走れ走れェ!」

坂上信長さかがみ のぶながは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら檄を飛ばした。

甲子園の準決勝まで行った持ち前のスタミナと、レンジャー訓練で鍛え抜かれた肉体労働スキルが、ここドワーフの地下工場で完全にバフとして機能していた。

「ガハハ! お前ら人間にしてはええ体力しとるのう! うちで正社員にならんか?」

ドワーフの現場監督が、信長の肩を叩いて大笑いする。

「すんません親方、ワシら一応、軍人なもんで!」

信長は人懐っこい笑顔で返しつつ、心の中では(クソッ、なんで日本の精鋭が異世界で期間工やらされとるんじゃ!)と血涙を流していた。

だが、これもすべては『カネ』を稼ぐためだ。

ニャングルの弾薬値上げと、良樹の牛丼ストライキ(配送料1.5倍)宣言により、ルナミス軍の資金は完全にパンクした。戦うためには、こうして非番の兵士50人をフル稼働させて日銭を稼ぐしかないのだ。

やがて、終業のベルが鳴った。

「お疲れさん! ほれ、今日の日当じゃ!」

ドワーフの親方から分厚い茶封筒を受け取った瞬間、レンジャー部隊の男たちの目に涙が浮かんだ。

「た、隊長……! やりましたね……! これで明日の弾が買えます!」

「あぁ。よう頑張ったな、お前ら」

信長は茶封筒の重みを確認すると、ニヤリと笑って男たちを振り返った。

「しかも今日は、親方が特別ボーナスをつけてくれたわい。……オドレら、最近牛丼食えんでMREばっかりで、クサクサしとったじゃろうが。今日は特別に『アレ』をニャングルから買うてきたる!」

「えっ……ま、まさか……!」

数時間後。最前線の塹壕ざんごう

信長が「ドスッ」と地面に置いた木箱を見て、レンジャー部隊の兵士たちは息を呑んだ。

木箱に刻まれたステンシルの文字は『Mod 40型』。

「な、隊長!? これ、ルナミス軍の裏メニューと言われる、あの『Mod 40型』ですか!?」

「おうよ。労働の後の最高のご褒美じゃ」

『Mod 40型』。

それは、過酷な任務を終えた兵士のメンタルケアを目的として、極少数だけ生産されている特殊な戦闘糧食だ。

木箱を開けると、中には『特製・炭火焼き鳥の缶詰』『乾燥塩昆布』そして――。

「さ、酒だァァァッ!!」

「しかも芋酒(ポポロ・リザーブの廉価版)の小瓶が入ってるぞォォ!!」

兵士たちが狂喜乱舞した。

そう、Mod 40型の最大の特徴は、アルコール度数25度の『芋酒』の小瓶と、嗜好品のタバコがセットになっていることだ。戦場において、酒は最高のカンフル剤である。

信長は自らの愛煙するメビウス10ミリを一本咥え、金色のオイルライターで「カチッ」と火をつけた。

紫煙を細く吐き出しながら、部下たちに芋酒の瓶を配っていく。

(『ええか? 信長。タバコや酒は現地民や仲間達と仲良くなれるツールや。仲間が落ち込んでいたら、タバコを1本差し出して、悩みを聞いたる。それが上司や』)

海上自衛隊の総司令官である偉大な父、真一の教えが脳裏をよぎる。

「……オドレら。今日はお疲れさんじゃったな」

信長は、ブリキのコップに注いだ芋酒を掲げた。

「明日はまた、クソ忌々しいゲリラどもと殺し合いじゃ。泥にまみれて、弾を避け、またドワーフのオッサンに怒鳴られてバイトする。……地獄じゃな」

兵士たちは静かに頷く。

「じゃが! この一杯の酒と、お前らの流した汗だけは裏切らん! オドレら、国民くにを守るために地獄を進め! 乾杯じゃあぁッ!!」

「「「乾杯ィィィィッ!!」」」

塹壕に、芋酒をあおる男たちの豪快な笑い声が響き渡った。

酒の力は偉大だ。過酷な肉体労働と死の恐怖で擦り切れていたレンジャー部隊の士気は、この『Mod 40型』のおかげで完全に200%まで回復していた。

だが、その狂熱の宴のすぐ外側。

信長たちがバイトを終えたばかりの『ドワーフ地下自動車工場』のタイムレコーダーの前に、すれ違うようにして現れた影があった。

「……急げ。夜勤のシフトが始まるぞ」

氷のような声。

米海軍SEALs隊長、エリアス・ソーン大尉だった。

彼もまた、資金難を乗り越えるため、非番の獣人ゲリラ部隊50人を引き連れて「夜勤のバイト」に来ていたのである。

「隊長ぉ……もう腹ペコでスコップ持てませんよぉ……。敵の塹壕から、焼き鳥と酒の匂いがしますぅ……」

腹を空かせた獣人兵士が、泣きそうな声で耳を垂らす。

「黙れ。ラムネを配る。噛み砕いて血糖値を維持しろ」

エリアスは無表情のまま、タイムカードを「ガシャン」と押し込んだ。

「……サカガミめ。日勤で随分と稼いだようだな。だが、夜勤の時給アップ(深夜手当)を舐めるなよ」

かくして。

日米の最高峰の精鋭部隊が、同じ地下工場で「日勤」と「夜勤」のシフトを回しながら戦争の資金を稼ぐという、世界一泥臭いポポロ・ウォーの夜が更けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ