EP 5
精鋭部隊、地下工場でバイトする(そして至高の『Mod 40型』)
「オドレら! 腰入れんかい! 魔導エンジンのコアはデリケートなんじゃ! 落としたら減給じゃぞ!!」
カンッ! カーンッ! とけたたましい金属音が響き渡る。
ルナミス帝国・隣町の『ドワーフ地下自動車工場』。
そこには、煤と油にまみれながら、巨大な魔導戦車のパーツを肩に担いで運ぶ屈強な男たちの姿があった。
ルナミス軍・第一レンジャー小隊。
数日前まで最前線で弾幕をくぐり抜けていた精鋭部隊は今、時給銀貨1枚(1000円)の日雇い土方バイトで汗水流していた。
「隊長ぉぉ! 第3ラインのパーツ組み上げ、終わりましたァ!」
「おう! 次は第4ラインの魔石運搬じゃ! 走れ走れェ!」
坂上信長は、首に巻いたタオルで汗を拭いながら檄を飛ばした。
甲子園の準決勝まで行った持ち前のスタミナと、レンジャー訓練で鍛え抜かれた肉体労働スキルが、ここドワーフの地下工場で完全にバフとして機能していた。
「ガハハ! お前ら人間にしてはええ体力しとるのう! うちで正社員にならんか?」
ドワーフの現場監督が、信長の肩を叩いて大笑いする。
「すんません親方、ワシら一応、軍人なもんで!」
信長は人懐っこい笑顔で返しつつ、心の中では(クソッ、なんで日本の精鋭が異世界で期間工やらされとるんじゃ!)と血涙を流していた。
だが、これもすべては『弾』を稼ぐためだ。
ニャングルの弾薬値上げと、良樹の牛丼ストライキ(配送料1.5倍)宣言により、ルナミス軍の資金は完全にパンクした。戦うためには、こうして非番の兵士50人をフル稼働させて日銭を稼ぐしかないのだ。
やがて、終業のベルが鳴った。
「お疲れさん! ほれ、今日の日当じゃ!」
ドワーフの親方から分厚い茶封筒を受け取った瞬間、レンジャー部隊の男たちの目に涙が浮かんだ。
「た、隊長……! やりましたね……! これで明日の弾が買えます!」
「あぁ。よう頑張ったな、お前ら」
信長は茶封筒の重みを確認すると、ニヤリと笑って男たちを振り返った。
「しかも今日は、親方が特別ボーナスをつけてくれたわい。……オドレら、最近牛丼食えんでMREばっかりで、クサクサしとったじゃろうが。今日は特別に『アレ』をニャングルから買うてきたる!」
「えっ……ま、まさか……!」
数時間後。最前線の塹壕。
信長が「ドスッ」と地面に置いた木箱を見て、レンジャー部隊の兵士たちは息を呑んだ。
木箱に刻まれたステンシルの文字は『Mod 40型』。
「な、隊長!? これ、ルナミス軍の裏メニューと言われる、あの『Mod 40型』ですか!?」
「おうよ。労働の後の最高のご褒美じゃ」
『Mod 40型』。
それは、過酷な任務を終えた兵士のメンタルケアを目的として、極少数だけ生産されている特殊な戦闘糧食だ。
木箱を開けると、中には『特製・炭火焼き鳥の缶詰』『乾燥塩昆布』そして――。
「さ、酒だァァァッ!!」
「しかも芋酒(ポポロ・リザーブの廉価版)の小瓶が入ってるぞォォ!!」
兵士たちが狂喜乱舞した。
そう、Mod 40型の最大の特徴は、アルコール度数25度の『芋酒』の小瓶と、嗜好品のタバコがセットになっていることだ。戦場において、酒は最高のカンフル剤である。
信長は自らの愛煙するメビウス10ミリを一本咥え、金色のオイルライターで「カチッ」と火をつけた。
紫煙を細く吐き出しながら、部下たちに芋酒の瓶を配っていく。
(『ええか? 信長。タバコや酒は現地民や仲間達と仲良くなれるツールや。仲間が落ち込んでいたら、タバコを1本差し出して、悩みを聞いたる。それが上司や』)
海上自衛隊の総司令官である偉大な父、真一の教えが脳裏をよぎる。
「……オドレら。今日はお疲れさんじゃったな」
信長は、ブリキのコップに注いだ芋酒を掲げた。
「明日はまた、クソ忌々しいゲリラどもと殺し合いじゃ。泥にまみれて、弾を避け、またドワーフのオッサンに怒鳴られてバイトする。……地獄じゃな」
兵士たちは静かに頷く。
「じゃが! この一杯の酒と、お前らの流した汗だけは裏切らん! オドレら、国民を守るために地獄を進め! 乾杯じゃあぁッ!!」
「「「乾杯ィィィィッ!!」」」
塹壕に、芋酒をあおる男たちの豪快な笑い声が響き渡った。
酒の力は偉大だ。過酷な肉体労働と死の恐怖で擦り切れていたレンジャー部隊の士気は、この『Mod 40型』のおかげで完全に200%まで回復していた。
だが、その狂熱の宴のすぐ外側。
信長たちがバイトを終えたばかりの『ドワーフ地下自動車工場』のタイムレコーダーの前に、すれ違うようにして現れた影があった。
「……急げ。夜勤のシフトが始まるぞ」
氷のような声。
米海軍SEALs隊長、エリアス・ソーン大尉だった。
彼もまた、資金難を乗り越えるため、非番の獣人ゲリラ部隊50人を引き連れて「夜勤のバイト」に来ていたのである。
「隊長ぉ……もう腹ペコでスコップ持てませんよぉ……。敵の塹壕から、焼き鳥と酒の匂いがしますぅ……」
腹を空かせた獣人兵士が、泣きそうな声で耳を垂らす。
「黙れ。ラムネを配る。噛み砕いて血糖値を維持しろ」
エリアスは無表情のまま、タイムカードを「ガシャン」と押し込んだ。
「……サカガミめ。日勤で随分と稼いだようだな。だが、夜勤の時給アップ(深夜手当)を舐めるなよ」
かくして。
日米の最高峰の精鋭部隊が、同じ地下工場で「日勤」と「夜勤」のシフトを回しながら戦争の資金を稼ぐという、世界一泥臭いポポロ・ウォーの夜が更けていくのだった。




