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EP 3

弾幕とリヤカー(勘違いチート発動)

「オドレらァ! 頭ァ下げとけ! 『灰色の幽霊グレイ・ゴースト』の狙撃が来るぞ!!」

ルナミス軍・第一レンジャー小隊を率いる坂上信長さかがみ のぶながの怒声が、爆音にかき消されながらも戦場に響いた。

西の丘陵地帯・Dセクター。ここは現在、レオンハート軍のゲリラ部隊とルナミス軍のレンジャーが激突する最激戦区となっていた。

ヒュンッ……パンッ!

乾いた破裂音と共に、土嚢の端をかすめた.338ラプアマグナム弾が後方の岩を粉砕した。

信長は舌打ちをし、愛用の89式カスタムのグリップを強く握り直す。

(……エリアスの野郎、開始早々ニャングルからあの悪魔みてぇな狙撃銃(TAC-338)を買いやがったな。初期資金のほとんどをブチ込んで……ホンマにイカれとるわ)

距離は1,000メートル以上。心拍数を死体並みに落として放たれる精確無比な狙撃の前に、レンジャー部隊は釘付けにされていた。おまけに資金難で弾薬の無駄撃ちもできない。

「隊長! 右翼から回り込まれます!」

「慌てるな! 落ち着いて引き付け……」

信長が指示を出そうとした、その時だった。

「……は?」

信長は、我が目を疑った。

両軍が文字通り『弾の雨』を降らせている無人地帯のド真ん中を、場違い極まりない**『屋台』**がのんきに歩いてきたのだ。

屋台を引いているのは、やたらと目つきの悪いジオ・リザード。そしてその後ろを歩いているのは、右目に薄汚れた包帯を巻き、片手で顔を覆う謎の青年だった。

「な、なんじゃあいつは……!? 民間人か!? 狂っとるんか!?」

同じ頃。

その『狂っている青年』――佐須賀良樹は、内心で絶叫していた。

(ヒィィィィィィッ!! なんで頭の上を曳光弾がビュンビュン飛んでんの!? 怖い! 帰りたい! コンビニのレジ打ちに戻りたい!!)

良樹の膝はガクガクと笑い、今にもその場にへたり込みそうだった。

だが、土嚢の向こうから、数十人の血走った目をした兵士たち(レンジャー部隊)がこちらを凝視している。

中二病の悲しいさがが、ここで「助けてください」と泣き叫ぶことを許さなかった。

(クソッ! こうなったら、ハッタリで乗り切るしかねぇ!)

良樹は震える手で、背中に背負った巨大な筒――ドワーフ製の『竜撃砲』を構えた。

これは一撃必殺の浪漫兵器だが、チャージに3分かかる上に、安全装置セーフティなどという気の利いたものはついていない。ただ引き金を引いて待つだけの鉄パイプだ。

しかし、良樹は空いた左手を虚空に走らせ、**存在しないボタンやレバーを激しく操作する演技(エア操作)**を始めた。

「ククク……愚かな人間どもめ。見せてやる……深淵の力をッ!」

良樹は虚空をタップし、存在しないダイヤルを回す。

「第1セーフティ、パージ! 空間アンカー射出! 魔力充填率120%……リミッター強制解除ッ!」

「(……良樹よ。貴様は何を一人で忙しく踊っているのだ。見ているこちらが恥ずかしいぞ)」

屋台を引くロードが、呆れ果てた念話を送ってくる。

「(うるせぇ! これがロマンなんだよ! あと3分持たせないといけないんだよ!)」

良樹がエア操作に熱中している間にも、無慈悲な銃弾が彼らに向かって降り注ぐ。

だが、ロードが微かに目を細め、ため息交じりに『時間遅延プチ』の権能を発動させた。

ポロッ……ポトリ……

良樹に向かって飛んできた5.56ミリ弾や狙撃弾が、彼の数十センチ手前でまるで泥沼にハマったように急減速し、地面に無害な金属音を立てて落ちていく。

――その光景は、両軍のプロフェッショナルたちを戦慄させるに十分だった。

「な……なんちゅうバケモノじゃ……!」

信長は、咥えていたメビウスをポトリと落とした。

「弾を視て避けとるんじゃない。弾が奴を避けて落ちとる……! 空間そのものを歪めとるんか!? それに、あの空中で指を動かす異様な動作……見えない魔導盤コンソールで、未知の殲滅兵器を起動しとるんか!?」

一方、1,000メートル先の高台。

スコープ越しにその一部始終を見ていたエリアス・ソーンもまた、氷のような顔に微かな冷や汗を浮かべていた。

「……弾道が逸れた、だと?」

心臓の鼓動すら止めて放った必殺の一撃が、ただの青年の前で失速して落ちた。

「……空間干渉系のアビリティか。いや、それだけじゃない。あの男、見えない端末を叩き、強大なエネルギーを圧縮している。撃たせれば……この山ごと消し飛ぶぞ」

エリアスは無意識のうちに、ポケットからラムネ(タブレット)を取り出し、ボリボリと噛み砕いた。極度の緊張による脳のブドウ糖枯渇を補うためだ。

「総員、射撃中止。あの『運び屋』には手を出すな」

エリアスは即座に部隊に命令を下した。ここでアレを刺激するのは、戦略的に下の下だと判断したのだ。

両軍の射撃が、嘘のようにピタリと止む。

戦場に、静寂が訪れた。

(……あれ? なんか撃ち合い止んだ?)

良樹は、エア操作の手をピタッと止めた。

3分が経過したが、ここで本当に竜撃砲をぶっ放したら、ガオガオンのルール⑦(市民からの攻撃)に抵触して失格(焼却)になってしまう。

良樹はフッと前髪を掻き上げ、口元を歪めてニヤリと笑った。

「チッ……命拾いしたな。今日のところは、このくらいにしておいてやる」

良樹は竜撃砲を背中に戻し、何事もなかったかのように屋台の蓋を開けた。

「ククク……待たせたな、迷える仔羊たちよ。我が深淵の釜より出でし、至高の供物だ」

フワァァァ……っと、出汁と牛肉の暴力的なまでに食欲をそそる匂いが、硝煙の立ち込める塹壕に流れ込んでくる。

信長は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「オドレら……神の御遣いじゃ……神が、ワシらに牛丼メシを持ってきてくださったぞォォッ!!」

こうして、良樹の無自覚なチートと中二病のエア操作、そしてロードの密かなサポートにより、「眼帯の運び屋は、空間を歪めて弾幕を無効化し、見えないコンソールで山を消し飛す兵器を操る戦場の神」という、取り返しのつかない重篤な勘違いが両軍に深く刻み込まれたのだった。

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