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EP 2

1億円の殺し合いと、笑う黄金猫

「……報告しろ。さっきの『現象』はなんだ」

冷え切った声が、レオンハート獣人王国軍・前線指揮所のテント内に響いた。

米海軍SEALs隊長にして、獣人ゲリラ部隊の客将を任されている男、エリアス・ソーン大尉は、愛用の狙撃銃『TAC-338』から視線を外し、氷のような眼差しを部下に向けた。

「は、ハッ! ルナミス軍の塹壕に向かって歩いていく民間人を捕捉。即座に威嚇射撃とRPGによる弾幕を展開しましたが……全弾、命中せず。対象は無傷で敵陣営に接触し、何らかの物資を引き渡した模様です」

「魔法障壁か?」

「いえ、魔力反応はゼロです! 弾丸が対象の数センチ手前で『不自然に減速して落ちた』と、観測手は証言しています!」

獣人の部下が、恐怖に耳を伏せながら報告する。

「……部隊内では、女神ルチアナが遣わした『戦場の神』ではないかと噂が……」

「馬鹿を言え」

エリアスはブラックコーヒーを一口啜り、Zippoライターをカチンと鳴らして黒タバコに火をつけた。

「神などいない。いるのは、弾道計算を狂わせる未知のテクノロジーか、厄介な異能スキルを持った民間人だけだ。……だが、あの『運び屋』の存在は、我々の戦略を根本から覆しかねないぞ」

エリアスは手元の魔導タブレットを起動し、そこに表示された数字を睨みつけた。

【レオンハート軍 残高:金貨8,500枚】

【ルナミス軍 残高:不明】

これが、このふざけた箱庭戦争――『ポポロ・ウォー』の絶対ルールだ。

両軍に与えられた初期資金は、それぞれ金貨1万枚(日本円にして約1億円)。

勝利条件は、相手の陣地にある重さ50kgの『覇権の旗(魔石)』を奪い、24時間キープすること。

本国からの支援は一切なし。弾薬一発、手榴弾一個、そして兵士の口に入る水の一滴に至るまで、すべてこの「初期資金」から購入しなければならない。

兵站ロジスティクスが途絶えれば、軍は3日で崩壊する」

エリアスは紫煙を吐き出しながら呟いた。

問題なのは、物資の調達先が「ポポロ村の闇市場」に限定されていることだ。

【ポポロ村 中立地帯・闇市場】

「まいど! 5.56ミリ弾の補充と、MRE(戦闘糧食)の買い足しでっか? エリアスはん」

黄金の算盤を弾きながら、派手な着物姿の猫耳商人がニヤニヤと笑いかけてきた。

ポポロ村財務担当にして、死の商人・ニャングルだ。

「……弾薬の値段が、昨日の1.5倍になっているな。どういうつもりだ」

「いやぁ、戦争特需っちゅうやつですわ! ルナミス軍もよう撃ちよるさかい、弾の在庫がカツカツでしてな。需要と供給のバランス……経済の基本ですやろ?」

ニャングルは煙管を吹かしながら、悪びれもせずに言い放つ。

(この金の亡者め……)

エリアスは内心で舌打ちをした。この商人を撃ち殺して物資を奪うことはできない。そんなことをすれば、上空で監視している絶対法治システム『聖獣機神ガオガオン』のレーザーで、部隊ごと消し炭にされるからだ。

「……弾薬は必要数買う。だが、食料は一番安いMREの『No.4(黄色いスポンジオムレツ)』だけでいい」

「ホンマによろしいんでっか? あんなん食いモンちゃいまっせ。兵隊さんの士気、ダダ下がりちゃいます?」

「カロリーさえ摂取できれば、肉の機械ゴーストは動く。浮いた金は情報戦に回す」

冷徹に言い捨てて立ち去るエリアスの背中を、ニャングルは「相変わらず、可愛気のない客将はんやで」と笑って見送った。

【ルナミス帝国軍・司令部テント】

同じ頃。ルナミス軍の客将・坂上信長もまた、頭を抱えていた。

「オドレら……食い過ぎじゃあぁぁッ!!」

信長の怒声が響く。手元にある台帳には、信じられない額の赤字が記されていた。

「す、すいません中隊長! でも、あの眼帯の運び屋が持ってくる『牛丼』が美味すぎて……! 気づいたら部隊全員で『特盛ダクダク』を注文しちゃってまして……!」

「アホ! 一杯1000円もする特盛を100人で食ったら、10万円じゃぞ! それも昨日と今日で2回も! おかげで明日撃つ弾が買えんわ!」

信長はガシガシと頭を掻きむしった。

とはいえ、MREの不味さにウンザリしていた部下たちが、あの牛丼を食って士気を爆発的に回復させたのも事実だ。「腹が減っては戦はできん」というのが信長の信条でもある。

「……チィッ。しかし、あの眼帯の兄ちゃん、タダモンじゃなかったのぅ」

信長は、弾幕の中を平然と歩いてきた良樹の姿を思い出した。

「右目を隠し、中二病みたいなセリフを吐いとったが……アレは間違いなく『擬態』じゃ。あんな余裕の足運び、歴戦の猛者か、本物の化物しかできん。おそらく、俺たちを試しておるんじゃろう」

(※良樹はただ腰が抜けて足がもつれていただけであり、弾を避けたのはロードです)

信長はメビウスを一本咥え、金色のライターで火をつけた。

「ええか、お前ら。この戦争は、銃を撃ち合うだけの単純なモンじゃない。どれだけカネを確保し、あの神出鬼没な『運び屋(良樹)』を味方につけるかの勝負じゃ」

「では、隊長! 資金を稼ぐにはどうすれば……!」

「決まっとろうが」

信長はニヤリと笑い、自衛隊の迷彩服の袖をまくり上げた。

「銃を置いてスコップを持て。明日は非番の50人を連れて、ドワーフの地下工場で日雇いの土方バイトじゃ! 額に汗して、牛丼と弾の金をもぎ取ってくるぞ!!」

「「「ウオオォォォォッ!!」」」

こうして。

アメリカの精鋭SEALsが安物のスポンジ卵をかじって必死に節約し、

日本の精鋭レンジャー部隊が土にまみれて日雇いバイトに精を出すという、

世界一泥臭い「金と兵站の代理戦争」が、本格的に幕を開けたのだった。

そして彼らはまだ気づいていない。

自分たちの命運を握る「眼帯の運び屋」が、ただの『善行ポイントが欲しいだけのフリーター』であることに――。

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