おまけーSAVE THE CATの法則で学ぶ「お約束」
やあ(´・ω・`)
ようこそ、ジャンルを問わず使えるお約束「SAVE THE CATの法則」へ。
ここまでいろいろなジャンル分類を見てきたが、最後にひとつ紹介しておきたいことがある。それは、「ジャンルが違っても通用する、物語づくりの共通のお約束」だ。
恋愛でも、ミステリーでも、異世界でも、ホラーでも、読者が気持ちよく読める物語には、だいたい共通する「お約束」がある。
逆に言えば、ジャンルの研究をどれだけしても、この共通作法を踏み外すと、読者は「なんか読みにくい」「なんか乗れない」と感じる。
SAVE THE CATの法則が広まった理由のひとつも、ここにある。「観客がどういうところで乗るのか」「どこで白けるのか」を、かなり実務的に言語化したものなんだ。
ただし注意してほしい。
ここで挙げるものは絶対法則ではない。破ってはいけない憲法でもない。あくまで、「守ると読みやすくなりやすい」「破るなら意識して破れ」という実務ルールだと思ってくれ。
大きく「一般的に使えるお約束」と「やらない方がいいお約束」に分けて、解説していこう。
◆ ◇ ◇
1. 一般的に使えるお約束
■ 猫を救え(SAVE THE CAT)
意味は単純で、序盤で主人公に好感を持たせろ、である。読者が「この主人公を応援したい!」と一瞬で好感を持つための儀式。
ここでいう「猫」は本当に猫でもいいが、別に猫でなくてもいい。困っている子どもを助けるでも、損をしてでも筋を通すでもいい。要は、読者が「この人、嫌いじゃない」「ちょっと応援したい」と感じる一手が必要なのだ。
人は主人公のスペックだけでは好きにならない。強い、賢い、かわいい、悲しい過去がある。そういう要素はもちろん効く。だが、それだけでは足りない。「どう振る舞うか」で好感は決まる。
異世界転生ものでは、最初に人を助けて転生する、または盗賊やモンスターに襲われた人を助けることがあるが、これがまさにSAVE THE CATの法則だ。
■ プールで泳ぐローマ教皇
退屈になりがちな説明や状況紹介を、見せ方の工夫で面白くすることだ。設定説明そのものではなく、「なんだその絵面」と思わせる印象的な状況と一緒に出す。
会議室で「今の教会の状況は〜」とセリフだけで説明されたら面白みがない。だが、その説明を「ローマ教皇が水着姿でプールを泳ぎながら」語っていたら? 観客はその強烈なビジュアルに目を奪われ、退屈な説明セリフを無意識のうちに飲み込んでしまう。
上司のカツラがずれている状況下での会議、おしっこを我慢しながら聞く強盗計画、校庭に犬が現れたときの授業風景など、いろんなパターンが考えられる。世界観は、できるだけ事件、異常、印象、行動にくっつけて出すといい。
■テーブルの下の爆弾
観客(読者)だけが「危険」を知っている状態を作り、強烈な緊張感を生む手法。
サスペンスの神様、ヒッチコックの有名な理論だ。突然爆弾が「ドカン!」と爆発するのは単なる『驚き(サプライズ)』であり、5秒で終わる。
だが、「テーブルの下に時限爆弾が仕掛けられていること」を事前に読者だけに見せておき、その上で主人公たちが平和にお茶を飲んでいる姿を描けば、それは5分間続く極上の『サスペンス(緊張)』になる。
敵の裏切りを、主人公が気づくのと同時に読者に明かすな。事前に「こいつが裏切り者だ」と読者だけにこっそり教えておけ。読者は「主人公、そいつを信じちゃダメだ! 殺されるぞ!」とヤキモキしながら、ページをめくる手が止まらなくなる。またそれを逆手に取ったミスリードにも使えるだろう。
■ チェーホフの銃(銃は飾るな、飾ったら撃て)
序盤で意味ありげに登場させた要素(小道具、設定、伏線)は、必ず後半で役割を持たせろという鉄則。
ロシアの劇作家チェーホフの言葉だ。「第1幕で壁に銃が掛かっていると描写したなら、第2幕か第3幕で必ずそれを撃たなければならない。撃たないのなら、壁に飾るべきではない」。
読者は意外と覚えている。とくに意味ありげに出したものは、「これは後で効くんだな」と思って読む。
そこを何もせず放置すると、期待だけ積み上がって満足が来ない。
■ 魔法(奇跡)は1度まで
1つの物語の中で、奇跡や特殊な超常設定(SF・ファンタジー要素)を何度も重ね掛けしてはいけないというルール。一度使うなら強い。だが何度も続くと、読者は「またそれか」と思う。
読者は1回だけなら「宇宙人が攻めてくる話」だろうが「吸血鬼が蘇る話」でも受け入れる。だが、何度も奇跡や魔法の存在を詰め込まれると、何でもありの馬鹿げた話として感情移入を放棄する。
ご都合主義な奇跡を連発すると、物語の緊張感が死ぬ。
■看板メニューを出せ
その作品ならではの「一番見たい面白さ(企画の売り)」を、出し惜しみせずに本編でたっぷりと見せること。一瞬で終わらせないこと。
映画の予告編で一番ワクワクするシーンを、本編でも一番美味しく提供する義務のことだ。読者は、あらすじやタグという「看板」を見て店に入ってきている。これが弱いと、「タイトルに釣られた」「あらすじの約束と違う」と思われやすい。
■ 真ん中から始めろ(遅く入って早く出ろ)
世界観の成り立ちや過去の説明から始めるのではなく、出来事の「真っ只中」からいきなり物語をスタートさせる技術。
特に初心者は、最初から全部説明したくなる。だが読者は授業を受けに来たわけじゃない。まずは何か起きていて、その先が気になる状態にする。説明は、そのあとでも間に合うことが多い。
「この世界は、光の神と闇の神が〜」という神話から第1話を書き始めるな。「気づいたら、目の前に巨大なドラゴンの牙が迫っていた」という絶体絶命のピンチから書き始めろ。どうしてそうなったかの説明(回想)は、読者が主人公に興味を持った後でやればいい。
■ 3回目で決めろ
1度目で提示し、2度目でパターンを作り、3度目で回収または裏切る。ギャグ、会話、伏線、対決構造に使いやすい。
人間の脳は3という数字に心地よさを感じる。ギャグも、シリアスな伏線も、対決構造も、すべて3回セットで展開すると美しく決まる。3度目の正直だ。
1回だけだと偶然に見える。2回だと繰り返し。3回だとパターンとして認識される。だから3回目で決めると、快感が出やすい。
■ 箱の中身はわりとどうでもいい(マクガフィン)
登場人物たちが血眼になって追いかける目標物(アイテムや秘密)は、物語を進めるための「言い訳(装置)」として機能すれば、中身はなんでもいい。
ヒッチコックの理論だ。スパイが奪い合う「国家の最高機密が入ったアタッシュケース」。その機密の具体的な内容は、実は観客にとってどうでもいい。大事なのは、「その箱をめぐって、主人公と敵がどう動き、どう命を懸けるか」という人間ドラマの方だ。
「不治の病の妹を救う万能薬」を探す旅で、その薬の成分や歴史設定を10ページかけて語る必要はない。「それを手に入れないと妹が死ぬ」という事実さえ読者に伝わっていれば、マクガフィンとしては100点満点だ。
■ 赤いニシンは香らせろ(レッド・ヘリング)
読者の注意を「あえて間違った方向」に向けるための偽の手がかり(ミスリード)の技法。
猟犬の鼻を狂わせるために使われた赤いニシン(燻製)が語源だ。読者に「こいつが怪しい!」と思わせておいて、実は全く関係なく、本当の犯人は身近にいた、というような驚きを作るためのスパイスだ。
ただし、嘘をついてはいけない。読者が後から読み返した時に「騙された! でも確かにそう見えるように書いてあるわ!」と納得できる形で騙すこと。後出しの反則は避ける。
■ 松葉杖と眼帯
キャラクターを読者の脳裏に一発で焼き付けるための、強烈な視覚的・言語的な「フック(癖・デザイン)」を与えること。
登場人物が5人も6人も出てくると、読者は誰が誰だかわからなくなる。だから、全員に「パッと見でわかる特徴」を与えるんだ。片足を引きずっている、眼帯をしている、異常なほどの甘党、独特な語尾(〜だってばよ、~なのじゃ)。
会話文だけで誰が喋っているかわかるようにキャラクターの口調を作り込め。「金髪ツインテールでツンデレ」「常に笑顔だが目が笑っていない糸目の暗殺者」。ベタな属性(記号)は、読者の認知コストを下げる最強の武器だ。
■主人公に選ばせろ
大事な局面ほど、主人公自身に選ばせること。
流されるだけの主人公は、どうしても弱く見える。もちろん巻き込まれ型はある。だが、クライマックスや重要な節目では、主人公が何を選ぶかが欲しい。読者は主人公の選択を通して、その人の物語を読んでいるからだ。
◆ ◆ ◇
2. やらない方がいいお約束
■ 神様クレーン降ろし(デウス・エクス・マキナ)
積み上げてきた因果とは全く無関係な「外部からの都合のいい力」で、突然問題を解決してしまう禁じ手。
古代ギリシャの演劇で、収拾がつかなくなった物語の最後に、神様役の役者がクレーンで舞台に降臨して全部解決して終わったことが語源だ。読者から見れば「ここまでの主人公の努力は何だったんだよ!」となる。
絶体絶命の魔王戦のクライマックスで、今まで一度も伏線を張っていなかった「伝説の神獣」が偶然通りかかって魔王を踏み潰して終わる。あるいは「隕石が落ちてきて敵が全滅する」。
奇跡そのものが悪いわけではない。問題は、そこまでの積み上げとつながっていないことだ。解決は、できるだけ登場人物自身の選択と行動から出したい。
■第3幕に異物を入れる
クライマックスの解決策や新たなルールを、物語の終盤になってから突然出してはいけない。
第3幕 (クライマックス)は、これまで第1幕・第2幕で丁寧に積み上げてきた要素(伏線、仲間の絆、葛藤)の決算発表の場だ。ここで「実は俺、こんな魔法も使えたんだよね」と、これまで一度も出てこなかった新要素で解決すると、読者は完全に白ける。
どうしてもクライマックスでその新しい力を使いたいなら、必ず第1幕(序盤)の「どうでもいい日常シーン」の中で、一度その魔法の存在を匂わせておかなければならない。
■猫を殺す
「猫を救え」の逆。観客・読者が、主人公に対して決定的な「嫌悪感」を抱いてしまうような行動をとらせてしまうこと。
悪役にヘイトを集めるために「無抵抗な者を痛めつける(猫を殺す)」描写を入れるのは非常に有効だ。しかし、主人公にこれをやらせてはいけない。序盤で「こいつ、倫理的にクズだな」と思われた主人公は、応援してもらえない。
なぜか主人公に共感できないなぁと思うとき、大体これをやってたりする。
■ 着ぐるみの中の人(マスコミ立ち入り禁止)
作者の都合や「物語を動かしたい」という意図が透けて見え、物語世界への没入感を破壊してしまうこと。中の人などいない。
ディズニーランドのミッキーマウスが、突然頭を脱いで中からおっさんが顔を出したら子どもは泣くだろう? 物語も同じだ。キャラクターが、本来の性格なら絶対にしないような「作者にとって都合のいいバカな行動」をとった瞬間、読者は「ああ、作者が話を動かすために無理やりやらせてるな」と冷める。
不自然な説明セリフや、物語の引き延ばしのためにヒロインに不自然な行動をとらせるな。キャラクターには、常に「彼ら自身の切実な動機」で動いてもらわなければならない。
■ 退屈な歴史の授業(パイプ置きすぎ!)
設定や世界観の説明が長すぎて、物語としての「動き」が止まってしまう状態。パイプは、水道管(伏線や設定)の工事ばかりしていて、いつまで経っても水(本編の面白さ)が出ない状態の比喩だ。
作者は自分が作った世界観の設定(国名、魔法の歴史、年表)を全部語りたがる。だが読者は、そんな「設定資料集」を読みに来たわけではない。ドラマを読みに来たんだ。準備が長すぎると、読者は「で、いつ面白くなるの?」と疲れて去っていく。
プロローグで「この世界は3つの大陸に分かれており〜」と歴史の授業を始めるな。先述の「プールで泳ぐローマ教皇」の技術を使い、ストーリーのアクションの中で少しずつ、必要な分だけを開示していくんだ。
■ マジパン多すぎ!
アイデアや奇抜な設定を盛り込みすぎて、作品の「本当の核(感情のドラマ)」が見えなくなること。で、何がメインなの?
マジパンとはケーキの上の砂糖菓子の装飾だ。デコレーション(設定)ばかりがド派手で多くても、下のスポンジ(プロット)が美味しくなければ、胸焼けして食べられない。
特殊能力、政治劇、恋愛、複雑な血縁関係……要素が多いほど豪華になるわけではない。むしろ「結局、何を楽しめばいい作品なのか」がボヤけてしまう。核となるプロットは常にシンプルに保て。
■卵から始める
登場人物の生い立ちや世界の成り立ちを最初(誕生)から順番に説明しすぎて、本編になかなか入らないこと。
読者は主人公の幼少期から青年期までの物語を読みたいわけではない。
転生モノで、赤ん坊として生まれ、ハイハイをし、文字を覚え……という過程を延々と書くのは危険だ。「真ん中から始めろ」のルールに従い、彼が本格的に世界と衝突し始める「面白い時代」からスパッと始めろ。
■ 氷山遠すぎ!
脅威や敵の動きが遅すぎ(遠すぎ)て、物語に切迫感が出ないこと。
「100年後にあなたは死にます」。……だから何だ? 危険が見えているのに、なかなか近づいてこないとサスペンスは維持できない。
敵の強大さを見せるのはいいが、「明日の日没までにこの呪いを解かないと妹が死ぬ」というように、脅威は常に「主人公の喉元」まで迫っていなければならない。タイムリミット(時限爆弾)の針を進めろ。
■ リスクなさすぎ!(賭け金が低い)
主人公が失敗した時の代償(失うもの)が設定されておらず、クライマックスに緊張感がない状態。読者から見ると、「それ、別に悩むほどのことか?」となる。
もし主人公がここで魔王に負けたらどうなるの? 「ちょっと痛い思いをして、村に逃げ帰るだけです」。……なら、何をそんなに真剣に悩んでいるんだ? と読者は白ける。
戦いには常に「命」「愛する人の命」「世界」「絶対に守りたい尊厳」など、重すぎる賭け金をテーブルに乗せろ。リスクがない戦いに、ドラマは生まれない。
■ 主人公が主人公してない
見せ場や決断を脇役(メンターや仲間)に奪われ、主人公がただ状況に流されるだけの受け身の傍観者になること。
物語を前へ進めるのは、常に主人公の「自発的な意志と行動」でなければならない。ピンチのたびに師匠が助けに来たり、王様からの命令でただ動いているだけの主人公は、存在感が薄れ、読者は誰に感情移入していいかわからなくなる。
脇役が魅力的なのはいい。だが、いちばん大事な選択、いちばん大きな決着は、できるだけ主人公に返したい。
■ もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?
主人公(あるいは特定の仲間)の能力が強すぎて、物語の不確定性や緊張感をすべて破壊してしまうこと。
チート能力を持つ主人公にありがちな罠だ。「どうせあいつが本気を出せば、ワンパンで終わるんでしょ?」と読者に思われた瞬間、物語から「どうなるんだ!?」というサスペンスが消滅する。
主人公が物理的に最強なら、物理では解決できない問題(強者認定されていないというすれ違い、精神的な弱点、守るべき足手まといの存在、政治的な圧力、愛する人とのすれ違い)を用意しろ。スーパーマンにとっての弱点を必ず設定するんだ。
■ サブストーリー多すぎ!
主人公以外の脇役のエピソードが増えすぎて、メインのストーリー(主筋)が迷子になること。
作者は自分が作ったサブキャラクターを愛するあまり、彼らの過去編や戦闘シーンを長々と描きたがる。だが、それらが多すぎると、読者は「あれ、主人公の目的って何だっけ?」と関心が分散してしまう。
サブキャラクターのドラマは、「主人公の成長」や「メインストーリーの推進」に絡む形として機能させろ。無関係な寄り道はすべて刈り込め。
■ フラッシュバック多すぎ!
過去の回想シーンを多用しすぎて、現在の物語が前に進む力を殺してしまうこと。
フラッシュバックは強力な演出技法だが、物語の時間を一時停止させる劇薬だ。連発するとテンポが悪くなり、読者はイライラする。
■ 銃を壁に飾りすぎ!
気になる謎や伏線、意味ありげな設定を大量に出すだけ出して、ほとんど回収せずに放置すること。
「チェーホフの銃」を無視した大罪だ。読者の期待(謎への興味)だけを無責任に積み上げておいて、風呂敷を畳まない。
謎を散りばめるのはいい。だが、散らかしたオモチャは必ず元の箱に片付けろ(回収しろ)。回収するアテがない設定は、最初から壁に飾るな。
■ 箱の中身を神格化しすぎ!
目標物の設定や歴史ばかりを重く・複雑にしすぎて、それを追うキャラクターの感情や人間関係が弱くなること。
「この伝説の剣は、神話時代に神が鍛えし金属で作られており〜」という設定はどうでもいい。読者が読みたいのは、「その剣を手に入れるために、主人公と親友がどうして殺し合わなければならなくなったのか」という人間のドラマの方だ。
アイテムや魔法のルールの設定集を作ることに熱中するな。その設定が「キャラクターにどんな過酷な選択を迫るか」に全神経を集中させろ。設定はキャラクターを輝かせるための照明機材に過ぎない。
■敵がバカすぎ!
主人公を活躍させたいあまり、敵や障害役を不自然に無能にしてしまうこと。
相手が雑魚だと、勝っても気持ちよくない。主人公を賢く見せたいなら、敵もちゃんと賢くしたほうがいい。
◆ ◆ ◆
まとめ
頭の中がパンクしそうになっているかもしれないが、これらのお約束は暗記試験ではない。執筆に行き詰まった時、あるいは書き上げた原稿を推敲する時に、見返してチェックするためのものだ。
物語を作っていて、なんか面白くないなぁと思ったときに見返してみてくれ。
今回は以上だ、解散!
【参考】
ブレイク・スナイダー, SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術




