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読まれるエンタメ物語のテンプレ集 ~テンプレは悪じゃない!読者の期待を外さない物語の組み立て方~  作者: 夕月 悠里
第2章後半:Web小説のアイデアジャンルのテンプレ

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Web小説におけるアイデアジャンル

やあ(´・ω・`)


第2章の前半では、古今東西の先人たちが分析してきた物語の基本ジャンルについて見てきた。ここからは第2章の後半戦、いよいよWeb小説の「アイデアジャンル」という名の魔境に足を踏み入れる。


Web小説のランキングを開けば、そこにはこんな言葉が並んでいる。「異世界転生」「悪役令嬢」「追放」「契約結婚」「無自覚チート」。


俺たちはつい、こうした表面上の設定名やタグによって作品を分類しがちだ。もちろん、それ自体は間違いではない。読者も投稿者も、まずはそのラベル(看板)を見て、「ああ、これはあんな感じの物語だな」と期待する内容を思い浮かべるからだ。


だが、君が本気でランキングを駆け上がり、多くの読者を熱狂させたいなら、設定名の分類だけで満足していてはダメだ。


なぜなら、読者が本当にお金を払い、時間を費やしてまで求めているのは「剣と魔法の世界」や「豪華な舞踏会」といった単なる舞台装置ではないからだ。彼らが求めているのは、その設定を通して得られる強烈な感情の動き――つまり「快感の構造」なんだ。


◆ ◇ ◇


1. 人気ジャンルの正体は「読者の欲求を満たすアイデア」だ


たとえば、Web小説の王道である「追放もの」というジャンルがある。


君は、読者が「主人公が勇者パーティーを理不尽にクビになる出来事」そのものを楽しんで読んでいると思うか? 


読者がそこで受け取っている快感の正体は、「不当に低く見積もられていた主人公が、別の場所で本当の圧倒的な価値を認められ、かつて見下してきた連中がそれを思い知って後悔する」という逆転と承認のカタルシスだ。


これが理解できていれば、「主人公が勇者にパーティーを追放されるファンタジー」と、「令嬢が王太子に婚約破棄される宮廷もの」が、実はまったく同じ構造を持った双子のジャンルだということに気づけるはずだ。


舞台が冒険者ギルドか、貴族の夜会かの違いでしかない。「お前は無能だ」と切り捨てられた主人公が、別の場所(新パーティーや隣国の王子)で高く評価され、元いた場所は勝手に没落していく。読者が味わっている快感は完全に一致している。


「悪役令嬢もの」も同じだ。


悪役令嬢という肩書きや、ドレスを着ていること自体に本質があるわけではない。このジャンルの根底にあるのは、「破滅バッドエンドが約束された理不尽な立場にいる人物が、未来の知識や、知恵と努力を使って運命を書き換え、自分の尊厳と幸福を勝ち取る」という回避と再生の構造だ。


だから、この骨格さえ維持していれば、主人公を男にして「悪役令息もの」にしても成り立つし、歴史上の悲劇の武将に転生して本能寺の変を回避する「IF戦記もの」にしても、読者は同じ質の快感を得られる。


表面の衣装(設定)は違っても、その奥にある「逆転したい」「正当に評価されたい」「理不尽な運命から逃れて安心したい」「危険を安全圏から高見の見物したい」といった、読者の生々しい欲求に対応した構造がある。


つまり、ジャンルを設定のカタログとしてではなく、「読者のどんなストレスを取り除き、どんな感情を爆発させる装置なのか」という視点で読み解くこと。これで初めて、そのジャンルがなぜ強いのか、どこに読者の支持が集まっているのかが立体的に見えてくる。


「何が流行っているか(What)」を知ることよりも、「なぜそれが流行るのか(Why)」を知ることの方が、創作においては100倍重要なんだ。


快感の構造さえ理解していれば、同じ骨格を別の舞台に移し替えたり、逆に同じ設定の中で異なる感情設計を行ったりできる。設定だけを真似た中身の薄いコピー作品から脱却し、読者の急所を正確に突く、君だけのオリジナルを生み出すための最強の武器になる。


◆ ◆ ◇ 


2. 男性向けと女性向け――「誰の」欲求を満たすのか


さて、ここからがさらに重要な話だ。


Web小説のアイデアジャンルには、大きく分けて「男性向け」と「女性向け」の土壌が存在する。


Web小説の人気ジャンルを見ていると、同じような名前、同じような構造のジャンルでも、ターゲットとする読者層が変わるだけで、物語の重心や見せ方がまるで違ってくることがある。


先ほど挙げた「追放(不当評価からの逆転)もの」を例に、具体的にどう変わるか見てみよう。



【男性向けの場合:外的な能力の証明と拡張】

設定例: 支援魔法しか使えない主人公が、勇者から「お前は足手まといだ」とパーティーを追放される。


展開: 追放後、実はその支援魔法が規格外の「チート能力」だったことが判明する。主人公は新しい仲間(たいていは可愛いヒロインたち)と出会い、その能力を使って無双し、ギルドや国から称賛される。一方、主人公を失った勇者パーティーはクエストに失敗し、没落していく。


快感の中心: ここで求められているのは、「有能さの証明」だ。社会や組織の中で歯車として扱われがちな男性読者の、「自分の本当の実力を世界に認めさせたい」という外向きの承認欲求を満たしている。



【女性向けの場合:内的な尊厳の回復と絶対的な保護】

設定例: 地味で裏方作業ばかりさせられていた令嬢(または聖女)が、王太子から「お前のような地味な女は不要だ」と婚約破棄(追放)される。


展開: 傷ついた主人公は、冷酷と噂されるが実は超ハイスペックな隣国の公爵スパダリに拾われる。公爵は彼女の隠れた才能や優しさを即座に見抜き、異常なまでに溺愛・保護する。主人公を捨てた王太子は、新しい恋人と共に国を傾かせ破滅する。


快感の中心: ここで求められているのは、「関係の再編」「尊厳の回復」「絶対的に安全な愛情の獲得」だ。「自分を正しく見て、無条件で肯定してくれる相手(理解者)との接続」という、精神的な関係性が大事だ。



もう一つ、「悪役もの(破滅回避)」の例も見てみよう。


【男性向けの場合:知識によるシステムのハック】

展開: ゲームの悪役に転生した主人公。バッドエンドを回避するため、原作の知識(アイテムの隠し場所や効率的なレベル上げ)をフル活用し、本来なら勝てない敵を論理的・戦略的に蹂躙していく。


快感の中心: 「ゲーム(世界)のルールの裏をかき、圧倒的優位に立つ」という攻略の面白さ。



【女性向けの場合:破滅回避と溺愛のセット】

展開: 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公。処刑エンドを避けるため、ヒロインをいじめるのをやめ、領地経営や人助けに奔走する。すると結果的に、攻略対象のイケメンたちがヒロインではなく、主人公の健気さに惹かれて執着し始める。


快感の中心: 「死の恐怖ストレスからの脱却」と、「意図せず周囲から愛され、守られる環境が完成する」という心理的安全性。



どうだろうか。同じ「追放」や「悪役」という看板を掲げていても、読者がそこで受け取りたい快感の配分は一様ではないんだ。


傾向としてまとめるとこうなる。


男性向けでは、「強くなること」「世界を広げること」「周囲(多数)から称賛されること」といった、外向きの勝利が快感の中心になりやすい。


女性向けでは、「安心できる居場所を見つけること」「自己肯定感を取り戻すこと」「運命の相手(特定の少数)から深く愛されること」といった、内向きの関係性の変化が中心になりやすい。



これは、どちらが優れているとか、文学的だという話では一切ない。読者が物語に求める「満足の重心」が少し違うという、厳然たるマーケティングの事実だ。


だから、男性向けのサイトで、主人公がいつまでも強さを示さず、出来ない言い訳をねちねち書いていたら「展開が遅い」「早く無双しろ」と文句を言われる。


逆に、女性向けのサイトで、ヒロインが剣を振り回して魔王軍を殲滅し、領地を拡大し続けても「ヒーローとの甘いイチャイチャが見たいのに」と離脱されてしまう。


ケーキの土台(構造)は同じでも、上に乗せるクリームの甘さや、トッピングの果物を「誰に向けて作るか」で完璧に調整しなければならないんだ。


◆ ◆ ◆


第2章の後半では、この「快感の構造」と「ターゲットによる違い」に着目し、Web小説で人気を集めているあらゆるアイデアジャンルを解剖していく。


大事なのは、「異世界転生ではチート能力が流行っているらしい」という、薄っぺらい表面的な紹介で終わらないことだ。


「このジャンルは、読者にどんな感情を約束しているのか?」

「どのようなストレスを徹底的に排除し、どのような感情を届けているのか?」

これを徹底的に読み解いていく。


人気ジャンルの設定をただ丸暗記するだけなら、Wikiでも見ていればいい。だが俺たちが目指すのは、ジャンルを理解し、その設計図を自分の作品に落とし込めるようにすることだ。


そうすれば、現在の流行を説明するだけでなく、「いまこの要素を足せば、新しい流行(変種)が作れるんじゃないか?」と予測するための強固な足場ができあがる。また男性向けで流行っているものを改変して女性向けに取り組むこともできるようになるだろう。


さあ、用意はいいか? 


物語の裏側、読者の脳を焼く「快感のスイッチ」の正体を暴きに行こうぜ。

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