ウラジミール・プロップの31の機能
やあ(´・ω・`)
ようこそ。物語構造の終着点「ウラジミール・プロップの31の機能」へ。
今回のタイトルを見て君はこう思ったかもしれない。
「今度は31個!? いったいどれだけ基本の構成はあるんだよ!!」
その気持ちは痛いほどよくわかる。だが、安心してくれ。物語の基本構成はこれで最後だ。
これまで俺たちは、ブレイク・スナイダーの「BS2(15ビート)」、ジョーゼフ・キャンベルの「17の段階(英雄の旅)」や、ジョン・トゥルービーの「22の段階」といった構成を学んできた。
だが、彼らがこれらの理論を打ち立てるよりずっと前に、物語の構造というものが分類されている。それが「ウラジミール・プロップの31の機能」となる。
この理論は、非常にドライで、物理的でわかりやすい機能のリストだ。ファンタジー的な昔話をベースに分析しているため、現代のWeb小説で大流行している異世界ファンタジーを書く参考になるだろう。
今回は、この約100年前に発表された構成を紹介しよう。
◆ ◇ ◇ ◇
1. ストーリー構造の31の機能とは?
この恐るべき理論を発表したのは、ロシアの昔話研究家、ウラジミール・プロップだ。彼が1928年に発表した『昔話の形態学』という本の中で、この31の機能について語られている。
ウラジミール・プロップは、ロシアの民話集(アファナーシエフの魔法昔話)から100の物語を抽出し、それを徹底的に比較・分析した。そして、彼はとんでもない法則を発見してしまった。
「登場人物が誰であろうと、彼らが物語の中で果たす『機能(行動)』は、たった31種類に分類できる」
これがプロップの形態学だ。
例えば、「王様が勇者に名馬を与える」のも、「魔法使いが少年に空飛ぶ絨毯をくれる」のも、描写は違うが、物語上の機能はどちらも「移動の手段の獲得」だ。
このように、プロップはキャラクターの見た目や属性をすべて剥ぎ取り、物語を動かすエンジンである「機能」だけを抽出したんだ。
彼によれば、ロシアの魔法昔話では「31の機能」と、それを実行する「7種類のキャラクター機能(役割)」、それらの機能の組み合わせで説明できるとされる。
【31の機能】
1.不在
2.禁止
3.違反
4.情報の要求
5.情報の入手
6.策略
7.幇助
8.加害・欠如
9.派遣
10.任務の受諾
11.出発
12.先立つ働きかけ
13.反応
14.獲得
15.空間移動
16.闘争
17.標付け
18.勝利
19.加害・欠如の回復
20.帰路
21.追跡
22.脱出
23.気付かれざる帰還
24.偽りの主張
25.難題
26.解決
27.認知
28.露見
29.変身
30.処罰
31.結婚ないし即位
【7種類のキャラクター機能】
主人公:物語を牽引し、欠如を回復する者。自ら動く能動的な勇者もいれば、巻き込まれる被害者型もいる。(例:勇者、村の若者、追放された底辺職)
偽の主人公:主人公のふりをして手柄を横取りしようとするクズ。現代のWeb小説における「ざまぁ」のメインターゲットだ。(例:腐敗した貴族、主人公を追放した元の勇者パーティのリーダー)
敵対者:主人公の邪魔をし、加害を行う悪役。物語に「問題」を発生させる元凶。(例:魔王、悪の魔法使い、陰険な義母)
贈与者:主人公に試練を与え、クリアすれば魔法のアイテムや力をくれる存在。(例:森の仙人、隠遁した大賢者、転生ボーナスをくれる女神)
助手:主人公を助け、共に戦ったり移動させたりする存在。ヒロインが兼ねることも多い。(例:チート召喚獣、精霊、規格外の従魔)
王女と王:主人公が探し求める報酬であり、最後に主人公を認知し、偽の主人公を罰する「権威」。権威(裁定者)がいると“ざまぁ”が決まりやすい。王や理事長や世間の評価など、形は自由(例:ヒロイン、国王、学園の理事長)
派遣者:主人公に「行ってこい」と依頼し、物語の舞台へと旅立たせる存在。(例:ギルドマスター、お告げを下す神様、あるいは主人公を追放する雇用主)
なお、1人のキャラクターが複数の機能を持つこともある(ヒロインが「助手」であり「王女」でもある等)し、一つの機能を複数のキャラクターが分担することもある。
どうだ? 完全になろう系や王道ファンタジーRPGのキャラクター設定画面そのものだろう?
これらを組み合わせて、機能の中から必要なものを選べば、物語は勝手に転がり始める。この機能を使うメリットとデメリットも挙げておく。
【メリット】
・冒険モノのイベント作成において最強のカンペになる:「次は何のイベントを起こそう?」「中盤でダレてきたな」と迷ったら、リストを上から順になぞればいい。アイディアの宝庫だ。
・ざまぁ展開のDNAが詰まっている:後述するが、リストの後半には「偽の主人公の嘘がバレて処罰される」という、現代読者が大好きな究極のカタルシスの型が用意されている。
【デメリット】
・31を全部なぞるとただの昔話になる:順番通りにすべてのイベントを起こすと、予測可能で単調な話になる。現代のエンタメとして使うなら、必要な機能だけを抜き出して使うのが正解だ。
◆ ◆ ◇ ◇
2. ストーリー構造の31の機能の使い方
さあ、31の機能を順番に見ていこう。
長いので、物語の進行に合わせて6つのブロックに分けて解説する。Web小説の異世界ファンタジー(追放・ざまぁ要素あり)を例にして当てはめていくぞ。
■第1ブロック:導入と発端(平穏の崩壊)
物語の始まり、まだ主人公が旅立つ前の「やらかし」のフェーズだ。このフェーズは本編で書かれないことも多く、前日譚として過去回想で語られることもよくある。
【1. 不在】
家族の誰か、あるいは保護者が家を空ける。主人公または犠牲者が一人になり、無防備な状態になる。
例:両親が仕事で出かける。/最強の師匠が寿命で死ぬ。/守ってくれていたパーティの盾役が怪我で離脱する。
【2. 禁止】
主人公(あるいは被害者)に「〜してはいけない」というルールが告げられる。フラグ立てだ。
例:「森の奥の祠には絶対近づくな」と言われる。/「この魔導具には触るな」と警告される。
【3. 違反】
だが、主人公(あるいはヒロイン、モブ)はその禁止を破る。これが悲劇の始まりだ。この行為により敵対者が生まれる。
例:好奇心で祠の封印を解いてしまう。/主人公が勝手に魔導具を持ち出す。
【4. 情報の要求】
敵対者が、主人公や宝の情報を探ろうとする。
例:魔王の手先が、村人に「封印を解いたのは誰だ?」と尋ね回る。/悪徳ギルドが主人公のチートスキルの秘密を探る。
【5. 情報の入手】
敵対者が情報を手に入れる。
例:手先が主人公の居場所を突き止める。/主人公のスキルが「実は規格外」だと悪役が知る。
【6. 策略】
敵対者が、主人公や被害者を騙すために罠を張る。
例:悪の魔法使いが、親切な旅人のふりをしてヒロインに近づく。/クズ勇者が主人公に無実の罪を着せる計画を練る。
【7. 幇助】
被害者が騙され、知らず知らずのうちに敵に協力してしまう。
例:ヒロインが騙されて、村の結界を解いてしまう。/主人公が罠と知らずに危険な依頼を引き受けてしまう。
■第2ブロック:事件の発生と旅立ち(クエスト開始)
ここからが物語の本当のスタートだ。
【8. 加害・欠如】
敵対者が危害を加える、あるいは重要な何かが足りないことが判明する。禁じられた行為の代償がここで明らかになる。ここで「失われたものを回復する」という強烈な目的が生まれる。
例:魔物が村を襲い、ヒロインが攫われる。/国に魔族が侵攻する。/主人公が理不尽にパーティを追放され、居場所(欠如)を失う。
【9. 派遣(派遣者からの依頼)】
不幸や欠如が知れ渡り、主人公に「助けてくれ」と依頼が来る。あるいは追放されて無理やり物語の舞台に派遣(放逐)される場合もある。
例:王様やギルドマスター(派遣者)が、「魔王城へ行って姫を助け出せ」と主人公に命じる。/「お前はクビだ。辺境の森へ行け」と追放される。
【10. 任務の受諾】
主人公がそれに同意し、立ち向かう決意をする。強制され、しぶしぶ受諾することもある。
例:「俺が助けに行きます!」と剣を握る。/「やってやるよ。辺境で自由なスローライフを満喫してやる」と決意する。
【11. 出発】
主人公が家(日常)を離れ、旅に出る。
例:剣を片手に、故郷の村を後にする。/王都の門をくぐり、未知の荒野へと足を踏み出す。
■第3ブロック:贈与者からの試練とチート獲得
ファンタジーの醍醐味、パワーアップイベントのパートだ。
【12. 先立つ働きかけ】
旅の途中で「贈与者(仙人や精霊など)」に出会い、主人公が試練を与えられる。なお、なろう系ではこの試練が極端に短縮され、いきなりアイテムやチートを渡されることも多い。
例:森の奥で、怪しい老人に「わしに飯を恵んでくれんか」と頼まれる。/突然、強大な魔獣から急襲される。
【13. 反応】
主人公がその試練に正しく(または親切に)対応する。
例:自分の少ない食料を老人に分け与える。/魔獣の攻撃を勇気を持って防ぎ、逆に手懐ける。
【14. 獲得】
試練をクリアした報酬として、主人公は魔法の手段(チートアイテムや助手)を獲得する。
例:老人が大賢者の正体を現し、「伝説の聖剣」を授けてくれる。/倒した魔獣が「無敵の召喚獣(助手)」としてテイムされる。
よくあるRPGや冒険ファンタジーでは、この【12】~【14】を何度も繰り返して、強力な仲間集めや装備の充実を行うことになる。これが「お楽しみ」の正体だ。
■第4ブロック:敵との対決(ボス戦)
得た力を使って、ついに目的を果たすパートだ。
【15. 空間移動】
主人公が、目的の場所(敵の城や宝の隠し場所)へ到達する。
例:テイムした飛竜の背に乗って、魔王城の結界を飛び越える。
【16. 闘争】
主人公と敵対者が直接対決する。
例:魔王軍の幹部、あるいは魔王本人との激しいバトル。/悪徳領主との直接交渉。
【17. 標付け】
主人公が戦いの中で「傷(印)」を負う、または証拠となる品を得る。
※注意! これが後で極めて重要な伏線になる。
例:敵の猛攻で腕に消えない傷を負う。/倒した魔物のレアな「角」を回収する。/助けた姫から、王家の紋章が入った「指輪」を受け取る。
【18. 勝利】
敵対者が敗北する。
例:聖剣の力と仲間の連携で、ついに魔王を打ち倒す。
【19. 加害・欠如の回復】
最初の事件(8)が解決する。
例:ヒロインを牢屋から救出する。/奪われた宝を取り戻す。/辺境の村が平和になり、主人公の居場所が完成する。
■第5ブロック:帰還と追跡
目的を果たしたが、まだ安心はできない。
【20. 帰路】
主人公が帰途につく。
例:ヒロインを連れて魔王城から脱出する。
【21. 追跡】
敵の残党や、主人公の命(や手柄)を狙う者が追ってくる。
例:怒り狂った魔王の右腕が追いかけてくる。/手柄を横取りしようとするクズ勇者パーティが背後から迫る。
【22. 脱出】
主人公が追跡から逃れ、助かる。
例:魔法のアイテムを使って、間一髪で逃げ切る。崖に堕ちたり生死不明の状態になることもしばしばある。
■第6ブロック:偽の主人公との対決と真の報酬
さて、ここからが現代のWeb小説で爆発的な人気を誇る「ざまぁ」と構造的に相性がいい場所だ。100年前のロシアの民話にも、全く同じカタルシスが存在した。人間は昔から、嘘つきが成敗されるスカッとする話が大好きだったんだ。
【23. 気付かれざる帰還】
主人公が国や村に帰ってくるが、誰も彼が「英雄」だとは気づかない。変装していることもある。
例:ボロボロのローブを羽織って王都に戻る。主人公は面倒を避けるため、あえて名乗り出ない。
【24. 偽りの主張】
ここで「偽の主人公(クズ勇者や腐敗貴族)」が登場し、「俺が魔王を倒し、姫を助けたのだ!」と嘘の主張をする。
例:主人公を追放した元パーティのクズリーダーが、手柄を横取りして王様に得意げに報告する。
【25. 難題】
王様が、本当にその人物が英雄かどうかを確かめるため、難題を出す。
例:「ならば、魔王の角より硬いと言われるこの呪いの岩を斬ってみせよ」/「本当に私を助けたなら、暗闇の中で交わしたあの時の約束の言葉を言えるはずです」
【26. 解決】
当然、偽の主人公はクリアできないが、その場に現れた本物の主人公がその難題をあっさりと解く。
例:主人公が群衆の中から進み出て、聖剣で岩を一刀両断にする。
【27. 認知】
ここで主人公が「真の英雄」であると認知される。第4ブロックで仕込んでおいた「17. 標付け」が決定的な証拠(水戸黄門の印籠)になる。
例:「その腕の傷! あなたこそが私を助けてくれた方!」/「俺が魔王を倒した証拠? ほらよ、この魔王の角だ。お前らが持ってるのは偽物だよ」
【28. 露見】
偽の主人公や敵対者の嘘と悪事が、白日の下に晒される。
例:クズ勇者が手柄を横取りしようとしたこと、これまで主人公を不当に虐げていたことが全て公の場でバレる。
【29. 変身】
主人公が新しい姿(真の姿、立派な姿)になる。
例:ボロボロのローブを脱ぎ捨て、王から与えられた輝く騎士の鎧を身に纏う。/底辺職だと思われていたが、実は「大賢者」の称号を得てオーラが変わる。
【30. 処罰】
偽の主人公や悪役が、厳しく罰せられる。(ざまぁ完了)
例:クズ勇者パーティは身分を剥奪され、奴隷として一生鉱山で働かされる。周囲からの冷たい視線を浴びて絶望する。
【31. 結婚ないし即位】
主人公がヒロインと結婚する、あるいは王位(領地、莫大な富、最高の称号)に就き、完全なるハッピーエンド。
例:主人公は姫と結婚し、次期国王として、最高の仲間たちと共に幸せに暮らしましたとさ。
◆ ◆ ◆ ◇
3. Web小説での実践的な使い方
どうだ?
この31のステップ、古い民話の研究かと思いきや、見事に「なろう系ファンタジーの王道プロット」そのものだろう。
特に後半(23〜31)の流れは、「手柄の横取り(ストレス)」→「証拠による露見」→「ざまぁ・処罰(解放)」→「大団円(報酬)」という、現代の黄金パターンだ。
では、これをWeb小説の実務でどう使うか。
絶対に全部使うな。つまみ食いしろ。
先にも言ったが、31個すべてを順番通りに組み込むと昔話そのものになってしまう。現代のエンタメでは、これは「イベントの引き出し」として使うのが正解だ。
例えば、「ダンジョン探索」の1エピソード(1章分)を作るとしよう。プロップの機能から、必要なパーツを引き抜く。
・9. 派遣:ギルドマスターから「未踏のBランクダンジョンの調査」を依頼される。
・10. 任務の受諾:主人公はお金(あるいは素材)のために引き受ける。
・12. 先立つ働きかけ:ダンジョンの入り口で、怪我をして動けない別パーティ(あるいは変装した精霊)を見つける。
・13. 反応:貴重なポーションを使って彼らを助けてやる。
・14. 獲得:助けたお礼に「隠し扉の鍵」をもらう。
・16. 闘争:最下層の隠し部屋で、未知のボスと激闘を繰り広げる。
・18. 勝利:新しく得たスキルを駆使してボスを倒す。
・19. 欠如の回復:ボスの後ろにあった「万病に効くレア素材」をゲットする。
ほら、これだけで立派な「1章分のプロット」が完成した。
また、プロップの機能の中で、現代のミステリやサスペンスにも通じる最高のテクニックが「17. 標付け」だ。戦闘中や冒険中に、何気なく主人公に「傷」を負わせたり、「敵の一部(ちぎれた布など)」を持ち帰らせたりする。
これが、後の「27. 認知」と「28. 露見」のフェーズで、「偽物を論破し、自分が本物だと証明する最大の証拠(水戸黄門の印籠)」として機能する。
Web小説で痛快な「ざまぁ」を書きたいなら、この「証拠(標付け)」を中盤のエピソードの中でさりげなく仕込んでおく技術を、絶対にマスターしよう。いきなり証拠を出すのはご都合主義だが、冒険の中で自然に手に入れたものが後で生きてくるのは、最高のカタルシスを生む。
◆ ◆ ◆ ◆
まとめ
ウラジミール・プロップの「31の機能」は、ロシアの魔法昔話を分析して生まれた、機能リストだ。しかし、その本質は100年経った今でも全く色褪せていない。
人間が「スカッとする」「面白い」と感じる物語の順序は、太古の昔から決まっている。
「欠落が生まれ、魔法の手段を獲得し、敵を倒し、嘘つきを処罰して、報酬を得る」
このDNAは、現代の異世界ファンタジーの中にも、完全に脈打っている。
次に君が「短いクエスト」や「1章分のエピソード」のプロットに詰まったら、このリストの中から以下の5つをピックアップして埋めてみろ。
・【8. 加害・欠如】【9.依頼・放逐】:何を奪われた?誰がどう派遣した?
・【14. 獲得】:途中でどんな「お助けアイテム」を手に入れた?
・【17. 標付け】:戦いの中で、どんな「証拠」を身体や持ち物に刻んだ?
・【24. 偽りの主張】:誰が君の手柄を横取りしようとした?
・【28. 露見】〜【30. 処罰】:その「証拠」を使って、どうやってそいつを社会的に抹殺した?
このイベントを並べるだけで、読者が「早く次を読ませろ!」とコメント欄で暴れ出す痛快な物語が組み上がる。プロップの呪文で日々のイベントを量産しよう。
今回は以上だ。解散!
【参考】
大塚英志, ストーリーメーカー




