閑話2 ずっとゲインの手は震えてた
ちょっとした短編集みたいなものですね
書く気が起きねえのです……
一方、ノルがギルドを出た後のこと。
「はぁ?! エピックバレーサーペントの鱗ぉ??!」
カウンターにはいないギルドマスターの大声が、喧騒さえ切り裂くようにギルドの中に響き渡った。
ノルの従魔登録の手続きを担当していた受付嬢が顔を青くして、ペコペコとギルドマスターに頭を下げているのが空いた扉の先から覗けた。可哀想な程に謝っていて、ゲイン達も流石に彼女に同情していた。
「そんな希少なっ、博物館にすら展示されていないものだぞ?! 偽物ならともかく、引きちぎるところを見ていたのならば本物だろ?! それを小金貨二十枚ちょっとと?! 普通に見積もったら最低でも大金貨レベルだろうに!!」
「申し訳ございませんっ、そのエピックバレーサーペント直々に急かされたもので急いでいて……!!」
「だからって報告や相談をすっ飛ばすべきじゃないだろうが!!」
「返す言葉もございません……!!!」
奥の部屋から聞こえる怒号と必死に謝る声が地味に聞いてて痛々しく、ルーネとアストロは顔をしかめて目を合わせていた。二人の視線はまるで「あの受付嬢可哀想ですわね(/ですね)……」と互いに言い合っているようにも見えるだろう。また、マイトリーも同じように顔をしかめて苦笑いしており、ルーネ達のような受付嬢に対する同情の色が強く浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
「……そういえば、さっきからゲインのやつがものすごく静かじゃないか?」
ふと、マイトリーがそう声を上げた。実際にゲインはノルを見送ってからずっと黙っていたため、どうしたものかと心配になったのだろう。彼が恐る恐るゲインの方を見てみると……
「うわぁお前すっげえ真っ青なんだけど?! おいどうした冷や汗ダラッダラだぞ?!」
「いや……だって……目の前でドラゴンの鱗売り払われて、立て替えた入国税が何倍にもなって返ってきて……しかも全部俺の知らんうちに進んでたんだぞ……
マジでコレの当事者で慌てねえ方が無理くね……???」
「ホントすまん、俺が悪かったわ」
バーサと全て見ていたマイトリーはともかく、ずっとエイザの方を向いて彼やルーネ、アストロと話していたゲインにとっては知らない間に進んでいた物事でしかないのだ。いくら得になったとはいえ、ドラゴン二体を従えた初対面の子供に平然と金貨を渡されたことは本来なら体験し得ない事態。さも当然のように超常的な事態が引き起こったことは本人的にも簡単には受け入れづらいのだろう。
震える声で語られたことでその全てを察したマイトリーは、ゲインに向けてすぐに頭を下げた。
◇ ◇ ◇
――その日の夜。
朝にたっぷり絞られへとへとになったのからようやく立ち直った受付嬢は、書類を片付けながら朝のことを考え直していた。契約主が子供で、従魔がドラゴンだったこと以外は普通の業務だったあの一件を。
「……そういえば、あの子の契約印……なんか片方薄かったような……」
その目で確認した彼女だからこそわかる。
ノルの身体にあった二つの契約印。しかし、右半身の契約印と違い、左半身の契約印はまるで『仮契約』のようにうっすらとしたものだったのだ。どちらがどちらのかなんて彼女にははっきりとはわからないが、それでも受付嬢は心配だった。
仮契約程簡単に切れる脆いものは、牙を剥く未来の可能性を山程孕んでいるのを知っていたからだ。大人ならともかく、小さな子供なんて従魔が敵になった際は蹂躙される未来しか見えないのだ。
「……あの子、大丈夫かしら。」
小さな呟きが、空気に混ざって消えた。




