8 追手か味方かわからないので逃げます
◇
少し前、
ティナ達より先に下山途中のジェド、リリカ、ファニー達。
目の前には思いもかけない騎士達がいた。
「フェルド!」
近衛騎士団の副団長のフェルドが、かなりの精鋭を連れ跪いた。
「殿下、お迎えにあがりました」
「なぜ、ここが」
「大公殿下のご命令で、一刻も早くお連れせよと」
「まさか」
「いえ、小康状態を保っておられますが、ヴァレリアで少々問題が」
「伯父上の?」
フェルドが頷く。
「それで、帰国を早めていただきたいと」
「そうか、父上が、ありがたい」
公国から迎えの近衛騎士団が来ていた。
「して殿下、途中で黒装束の一団を見かけたのですが、鉢合わせされてないのですな」
「誰にも会わなかったが、その集団はどっちへ行った」
「転移魔法が使えるようで、我々より先に別ルートで登っていったかと」
「……」
「殿下?」
「まさか、フェルド、ファニーとリリカを頼む」
「殿下、どちらへ」
「上にブリタ達がいる」
「では同行を」
「いや、このままファニー達を連れて先に麓へ」
「しかし」
「もし危なくなったら魔法弾を打ちあげる、その時は来てくれ」
「では、二人おつけしますので」
フェルドが部下に指示をしているのを視界端に入れながら、ジェドは、また上へと急いだ。
◇
山の中腹では、睨み合いが続いている。
私は護身用の短剣を自分の首に突きつけていた。
「セレスティーナ様、剣をおろしてくだされ、とにかくご無事でお連れせよと、我々は命を受けております」
「こっちに来ないで!近寄ったら死にます!もう失うものはないのですから」
「ですから、帰国なさって陛下と」
恰幅ある堂々とした副騎士団長のベンが宥めてくるけれど、なんで雁首並べて、私を追ってくるの?
「黙りなさい、ベン!副騎士団長に副魔法師団長、あなた達が揃って来ている事自体が、おかしいのです。わたくしごときにっ」
「お怒りはごもっとも」
「何も怒ってはおりません」
「セレスティーナ様、ここでは埒があきませんので、ご帰国後に」
副魔法師団長のラベルまで。
「ラベルももう何も言わないで!あの阿呆のいる国なんて、同じ空気を吸うなんて、もう無理ですのよ」
私が叫んだ時だった。
「ティナ、無事かっ」
ジェド様が私達の間に割って入る。必死で駆けつけたのがわかる。息が荒い。
「ジェド様、なぜ。先に行ってたはずなのに」
「ティナ達を置いていけるわけがないだろう!」
ジェド様の深緑の瞳が、揺れている。
「貴様ら、何者だ」
ジェド様が、ベン達に向けて剣を抜く。
「知りません!こんな人達知りません」
追手か迎えかわからないから、知らんぷりを決め込む。
ブリタが変な顔をしているけど、今は説明できない。
「引かぬなら、剣を抜け!」
あ、どうしよう。咄嗟に知らないって言ってしまったけれど。
ベンやラベルは悪くない。悪いのはあのアホ王太子。
ベンは剣を抜いてないし、ラベルも魔法を出そうとはしてない。
どうしよう。
ああ、どうしよう。
「セレステ………」
ベンが私の名前を呼ぶ前に、私は詠唱を始める。
「この世の理を示せ!あなた達、近づいたら巻き込まれますわよ、だから下がりなさい!」
ベン達が少し下がる。
私の魔力量を知っているから本気で後退している。私の全力魔法なら、ラベルより私の方が強い。
だからラベルも手が出せない、はず?
「ジェド様、転移魔法を使います。ヴェルディアへ飛べるけれど、今の魔力では二人が限界なの、どうしたら」
小声でジェド様に説明する。
「わかった」
ジェド様は私に頷き、パックに指示している。
「パック、下にフェルド達が来ている。ファニーとリリカを任せて下山し始めている。私はティナと先にヴェルディアへ転移する、ブリタを頼めるか。ティナが魔法を使う前に、ここを抜け出せ」
「わかった。ブリタ行こう」
パックとブリタがこちらを見て片手をあげて、ベン達から離れて下山していく。これで大丈夫。
「ジェド様、私が新しき扉と言ったら、行き先を言ってください。わかりやすい場所がいいのですが、公園とか、修道院とか。それと、魔法陣が起動したら」
「この前のように魔力を足せばいいか」
「ええ、ジェド様の行き先を感知するために」
「行き先は案ずるな」
ジェド様は理解が早い。一瞬で言いたい事をわかってくれる。
こんな人がこの世の中にはたくさんいるのね。
ただちょっと物言いが横柄になってる?
そんなことより。
《この世の理を示せ、森羅万象の世界より新しき扉を開け》
七色の光が舞い魔法陣が起動する。
私がジェド様を見ると、ジェド様が私の手を優しく包んで言った。
《ヴェルディア公国、辺境ヴェルド城、公子執務室へ!》
「セレスティーナ様っ、ヴァレリアにお戻りをっ」
ベンとラベルの声が聞こえるけど、それより。
今ジェド様、何って言ったの?ヴェルドジョーって、ヴェルド城?
魔法陣が竜巻のように周り七色に粉が辺り一面に飛んでいる。
◇
——ジェドは、転移する寸前に、聞こえた名前に首を傾げたまま転移した。
セレスティーナ、セレスティーナ、ヴァレリア?
確か、どこかで聞いた名前だったか。——
あっという間に二人の姿は消え、七色の煌めく粉も霧散した。
「セレスティーナ様」
ラベルの声だけが聞こえた気がした。
不定期更新ですが、完結まで更新していきます。




