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7 月涙草と黒装束

ヒムシャム山、月涙湖


金色に輝く太陽はゆっくりと奥の尾根に沈んで行った。

銀色に輝く満月が少しずつ谷の湖を照らしていく。


「みんな集中してね。何が起きるかわからないけれど、とにかく採取に全力をかけましょう。ティナを中心に、すぐに動けるように」

ブリタさんが皆に声をかける。


幻の突風の皆は、配置につく。

パックさんは剣を抜いて、警戒体制。

ブリタさんは湖全体を見渡せるところで探索魔法で周囲を警戒。

リリカさんは私達全員を包むように結界を張っている。

ファニーさんは荷物を見て守ってくれている。


そしてジェド様と私は、湖の岸辺、小さな白い花が群生する真ん中に立っている。


岸辺の小さな草花が揺れ出した。

左右に揺れたかと思うと、クルクルと蕾が円を描いている。

数本が並んで右に揺れ、左に揺れる。

踊っているように見える。


森羅万象の魔法は、妖精と繋がることで、人の理解を超えた魔法が使える。

きっと今ここにはたくさんの妖精が飛び交っているはず。

私は妖精達の存在を感じることはできるけれど、見たことはない。


でもここにはたくさん集まってみんなで歌ったり踊ったりしている。



「ジェド様、もうすぐ天の真ん中に月が来ます。それが満月。

その少し前から、蕾が開き始めて花が開く時に、滴が現れます。私が詠唱をして、色々な色のキラキラした粉が舞っている間に、七色に光っている滴を採取してください。数は七滴まで」


「わかった、ティナ、始めてくれるか」


私は花畑の中に跪く。

空を見上げると真っ暗な中の数多の星が、光を浴びた水面が煌めくように、暗闇で輝いている。

月がゆっくりと移動してゆくのがわかる。そして真円に近くなったとき、蕾だった花が次々と開き始める。


《この世の理を示せ、森羅万象の世界より来たりし妖精よ、

我らの祈りを聞き届け、命の涙、月の滴を与えよ》


花畑に魔法陣が立ち上がる。

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、


「お願い、この人達の大切な方を守って」


六つ、七つ目の魔法陣が起動した。

全ての陣がクルクル回る。

満ちた月から、それに呼応するように銀色の光が矢のように魔法陣へ流れ込む。

あたり一帯が七色の煌めく粉で満ちる。

魔法陣の中の月涙草の蕾が完全に開き、月の光を浴びる。


「ジェド様、今です」

ジェド様の足元にある月涙草の花の中心に水滴が現れて丸く乗っかるように少し震えて、七色に光り出す。


小さな細長い銀の匙を、花びらに添えると、七色の滴はコロンと匙に移る。

小さな瓶をジェド様に差し出し、そこに滴を入れる。

滴は小瓶に入れても七色に輝いている。


「もう一滴、もらってもいいのだろうか」

「七色の粉が舞っている間は、採取が許されています」


ジェド様が滴を採取する間、私は湖の水を瓶に詰め、

金色に輝く月涙草の花びらを集めた。


そしてジェド様が、七つ目の滴を小さな瓶に入れた時、

七色の光る粉も空へ消えて行った。


月が移動し、ほんの少し欠け始める。


「ジェド様、ここまでですわ」


全員が無言で顔を見合わせる。ホッとした安堵の表情。

ジェド様が、大事そうに小瓶を革袋に入れ、マジックバックへ入れる。

私も採取した湖水や花びらをマジックポーチへしっかりしまった。


その夜は湖のほとりで野宿。

私も今回の七色魔法で、かなりの魔力を使ったみたい。

やはり人の命に関わる薬草の採取には、桁違いの魔力が持っていかれる。

当たり前ね。



翌朝、月涙湖に別れを告げ、夜明け前から帰路につく。


幻の突風の皆さんは、少しでも早くヴェルディア公国へ帰らなくてはならないそうだし、私も、早くヴェルディアへ行って、ヴァレリアからの追手を避けたい。


皆疲れているのもあるだろうけれど、下山はほとんど口を聞かず、一心に足を進める。さすがに私も体力が尽き、足も限界で、ブリタがそれに気がつく。


「ジェド、二手に分かれましょう。あなたとパックは、少しでも早くヴェルディアに」

「いや、ブリタ達女性だけではまずい、パックと行動してくれ」

「でも、ジェドが一人では、それも、いくら強くても一人は危険だわ」

皆が顔を見合わせて思案している。

「ごめんなさい、私が足手纏いに」

「そんなことはない」

皆が口々に言ってくれる。


「では、俺とリリカとファニーで先に行く」

「じゃあ、私とティナとパックで後から行くわ」

そうして二手に分かれて、私はパックに支えられて下山をし始める。


何とか最後の尾根を抜けた時だった。

前方で、剣と剣のぶつかる音がしている。


「パック、前方の様子が変よ」

「あの剣と魔力はジェドです」

「魔獣の気配じゃないわね」

「ブリタ、ゆっくりティナと来てくれ、見に行ってくる。必要があれば加勢する」

「わかった、気をつけて」


私はブリタに支えられ、ゆっくり下山する。

そして少し経った時、バタバタと足音が聞こえ、旅装束の剣士達に囲まれた。


いや、剣士達ではなく、騎士と魔法師。

だって、その中の数人は知っている顔ぶれ。

ああ。


「セレスティーナ様」

皆が跪く。

ブリタが驚いて私を見る。

「ティナ、追手ね?」

私は頷く。

「ティナは私が守るから」

「ブリタ、ありがとう。でも、相手が強すぎるの、抵抗してはダメ」

「なぜ、もう少しでヴェルディアへ行けるのよ」

私は首を横に振る。



跪いた騎士の一人が口上を述べる。

「セレスティーナ・ブライトン侯爵令嬢、国王陛下の命により、お迎えにあがりました。国にお戻りくださいませ」


「ティナ、あなた」

「隠していてごめんなさい」


私は、今、迷っている。

ヴァレリアに戻って殺されるのは構わない。

でも、月涙草の一滴を使う時、私が採取した湖水と花びらと七色魔法が必要。

どうすればいいの。

どうすれば、ジェド様や皆の大切な人を助けられるの。

行き先はヴェルディア公国。ヴァレリア王国ではない。


どうすればいいの!


ブクマありがとうございます!


不定期更新ですが、できるだけ頑張って,更新していきます。

応援よろしくお願いします。澪

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