6 月涙湖はどこにある?
◇ヒムシャム山へ
冒険者パーティ幻の突風のメンバーと共に、私は昨日からヒムシャム山脈に足を踏み入れていた。
全員が淡々と登り続ける。森林地帯を抜けて標高が高くなると、寒さを感じてくる。
皆、頭を押さえている。空気が薄くなってくるから高山病にかかりやすい。
「あの、これ。高山病に効くポーションです、たくさん作ってあるのでどうぞ」
私は皆にポーションを渡す。
「ありがとう、ティナ!」
「一本飲んだら、急に楽になった」
「頭痛や吐き気がしたらすぐに飲んでください。副作用はないので、はいどうぞ」
「感謝する、ティナ」
ジェド様の深緑の瞳でまた見つめられた。何か恥ずかしい。
麓はまだ暖かったけれど、山脈の頂には一年を通して雪が残っている。ヒムシャムが聖域と言われる理由の一つ。
山道が急になって、石がゴロゴロ落ちているから、足元が不安定になり滑りやすい。
「大丈夫か、ティナ」
「ありがとう、ジェド様」
ジェド様が手を差し出してくれる。
私は素直にその手をとる。
不思議だわ、ジェド様とは自然でいられるのに。
アホ王太子殿下の手を取るなんて、あったかしら。
そもそもエスコートなんてしてもらった記憶がない。
ふふふ。王城よりも楽しいことがいっぱい。
「ティナ、楽しそうだな」
「ごめんなさい、大事な道のりなのに」
「いや構わない、こんな険しい山道なんだ、少しでも明るい気持ちで登りたい」
「皆さんと行けるのが嬉しいのです、ずっと一人だったから」
私はそう言って微笑む。
ずっとひとりで抱えてきたから。
山に登り始めて2日目。
もうすぐ日没。
日が落ちかけると同時に月がもう出ている。満月まであと一日。
ブリタが探索魔法を使っている。
「今日はこのあたりで夜を越しましょう」
「目指す場所は近いのか」
「文献の通りなら、この尾根の先に谷地があって、小さな湖があるはずだけど、今の探索魔法で湖があるかどうかわからなかったんだよ」
おかしいわね、このくらいの山なら、ブリタさんの魔力量で探せるはず。
もしかして。
「ブリタさん、もしかしたら、その湖、山の精霊達が隠しているかもしれません。月涙草は聖域の草花なので」
「じゃあどうやって探すの」
「ブリタさんの探索魔法に重ねがけします」
「ええっ、そんな事できるの?支援魔法?」
「そうですね、そんな感じです」
「じゃあ、どうすればいいかな?」
ブリタさんが興味津々に聞いてくる。
「この中で一番魔力の高い方がいいのですが、属性は何でもいいです」
皆が一斉にジェド様を見る。ジェド様が少し恥ずかしそうに頭をかきながら手をあげる。
「では、ジェドさんとブリタさん、私がブリタさんを中心に魔法陣を起動するので、ジェドさんは魔法陣に魔力を少し注いでください。ブリタさんの探索魔法の範囲と緻密さが増します」
「「わかった、じゃあ始めよう」」
ジェド様とブリタさんが頷く。
私は、ブリタさんに向けて魔法陣を起動させる。
《この世の理を示せ、森羅万象の世界より精霊達の加護を、我らに力を》
五色の光が舞い魔法陣が起動し、ブリタさんの周りをクルクルとまわる。
「ジェド様、お願いします」
「行くぞ」
見ていたパックさん、リリカさん、ファニーさんから歓声が上がって、ブリタさんが大きな声で叫ぶ。
「あの先、見えた、ほら、ほら、あれだよ」
尾根の先の谷であろう場所に、湖の景色が蜃気楼のように浮かんで見える。
その周りに小さな白と金の何かが点々と見える。
「あれは?」
「ジェド様、おそらく白と金の点々が月涙草です。明日が満月ですからそろそろ咲き始めているかもしれません」
「ティナ、もう大丈夫だよ!位置は探索地図に写し取ったから」
ジェド様も頷く。
「森羅万象の精霊に心からの感謝を」
私が跪いて地面に両手を当てると、五色の光がキラキラと散って舞い、空へ向かって消えていった。
「すごい綺麗だったね」
みんなが口々に騒いでいる。
ジェド様が、地面に跪いている私に手を差し出してくれる。
「ティナ、五色魔法か」
私はジェド様の手を取りながら、微笑む。
探索魔法だけなら、五色でいける。
転移や状態異常回復なら七色で全力を使うけれど。
七色がバレるのは、先延ばしにしたい。きっとバレたら、もうみんなと一緒に居られなくなるだろうから。
そしてジェド様が、何か言いたげに深緑の瞳で私を見つめる。
私は首を傾げる。ジェド様が口を開きかけた時、ブリタさんの声が響いた。
「さあ、明日は、あの湖に向けて全速前進だよ。今日はしっかり寝よう。ファニー、魔獣はいないと思うけど、この辺りに結界貼ってね、さあ、しっかり眠ってよ」
「あの、明日のために、このポーションを」
ファニーが笑って受け取ってくれた。
「ねえ、ティナ、あなたどれだけポーション作ったの?最後に宿屋で厨房借りてたでしょう?」
「バレてました?」
「夜中に、ずいぶん厨房に籠ってるなって思ってたんだけどさ」
「だって、私が出来る事って、このくらいなので」
「自己評価低すぎだよ!私達のためにありがとう」
「いえ、お役に立てたら嬉しいです」
みんなが口々に色違いのポーションの瓶を触っている。
リリカさんが質問してくれた。
「これ何に効くの?」
「薄い赤色は体力回復で、薄い水色は睡眠です、どんなところでも眠れます、あ、でも、でも魔獣の魔力感知とかは残るので、その…」
「誘拐する時とかの睡眠薬とは違うって事だろ?」
パックさんが笑って補足してくれた。
「そ、そうです。完全に意識を奪うのとは違います」
「意識奪うのも欲しいけどな」
「こらパック、そういう物騒な事をいうものではない!」
ジェド様がパックさんをたしなめる。
「へへっ、いや、悪人と戦ったら必要でしょう」
「今はいらぬ、せっかくティナが準備してくれたんだ、これを飲んで、明日に備えてぐっすり眠るぞ」
◇
翌日、ポーションの力を借りて、私達は、目指す湖「月涙湖」へ夕刻ギリギリにたどり着いた。
山で見る太陽はとても大きい。金色に輝く太陽はゆっくりと更に奥の尾根に沈んでいく。
そして間もなく、銀色に輝く満月が少しずつ谷の湖を照らしていく。
湖岸の小さな草花が揺れ出した。
お読みいただきありがとうございます。
ティナたちは、いよいよ月涙湖へ。次話は満月の夜です。
完結まで頑張ります。
応援してくださってありがとうございます!嬉しいです。




