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9 ヴェルド城の奥深くに落っこちました

ドオン!ドコッ!


「っ……」

「大丈夫か、ティナ」


まあまあ硬いような柔らかいような場所に落ちてきたみたい。

部屋の中だわ。


「ここは?ちゃんと着いたのでしょうか」

「大丈夫だ、私の執務室だ、間違いない」

「あぁ、良かったですわ」

「ありがとう、ティナ」


「いいえ、突然転移するしかなかったので不安だったのですが、本当に、シツムシツに着いたのね。シツムシツ?ってどこの何?」

「俺の執務室だ」

「ジェド様の?」

「そうだ」

「シツムシツ、オレノシツムシツ」


「ティナ」

「はい」

「そろそろ立てそうか」

「ええ、え?」


わ、私はジェド様の膝の上に座って、いや落ちて来たのだと思う。

ジェド様の腕の中。顔を上げるとジェド様のお顔が。

非常に、とても、ものすごく近い。

顔が熱くなってきたわ。


近くで見て思い出した。この深く澄んだ深緑の瞳。

見たことがあるんじゃなくて、毎日、この瞳に睨まれながら執務の尻拭いをしていたわ。

ヴァレリア王城の王族エリア、アホ王太子の執務室に飾ってあった姿絵の瞳と同じ色。

前国王陛下のお姿。そっくりな瞳。なんで?


頭が痛い、魔力の枯渇かしら、ヒムシャムからここまでどのくらいの距離だったかしら。

二人で転移なんて初めてだったし、色々と頑張ったわ。

わたくし、やり切ったのよ、ふふ、ふふふ。


「ティナ?」

「……ふふ、頑張ったわ、わたくし」

私の意識はそこで途切れた。


「ティナっ、ティナ!」



床に出現し、転移は成功した。

俺は床に落ちたが、ティナは俺の膝の上、腕の中に落ちて来た。


落ちた途端に、執務室にいた側近達が驚愕。

そしてティナは俺の顔を随分と長く覗き込んで、少し微笑んで意識を失った。


「ジェラルド殿下っ、いつお戻りに」

「見ただろう?たった今だ」

「見ましたが、急に出て来て、しかし、ヒムシャムに」

「ヒムシャムの山の中から、直接ここに」


「転移魔法、で、しょうか」

「そうだな」

みんながあっけに取られている。


「驚くのは後にして、侍医長を呼んでくれ、それと女官を数人」

一人がすぐに部屋を出て行った。


そして先程から代表で質問してくるのは、側近である文官のピエール。


「ジェラルド殿下、パトリックやブリタニアは」

「フェルドと合流している、後から帰還するだろう」

「それはわかりました、で、殿下の腕の中の女性は、うちのものではないようですが」

「聖女だ、七色の聖女」

「せ、聖女?」


「ピエール、聞きたい事は後にして、先に聖女殿を寝かせて、侍医の診察を受けさせたい」


「承知しました、では客間を」

「いや、とりあえず私の部屋だ。それとその隣の部屋も急ぎ準備を」

「殿下、そこは未来の」

「まだ決まっていないのだから構わない。それと父上に帰還の報告とお目通りを」

「承知しました」


私はティナを抱き上げて、寝所に運んだ。城の中でも結界が張れる最も安全な場所。


そしてすぐに侍医長のジベールが来て、診察してくれた。


「魔力の枯渇で意識消失、それとかなり疲弊しておられるご様子。命と引き換える覚悟で転移魔法を使ったようですぞ」


そして私も診察を受けたが、どこも問題なくすこぶる元気だった。


「いつもと違う魔力が体内を保護していますな。ポーションか何か」

「あの令嬢が作ってくれたのを飲んでいた」

「ああ、それで合点がいきまする。しかし、ジェラルド殿下に合う魔力があったとは」

「俺も驚いている、共に魔力を使ったが違和感がなかった」

「ふむ、それは後で調べましょう。して殿下、どこのご令嬢でしょう?」


「ん?」

「このご令嬢でございます。手入れされた髪、きめ細やかな肌、手は少し荒れておられますが、女官の手入れですぐに綺麗になられるかと。で?」

「わからない」

「わからない、ですか。殿下が初めてご令嬢をお連れになったというのに、わからない方を?」

侍医長のジベールが笑っている。


「わからないのだ、途中で出会って、薬草採取を手伝ってくれ、皆を守ってくれた人だ。聖女ではないかと思う。追われていた」

「では殿下、薬草が」

「うむ、それと、薬草の採取方法を知っていた。用法も」

「月涙草の用法まで熟知を?」

「嘘ではないはずだ、今からその件で父上に目通りする。魔法師団長もいると思うので、其方も同席せよ」


そしてティナは女官とジベールの部下の侍医に任せ、父上の執務室へ向かった。



ヴェルディア公国

大公執務室


父上の側近が揃っている、私と侍医長のジベールが入室し、大公の執務室は公国の中枢が集まった。



「父上、たった今帰還いたしました。このような出で立ち、無礼をお許しください」

「よくぞ戻った、ジェラルド、冒険者の格好もよく似合っているぞ」

父上が豪快に笑っている。


「途中で非常に心強い者と旅をすることになり、その者の助けで月涙草の滴を得ることができました」

「大義であった」


そしてここを出立してから、今帰還するまでを手短に説明する。

皆、黙って聞いていてくれた。話し終わっても沈黙している。


ああ、そうだ、月涙草の滴をみせなくては。


「これが」

マジックバックから取り出した小さな瓶。

七色に輝く一滴が、周りを明るく照らすほど煌めいている。


「おおっ」

侍従長が、銀盆を持って来てくれる。

そこに一本乗せて、二本、三本、とのせていく。

執務室はあの満月の夜のように輝いている。


七本目を出す時にマジックバックの中で何かが引っかかって、小瓶を出した時にコロンと床に落ちた。


騎士団長が声を上げた。


「殿下、その靴は」


みんなが一斉に靴を見る。


「ああ、これか」

俺は無造作に靴を拾い上げる。

父上をはじめ、皆が食い入るようにその片方の靴を凝視している。


え?この靴がどうかしたのか?

不規則更新ですが、完結します。応援よろしくお願いします。

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