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3 片方の靴とギルドカード

宿屋で二人の男が話している。


「パトリック、さっきの古着屋から、ティナの靴を回収して口止めしてきてくれないか」


「ではドレスも?」


「いや、ドレスはいい。全部隠すと、古着屋の女将に迷惑がかかるだろう」


「では行って参ります」


「頼む」


パトリックが静かに窓から飛び出すのを見送って、ジェラルドは考え始めた。


——どこの令嬢だ。どう見てもあのドレス、地味な作りだったが、地味だからこそわかる極上の布地。

あれを身につける事ができるのはごく限られた高位貴族の令嬢。


うちの公国なら顔ぶれは知っている。

見たことがない顔だった。


そしてあの所作、周りに合わせようとしていたが、滲み出る品格、まさか、伯父上の?

だがどうやって、あの場所へ、それに何のために。


それに、市井のことをある程度理解していた。

高位貴族ならば民の支援活動をしていたはず。——



ジェラルドが考えに没頭していると、パトリックが戻ってきた。


「ジェラルド様」

「ご苦労、それでどうだった」


パトリックが布に包まれた靴を差し出した。


「これが片方の靴です。女将が言うには、元から片方しか持ってなかったと。長靴下の底が汚れて破れていたそうです。必死に逃げて来たのではないかと」


「わかった。それとこの靴、あのドレスと同じ布だったか」


「はい、おっしゃる通り、ドレスも見せてもらったので確認できました。それから護身用の短剣と大きな指輪を持っており、マジックポーチを勧めたら買ってそこに入れたそうです」


「どんな短剣か聞いたか」

「持ち手が七色に光っていたそうで、刃の部分に花模様らしき柄が見えたそうです」

「七色、多分、母貝だろうな」

「かなりの高位のご令嬢では」

「お前もそう思うか」

「はい」


ジェラルドは無精髭を触りながら、反対の手で絹の靴に触れ考え続ける。

——絹の靴。履き古していない。ん?魔力残滓か?そう言えば、さっきブリタ達と話していた時に、森羅万象…転移魔法か!失念していた。そうか、そうだったか。——


ジェラルドは、笑みを深めた。


「パトリック、明日から面白くなりそうだ。私よりティナ嬢の身辺警護を頼む、目立たぬようにな。追手はないとは思うが気をつけてくれ」

「承知致しました」



翌朝、食べ物の匂いで目が覚めた。

あまり眠れなかったけれど、逃亡初日に仲間ができて、生まれて初めて庶民の宿に泊まったのは、上出来というもの。


寝台は硬いし、湯浴みもできない。

でもそれは、孤児院や修道院の支援で見てきたから知っていたし、何よりも、一人ではなかった。


「おはようございます、ブリタさま、リリカさま、ファニーさま」

「ねえティナ、さまは無しでいいわよ」

「は、はいっ、慣れなくて」

「おっ、みんな早いな、おはよう」

「「「おはよっ」」」


あ、ジェド様とパック様。

「お、おはようございます、ジェ、ジェドさま、パックさま」

「ティナ嬢、さまは無しでいいよ」

あ、また、言ってしまいました。


宿屋で朝食を見て、驚いた。

これが庶民の食事。

修道院よりは豪華だけれど、何かわからない。


隣にどっかと座ったジェド様が、パンを少し取り分けてくれた。

「ティナ嬢、昨日の今日で、食欲はないかもしれんが、とにかく食った方がいい。生きるためにな」


「あ、ありがとうございます」


「あージェドったら、ティナにだけ優しくしてる」

「あーホントだ!ジェド、私にもパンとって」

「お前ら自分でできるだろっ」


そうだ、私は生きなくちゃいけない。

いつもより固いパンをスープで流し込んだ。


朝食のあと、私はジェド様に、冒険者ギルドなるところへ連れてきてもらっている。

なんでも領境・国境を越える時身分証明書が必要らしい。

当然、私はそんなものは持ってなかった。

いつもは、紋章入りの馬車、大勢の護衛で通り過ぎていただけ。

こんなことさえ知らずに、私は生き延びようとしていたのね。


「ティナ嬢、これからギルドマスターに会うが、何も言わなくてもいいから」

ジェド様が受付で何か言って、奥の部屋に通される。


「マスター、彼女のギルドカードを頼む。俺の連れだからな」

「ジェド、また何か企んでるのか」

「企んでねえ、とにかく頼む、領越えをして公国へ」

「承知した、しかし公国へ、とうとう年貢の納め時かねえ」

「ち、違う、そうじゃない、断じて違う」

「ま、違うという事で。では、お嬢さん」

「は、はいっ」

「魔力測定をするので、こちらの石に触れて」


石に触れると、石が七色に光った。

ギルドマスターとジェド様が瞠目し、かなり大きなため息をついた。


「な、何か、よろしくないのでしょうか」


「い、いえ、よろしい、これはよろしい」


ギルドマスターが咳払いをして、カードを石に翳し「ティナ」と呟く。

カードは七色に光って、すぐに白い色に戻った。


「さ、これがティナ様のカードです、くれぐれも落とさないように」

「ありがとうございます」

カードを見ると、ティナの名前があって、その横にヴェルディア公国と。


私がジェド様を見上げると、ウィンクされた。

え?


私が生まれたのはヴァレリア王国。

ヴェルディア公国は、ヴァレリア国王の弟君が治める辺境の国防のための公国。まさかジェド様は私がヴァレリア王国の者だと気がついてるのかしら。


「あの」

「さ、ティナ嬢、みんなが待っている、長居は無用だ」


「ジェド、これは一つ貸しだぞ」

「わかっている、100倍くらいにして返すさ」

後ろ手に手を振ってジェド様が部屋を出る。

私はギルドマスターに会釈して、小走りでジェド様を追った。


初めてもらったギルドカード。

私は、今日から、ヴェルディア公国のティナになった。


ブクマありがとうございます!


不定期更新ですが、できるだけ頑張って,更新していきます。

応援よろしくお願いします。澪

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