4 パーティー幻の突風と月涙草
冒険者パーティー・幻の突風は、三国の緩衝地帯からダスニア王国に入り、さらに奥地を目指していた。
幻の突風は、私が助けてもらってお世話になっているパーティーの名。
歩きながら、リーダーのブリタが教えてくれた。
「ティナはね、ヴァレリア、ヴェルディア、ダスニアの国境のど真ん中に転移して来たんだよ」
「では私は、ちょうど三国の緩衝地帯に転移を?」
「そういうことだよ。どこの国も国境近くは騎士団や兵士が詰めてるからね」
「ティナも運が良かったというか」
「私もそう思います」
私は改めて説明を聞いて、ぞっとする。
もし兵士たちの真ん前や騎士団の宿舎に突然現れたら、きっと捕まっていたわ。
昨日は咄嗟に転移魔法を使ったから、行き先どころではなかった。
ヴァレリアを出ようと必死で、知らないところへ飛ばして〜と願い続けた結果だった。
そして、幻の突風は、ヴェルディア公国からダスニア王国へ向かう途中だったらしい。
彼らは、ここダスニア王国で、奇跡の薬草を採取してから、ヴェルディア公国へ戻るらしい。
「すぐにヴェルディアへ連れて行ければ良かったんだが」
ジェド様がすまなそうに言う。
「とんでもないです。皆様には依頼があるのですから、私はついて回るだけですので」
「しばらく時間がかかるかもしれない。体調が悪くなったりしたら、すぐに言って欲しい」
やっぱり、ジェド様はお優しいわ。
あのアホ王太子とは比べる事さえ、ジェド様に失礼だわ。
それにしても、奇跡の薬草って。
「あの、奇跡の薬草ってダスニアにしかないのでしょうか」
「それね、一年に二度だけ、特定の満月の夜に咲く、と言われてるんだ」
「満月の夜……それってもしかして、月涙草ですか」
「そう、ティナ、やっぱりすごいな、それ知ってるなんて。私達なんて依頼されてから調べたんだけど、なかなか情報がなくてさ」
「咲く日と場所だけはわかったから、ヒムシャム山脈まで向かってるわけ」
リリカとファニーが話してくれる。
月涙草。
数年前、治癒魔法の勉強の時に薬草学の知識も大量に叩き込まれて、その中にあった薬草。
「月涙草は、満月の時間ぴったりに咲くそうです。小さな青い花で、その花弁の上にひとしずくの水滴が乗っていて、それを採取し薬として使うのです。どなたか重い咳の病に?」
全員が歩みを止めて私を見る。
え?
ジェド様が突然私の前に来て私の肩を掴む。
「そこまで知っているのか」
「は、はい。以前、薬草の本で学んだのですが、治癒魔法と一緒に使うものだと書いてありました」
「治癒魔法と一緒に?それは初めて聞いたが」
ジェド様が思案顔になる。
「ジェドも、皆も、足が止まってるよ。とにかくヒムシャム山脈まで行かないと」
ブリタが声を掛ける。
「すまん、ティナ嬢、すまない」
「いえ、後で知っている事はお伝えしますね」
「よろしく頼む」
ジェド様の表情で、大切な方が月涙草を必要としているのがわかった。
でもあれを使うのはかなりの重症の方のみ。
ヒムシャム山脈までは、徒歩だけでなく、馬を借り、乗合馬車に乗り、舟で川を登った。
七日程の道のりだったが、私も踏ん張った。
月涙草の咲く日時は決まっている。
それまでにそこに辿り着けなくては、意味がない。
人を助ける、と言う事はそういうことなのだから。
ヒムシャム山脈の尾根がくっきりと見えてきた町で、皆それぞれが最後の買い物を済ませる。
私も必要な物を買い揃えなくては。
「あの私もお買い物に行きたいのですが」
「俺が同行しよう」
ジェド様がついてきてくれるらしい。
「どこに行きたい」
「薬草店があると思うのですが」
「こんな小さな町に?」
「ええ、薬草の本に載っていたのです。代々ヒムシャム山脈の案内をしている人たちが、丁寧に採取した薬草は、ここでしか買えないらしいです」
「何か欲しいものが」
「ええ、高山の頭痛に効くお薬をみなさんに」
「君は……」
ジェド様が驚いた表情で私を見る。そんなにびっくりなさらなくても。
「お世話になっていますから、このくらいしかできませんが」
「ありがとう、ティナ」
その夜は、宿の窯を借りてポーションを数種類作った。これでよし!
◇
ヒムシャム山脈が目の前に壁のように聳え立っている。ついに来た。
満月まであと三日。
明日から山を登るという。
その夜はヒムシャム山の麓の宿に泊まる。
夕食後のミーティングで、ジェド様は私に声をかけた。
「ティナ、君はここに残れ」
「えっ?」
「ここから体力勝負だ、山は危険だ。君を連れていけない。この宿は安全だからここで待っていてくれないか」
「……」
「その方がいい。ここまで一緒に来たけど、ティナは慣れない旅なのに、すっごい頑張ってた。でもリーダーとして言う。これ以上は無理をしない方がいい」
ジェド様だけでなく、ブリタさんまで、みんなが口々に心配してくれる。
わかっているのよ、足手まといだと。でも、でも。
「……同行させてください。月涙草は、森羅万象つまり妖精の加護があると見つけやすいのです。そしてしずくの採取には、祈りが必要です」
「「「ええっ!」」」
みんなが驚く。
「私が学んだ薬草学は治癒術と共に使うことで薬効を最大限に増幅します。普通の本には書いてないはず。一般の薬師もご存知ないかと。きっとジェド様にとって大切な方が、それを必要とされていらっしゃるのでしょう?ならば尚更です」
「ティナ、何故そこまで言い切れる。それにしずくだけだと、薬効はどう違うのだ」
「月涙草の言われでは、月の光に輝く花に一粒の涙のような滴が現れるそうです。その一滴に効果があるのですが、それはある条件下で発動する効果。その条件がなければ、しずくが万ほどあっても効かないものだと」
「その文書を、どこで見た。その条件とはなんだ」
ジェド様のいつもとは違う真剣さに、心が揺り動かされる。
「………」
「ティナ、教えてくれ」
これを教えたら、私は。
でも、私の命は、婚約破棄された時に終わっていたかもしれない。
ずっとコツコツと努力してきたの。
王太子妃となって責務を果たすために。それもなくなったわ。
ならば、もういい。
いまさら私の素性など、もうどうでもいい。
誰かの大切な人が救われるなら。
「同行させてくださるならば」
幻の突風のみんなが顔を見合わせている。
もしかして、月涙草が必要なのは、皆さんの共通の大切な方なの?
ジェド様が居住いを正す。
「ティナの安全を約束できない、それでもいいのか」
「はい」
「同行を許そう。で、その情報はどこから」
「……禁書庫です」
禁書庫の存在は、どの国も、王城や王宮の奥深くにある。つまり王族、それに準じる限られた者しか閲覧できない。私は王族案件だと言いふらしたようなものだ。
リリカとファニーが固まっている。
ブリタとパックが目配せした。
そしてジェド様が、深緑の瞳で私を真っ直ぐに見据える。
「ティナ、感謝する」
この深緑の瞳、どこかで見たかしら。
ジェド様の瞳ってこんな色だっけ?
不定期更新ですが、できるだけ頑張って,更新していきます。
応援よろしくお願いします。澪




