9.姉との再会
リーデックと話が出来ないまま、また更に数日が過ぎた。
寝ずに彼の帰宅を待てば、会うことは可能かもしれない。けれども彼の口からミューゼットとの再会について話を聞くのが怖くて、何となく私からも避ける形になってしまった。
だが、いつまでも避けられるわけもなく、その日は突然訪れた。
朝食に向かうと、リーデックがいたのだ。
「おはよう。シャルルローズ。久しぶりだね。」
笑顔を向けられて、やっぱり「会えて嬉しい」と心がときめいてしまう。
「……おはようございます。お元気そうで、安心しました。」
「あぁ、ありがとう。君も元気そうで良かった。エドガーから報告は受けていたが、やっぱり実際に君の元気そうな顔を見ると違うな。俺も安心したよ。」
リーデックは優しい目で、私を見つめた。
私はときめく気持ちを抑えながら、微笑みを返した。
私が席に着いて、食事が始まる。
ある程度食べ進めたところで、改まったようにリーデックが口を開いた。
「シャルルローズ、ミューゼット妃との面会だが、許可がおりたよ。」
「本当ですか!嬉しいです。いつお会いできるのでしょうか?」
「それがな……今日、これからなんだ。」
「え!これからすぐですか?」
「あぁ。俺と一緒に王宮へ行ってもらうことになる。急かすことになり申し訳ないが、これも警備上必要なことでな。」
「いいえ、何も問題ございません。」
王宮へ行くのなら、それなりの準備が必要だ。
朝食はこれくらいにして、身支度を整えなければ。
(本当はプレゼントも用意したかったけれど……。仕方ないわね。最近お気に入りのあのお茶とお菓子をとりあえず持っていきましょう。)
そばに控えていたナディアに声をかけた。
「ナディア、すぐに部屋に戻って準備に入りましょう。」
「かしこまりました。」
席を立つと、リーデックに「それでは、準備をして参ります。また後ほど。」と挨拶をして食堂を出た。
(……お姉様とリーデック様、二人が一緒にいる様子をきっと目にすることになるわね。)
それも心の準備をしなければ……と、胸の痛みを感じながら思った。
◇
王宮へ着くと、リーデックに案内されて面会をする部屋へと向かった。
部屋の扉の前には、騎士が二人立っていた。
二人はリーデックに気がつくと敬礼し、リーデックはそれに手を上げて応えた。
(この部屋に……お姉様が……。)
緊張で、ドキドキと心臓が高鳴る。
コンコン、とリーデックがノックするとすぐに中から扉が開かれた。
「どうぞ。」
そう言って部屋の中へと招き入れてくれた人も、同じく騎士だった。
(しっかりとお姉さまを守ってくれているのね。)
安堵しながらリーデックと共に、中へと足を踏み入れる。
部屋の中へ入った瞬間、
「ルル!」
勢いよく、ぎゅっと抱きしめられた。
懐かしい温もりに、胸がいっぱいになって、涙が溢れてくる。
「お姉さま……!ご無事で……本当に…………」
泣き声になってしまって、最後まで言葉にならない。
背中に両手を回して抱きしめ返すと、ミューゼットは更に抱きしめる力を強くして、そのまましばらく、お互いの存在を確認するように抱きしめ合った。そんな私たちを、リーデックは少し離れた場所から静かに見守っていたのだった。
◇
ようやく落ち着いて、ミューゼットと私は向かい合う形でソファに座った。リーデックは任務中なので、そのまま立っているとのことだった。
「お姉様、今日はプレゼントが間に合わなくて……。なので代わりに私のお気に入りのお茶とお菓子を持ってきたの。良かったらお話ししながら一緒に召し上がらない?」
持参した手土産をナディアからミューゼットの侍女へと手渡す。
「まぁ!ありがとう。ルルが選ぶお茶はいつも美味しいからとっても楽しみだわ。」
侍女が早速お茶を淹れて、お菓子も綺麗に盛り付けてテーブルに並べてくれた。
だが、その時、香ってきたお茶の匂いに、ふと違和感を覚えた。
(…………こんな香りだったかしら?)
ティーカップを持ち上げると、控えめにくんくんと嗅いでみる。
(やっぱり変だわ。)
本当に僅かだけれど、このお茶のものではない匂いがする。
「…………お姉様、飲むのは少しお待ち頂ける?」
ティーカップを手に取ろうとするミューゼットにストップをかけてから、リーデックの方を振り返る。
「リーデック様。もしかすると毒かもしれません。」
「!!!」
私が告げた言葉に、リーデックの表情は一気に険しくなった。




