6.一年後の保証はない
リーデックとの話は、私の部屋ですることになった。
ナディアがお茶と茶菓子を手際よく用意してくれた。
「シャルルローズと二人にしてくれるか。」
「かしこまりました。」
ナディアが礼をして、部屋を出ていく。
リーデックがお茶に口をつけながら、話を切り出すタイミングを見計らっているのがわかった。
緊張で乾いている口の中をお茶で潤した後、私の方から切り出した。
「お話というのは何でしょうか。」
「……あぁ。」
リーデックはティーカップを置くと、私の目をしばらくじっと見た後、口をゆっくりと開いた。
「君の、お姉さんのことだが……。」
「何か……あったのですか?」
先日の、浮かない表情をしていたお母様が思い出されて、思わずリーデックの言葉を途中で遮ってしまった。明らかなマナー違反だが、それどころじゃない。
リーデックも気にした様子はなく頷くと、そのまま話を続けた。
「後継者争いが勃発して、第一王子の命を狙っている第二王子派が存在しているようなんだ。…………ミューゼット妃殿下も危うい状況だ。」
「そんな……!」
血の気が引く。
(まさか…そんなことになっていたなんて……。)
手紙では、幸せに過ごしている様子が綴られていた。
もちろん、本当のことを全て書けるわけがないとわかっていたけれど、まさか命の危険が迫っている状況だとは思っていなかった。
「落ち着け、シャルルローズ。大丈夫だ。……第一王子殿下の要請により、ミューゼット妃殿下はしばらくの間、我が国で保護することになった。内密にな。」
「そう……なのですか……。」
ホッとする。
少なくとも第一王子は姉の身を案じ、ちゃんと守ろうとしているようだ。
「ミューゼット妃殿下は、こんな時に自分だけが逃れるわけにはいかない、と随分ゴネていたようだが、第一王子殿下がどうにか説得したらしい。」
「……お姉様らしいですわ。」
私の言葉に、リーデックがフッと笑った。
「あぁ、俺も同じことを思った。」
懐かしむようなその眼差しに、胸がちくりとした。
「それで、お姉様はいつこちらにお戻りになるのでしょうか?」
「昨日、国境を無事越えたようだ。何も問題なければ、一週間ほどで王都に到着するだろう。」
(……どうか無事に到着しますように。)
拝むように、胸の前で両手をそっと組んだ。
「大丈夫だ。必ずお守りする。」
「……はい。」
リーデックは私を安心させるように、大きく頷いた。
「ミューゼット妃殿下がこちらに滞在する間は、主に私の部隊で護衛を担当することになる。なので、しばらくは家のことは任せることになるが、よろしく頼む。エドガーにもしっかりシャルルローズのことをフォローするよう、伝えておく。」
「はい。お任せくださいませ。」
(そう……。リーデック様とお姉様が顔を合わせることになるのね……。)
こんな状況なのに、そんなことに胸が苦しくなる自分の身勝手さに気がついて、自己嫌悪に陥る。
(愚かね……。)
(………こんな私を、見ないで。)
そう思っていると、私を見ていたリーデックの視線がはずれた。そして私の後ろの方へと向いて、そのまま止まった。
「……あれは、この前の薔薇か?」
振り返り、リーデックが見ているものに私も目を向ける。
「えぇ、そうです。ナディアに頼んでドライフラワーに致しました。ドライフラワーになっても、とても美しいですよね。」
「あぁ。綺麗だ。」
リーデックの方へ向き直ると、彼はとても嬉しそうにそれを見つめていて、その表情に思わずドキッと胸が高鳴った。
「…………そういえば、満開の頃に一緒に庭園で見ようと約束していたのに、果たせなかったな。すまない。」
「仕方ありません。あの時は、こんな事態が起こるとはリーデック様も思っていませんでしたでしょう?」
申し訳なさそうな目で見つめてくる彼に、「気にしないで」というように、微笑みを返す。
彼は何かまた口を開きかけたが、躊躇った後、そのまま結局口を噤んだ。
そのことには気がつないフリをして、目を伏せた。
(何も言わないでくれて……良かったわ。)
来年の約束なんて、口にしないで。
一年後に私たちが一緒にいる保証なんて、何もないのだから。




