11.リーデックの弟
その後もリーデックの話は続いた。
ミューゼットは、実家に戻ることになったそうだ。
人の出入りが多い王宮よりも、父と母、そして昔から長く仕えている者ばかりである実家の方が安全だろうという判断からだ。
「この前は結局全然話せなかっただろう。ミューゼット妃もとてと残念がっていたし、近く実家でゆっくりしてくるといい。」
「良いのですか?警備が厳しくなっているのでは……。」
「問題ない。君が実家に出入りすることは、陛下にも許可を貰っている。…………信じていると、言っただろう?」
リーデックは、何でもないことのように言った。
けれど、暗殺未遂の直後。そして元々は我が国の令嬢だったとはいえ、今は他国の王子妃の身の安全に関わることとなれば、いくら私がミューゼットの妹でも、陛下の許しを得ることは簡単ではなかっただろう。
「…………ありがとうございます、リーデック様。」
リーデックは静かに微笑みを浮かべた。
コンコン
その時、ドアがノックされた。
秘密裏の話なので人払いをしていて部屋には私たち二人しかいない。リーデックが応じる。
「何だ。」
「ユリウス様がおいでなのですが、いかがいたしましょう?」
エドガーの声だ。
ユリウスとは、リーデックの弟だ。
私とは貴族学院で同級生だったので、リーデックと結婚する前から交流があるのだが、会うのは久しぶりだ。彼はまだ未婚なので、侯爵夫妻と共に別宅で暮らしている。
(リーデック様とお約束があったのかしら?)
ちらりとリーデックを窺うが、リーデックも不思議そうな表情を浮かべている。
「ユリウスが?突然だな。通して良い。」
「かしこまりました。」
それからしばらくして、再びドアがノックされる。
「入れ。」
リーデックが告げると、エドガーによりドアが開かれた。
ユリウスが部屋へと入ってくる。
「兄さん、お久しぶりです。」
「あぁ、息災だったか?」
「はい、おかげさまで。」
リーデックと挨拶を交わした後、私の方を向いた。
立ち上がろうとすると、「そのままでいい」と制された。
「ルル、久しぶりだな。色々大変だったと父から聞いて心配していたが……元気そうで良かった。」
ユリウスに優しく見つめられる。
リーデックは義母似でユリウスは義父似なので、そんなに似ている兄弟ではないが、瞳の色はまったく同じだ。
「ええ、私は元気よ。心配してくれて、ありがとう。」
微笑みを返すと、ユリウスは安堵の色を浮かべた。
「無理はするなよ。ルルは頑張り過ぎるところがあるからな。」
「ふふ。もう子どもじゃないもの。ちゃんと加減はわかってるわ。」
「どうだかな。学生時代にルルにはハラハラさせられっぱなしだったからなぁ。」
「それならユリウスだって……」
「ユリウス。」
私の言葉を遮るように、リーデックの声が低く響く。
「何か用事があるのではないのか?俺はそろそろ王宮に戻らねばならない。時間がないんだが。」
冷ややかな目で、ユリウスを見る。
(私ったら……。)
ユリウスと話していると、ついつい学生時代の頃のように気安い雰囲気になってしまった。
いつまでも子ども気分を抜け出せていないようで、恥ずかしい。
(ただでさえ今はそれどころではないのに……。ダメね。)
スッと立ち上がると、リーデックに頭を下げた。
「はしたないところをお見せしました。私はこれで失礼いたします。」
「いや、シャルルローズは悪くない。今夜は遅くなるが、明日の朝食は一緒にとろう。実家へ帰る日を決めて、その時に教えてくれ。」
「はい。かしこまりました。」
そして今度はユリウスの方を向く。
「では、失礼しますね。」
「あぁ、また。」
そのまま真っ直ぐ前を見てドアへと向かった私は、苦い表情を浮かべるリーデックにも、立ち去る私の背中をじっと見つめるユリウスにも気がつくことはなかった。




