第十七話:音のない慟哭
月明かりに照らされた街の片隅。人気のない公園のブランコが、風もないのに微かに揺れていた。
その音すらない静寂の中、灯織は一人、ピアノの前に座っていた。演奏会用のホールではない。廃校の音楽室。埃をかぶったピアノの蓋を、彼女はそっと開いた。
「ここなら、誰にも聴かれないから……」
彼女の指が鍵盤に触れた瞬間
音は、出なかった。
いや、音は確かに響いていた。だが、灯織の心には何も残らなかった。どれほど正確に鍵盤を押さえても、旋律は空虚で、意味を持たない。
(あの日から……音が、私の中で死んだまま……)
幼き頃、初めてピアノに触れた日のことを思い出す。小さな指で押した音が、母の微笑みと共に心に染み込んでいった。だが今、母も音も、遠い記憶の底に沈んでいる。
廃校の窓越しに、満流の姿が見えた。
「灯織!」
走ってきた満流が、息を切らして扉を開ける。
「探したよ……ずっと。どこに行ったのかと思って……」
「どうして来たの? 私の音なんて、もう誰にも…」
「君の音は、確かに届いた。俺には、届いたよ!」
灯織の目が大きく見開かれた。
「君の演奏を聴いた時、胸がぎゅっと締めつけられた。苦しくて、でも、すごくあたたかかった。だから……もう一度、聴かせてほしい。あの日の音を、君自身の音を!」
彼女の手が再び鍵盤に触れる。今度は震えながらも、確かに音が鳴った。
ぎこちない旋律。それでも、音は命を取り戻しつつあった。
「……怖いよ。また裏切られるかもしれない。大切にしたものが、壊れるのが怖い」
そんな灯織の言葉に、仕草に…、満流は静かに灯織の隣に座る。
「だったら、一緒に怖がればいい。一人じゃないって、それだけで救われることもある。」
その言葉に、灯織の目から音のない涙が流れた。
───────それは、確かに「慟哭」だった。けれど、もう独りのものではなかった。
窓の外、闇の中に立つ影が一つ。月明かりに照らされ、鋭く光る瞳。
鬼の気配が、また静かに彼らの背後に忍び寄っていた。
ご覧下さりありがとうございました。AIノベルです。いつもの作品と読み比べて頂くと面白いかもしれません。




