第13話:欠落したパーツ
第13話:欠落したパーツ
その日は、二人が建てている家の「心臓部」とも言える、特注の真鍮製ドアノブと特注のボルトが届く日だった。ジアンが設計図の段階から、この家のアクセントとしてこだわり抜いて選んだ、代わりのきかない部品だ。
「ジュウォンさん、これ、うちが大切に預かっとくわ。あんたは屋根の仕上げに集中して」
ジアンは、届いたばかりの小さな木箱を抱え、少し誇らしげに言った。
ジュウォンは一瞬ためらったが、ジアンの「役に立ちたい」という真っ直ぐな瞳を見て、頷いた。
「頼むぞ。明日、それを取り付けるのが最後の大仕事やからな」
【空白の時間】
午後、ジュウォンが屋根の上で作業している間、ジアンは家の中でその木箱をどこに置くべきか考えていた。
「大事なもんやから、絶対に忘れない場所に……。一番安全な場所に……」
彼女は家の中を歩き回る。クローゼットの奥、床下収納、あるいは……。
その時、ふと意識が遠のく。
自分が何を手に持っているのか、なぜここに立っているのか。記憶の糸がふつりと切れた。
数分後、意識が戻った時、ジアンの両手は空っぽだった。
「……あれ? うち、何しとったんやっけ」
【現場のパニック】
翌朝。取り付け作業を始めようとしたジュウォンがジアンに尋ねた。
「ジアン、昨日の箱、どこに置いた?」
「箱……? ああ、あのキラキラしたやつ。……ええっと、あそこや」
ジアンが指さした場所には、何もない。
「……ないぞ。ジアン、もう一度思い出せ。どこに置いたんや」
「おかしいな。確かにそこに……。あ、違うわ、こっちや!」
ジアンは家中をひっくり返すように探し始めた。引き出しを全部出し、クローゼットの中身を放り出す。しかし、どこにもない。
「嘘や、なんで……? うち、ちゃんと『忘れない場所』に置いたのに……!」
ジュウォンの顔色が次第に厳しくなる。あれは特注品で、発注し直せば完成が数ヶ月遅れる。何より、ジアンの病状が「仕事の管理」さえ不可能な段階に来ていることを、突きつけられた瞬間だった。
【職人の絶望】
「ジアン、もうええ! 触るな!」
思わず声を荒らげたジュウォン。ジアンはその場に凍りついた。
「……ごめん。ジュウォンさん、ごめん。うち、あんたの役に立ちたかっただけやのに。……設計士やのに、部品一つ管理できへん。うちはもう、ただのゴミなん……?」
ジアンは自分の手を激しく叩いた。
「動け! 思い出せ! この役立たずの手!」
「やめろ、ジアン!」
ジュウォンが彼女を抱きとめるが、ジアンは暴れながら泣き叫んだ。
その日の夕暮れ。
結局、部品は見つからなかった。
ジアンは、自分がノミで削った柱の陰に座り込み、真っ暗な家の中で一人、震えていた。
「ジュウォンさん……。うち、自分が怖いわ。……大事なものを、自分の手でどこか遠い世界へ捨ててしまったみたいや。……いつか、あんたのことも、どこかに置き忘れてしまうんかな」
深夜。疲れ果てて眠るジアンの横で、ジュウォンは懐中電灯を片手に、もう一度家中を探していた。
ふと、彼はキッチンの隅にある、ジアンが「練習」に使っていた古いお弁当箱を開けた。
そこには、二段とも山盛りになった「白飯」の代わりに、あの真鍮の部品がぎっしりと詰められていた。
ジアンにとって、それが「一番大切なものを入れる場所」だったのだ。
ジュウォンはそれを見つけ、怒りよりも深い悲しみに、その場に座り込んだ。




