471話目 ハートブレイク★父君 タギシミミ(ウマシマジ)side
場面変わり、尾張国です!
「タギシミミ、どこへ行くんだ?」
廊下で出会したワカミケヌ父上が僕に尋ねる。
「女王へ会いたいという男神が来ているので、女王の所へお窺いに行くのですが········」
「男神」
父上の眉はピクリと上がった。
最近、男神がミトシ星神女王を訪ねてくることが多い。
ここは火上の館なので、少し離れた女王の滞在する天王タワーまでこれから向かわないといけない。
「へえ····、何の用なの?」
「ええと、やはり、【国婿コンテスト】出場希望者のようですよ」
「やれやれ、建国パーティーはとっくの2年前に終わったというのに」
父上は呆れたように肩をすくめた。
「遠方だから仕方ないではないですか?」
「どこからだって、2年もかかるはずがないよね?」
「天界出身の天神の御方らしいので」
「天神だって!?」
父上は目をかっと開いた。
「うーん、それは怪しいな、
先に僕が会って身元チェックをしないと」
「………」
僕の脳裏にタカミムスビ父上の顔がちらつく。
確かに、天神って油断のならない輩が多そうだ。
女王の隣にはツノヒメがぴったり寄り添って過ごしているので、外部の者を通すのは用心しないといけない。
「では、まずは父上が客人にお会いになりますか?」
「うん」
僕と父上は並んで謁見室へ歩き出した。
あれから、尾張国では早2年が経ち、
赤ん坊だったツノヒメは2歳になっていた。
赤ん坊の成長はあっという間だ。
ましてや、神力が極めて強い彼女の成長は嘘みたいなスピードで加速し、身体能力も知力も精神力までもが同年齢の2歳児を桁外れに引き離して、今やいっぱしの7・8歳ぐらいの少女といった風貌になっていた。
僕は、そのツノヒメの家庭教師やご用聞き、お目付け役を担っている。
星神様はミトシ様に憑依してこの尾張国の女王となった。
しかし、神という者は、高い神力に依存し怠惰で傲慢になりがちで、日々堅実に暮らす人間とは相容れず、大きな声では言えないが、国民から煙たがられるものだ。
だからどうしても、神と人間との距離感を仲介する者が必要となるのだ。
その女王を補助する仲介人を娘であるツノヒメが担っている。つまり昔でいう巫女の仕事だ。
ツノヒメは、齢2歳にして大人顔負けに働かされているのだ。
確かに、そんな健気な彼女の元へ、怪しい正体不明の天神をこれ以上近づけるわけにはいかないと僕も思う。
「えっ、········あんた、タケミカヅチ神じゃ??」
男神の待つ謁見室へ入るなり、ワカミケヌ父上は大声を出す。
「おお!?······えーと?」
タケミカヅチと呼ぼれた天神は驚いたように目を見張った。
「あ、僕、ニニギだよ。アマテラスお祖母様の孫の。今は転生してワカミケヌという名だけど」
「お!·····おお!?天孫の天子様ではないですか!!天界に居られた時はほんの幼子でしたのに、大きくなられましたなぁ!!」
タケミカヅチ殿は大変喜んで父上へ礼をとった。
かつてアマテラス様の忠臣であったらしく、その直系の孫である父上にも今だに敬意を払ってくれているようだ。
「ふーむ、天子様は尾張に滞在されていたのですな。
確かにこの国は素晴らしい。
私はここより遠く東の地域を見て回りましたが、この国の先進的な有り様には大変驚きましたぞ。この大八洲でこれほど豊かな国は他にないでしょう」
「まあね……」
自分の治める国ではない対抗心からか、父上は言葉を濁した。
確かにこの尾張国は凄い。全ての技術において先進的で、人口も産業も規模は大和よりも大きいと思わせるぐらいだ。
この土地の発展は、ニギハヤヒ父上とカグヤマ兄上、尾張一族が統率をとって国の発展に心血を注いできた賜物だろう。
「しかし、建国祝賀会への招待状を受け取ってからすぐに出立したのに、着いてみれば祝賀会はとうの二年前に終了しているというではないですか。
いやはや、驚きましたなあ。
なあに、招待状の配送中どこか寄り道でもしたのでしょう。なにせカラスが届けてくれたのでね」
「ゴホンッ、カラスたちは時間に厳格ですよ。
この土地は、時の流れが早いらしいのでそのせいではないでしょうか」
僕は、コトシロヌシの配下であるカラスの仕事を疑われるのは我慢ならない。
「まあまあ、気にしないでよ。
それより、お土産をいっぱい持って来たんじゃないかい?」
父上が明るくとりなす。
「ワッハッハ!それはもちろん!
私はここより東の常陸という土地を拠点にしておりまして。そこより様々なよりすぐりの特産物を持って参りました。後でお部屋へ運ばせますので、ぜひ天子様もご吟味ください」
タケミカヅチ殿はあっけらかんと話す。
しかし、明朗快活な口調ながらも、鍛え上げられた肉体と精悍な顔つきはいかにも彼が有能で隙のない男かを物語っていた。
「アハハ、女王への贈り物を奪ってはいけないよ・・・・」
父上は上機嫌に笑う。
「そうそう、女王とは一体どんな御方なのか。巷では様々な噂が飛び交っておりますぞ」
「ハァ、とんでもない御方だよ」
父上はため息混じりに首を振った。
「私たちはこの尾張はニギハヤヒ殿が治めるものだと思っておりました。長子のカグヤマ殿も抑えて末っ子の姫君であるミトシ様が権力の座へ着かれるとは、実に予想外でしたな………」
タケミカヅチ殿はペラペラとおしゃべりし続け、父上も共に何度も相槌を打ち合い、昔馴染みとはいえ二人ともなんだかおじさんくさい。
「とはいえ、ミトシ様はアマテラス大御神の後継者と目される御方ですから、これから地上の国々を制覇したとしても当然ですな。
ああ、そうそう、ミトシ様といえば、天界の最後は大変だったのですよ・・・・・」
「へえ?」
それから、天界が崩落した経緯を、遥か昔話のように滔々と語り出した。
「……ふーん、天界が終了した噂は聞いていたけど、やっぱり、タカミムスビのせいだったんだね……
本当に、天界にいても地上にいても迷惑な奴だなぁ……」
ブツブツと父上は独りごちる。
「で?あんたも【国婿コンテスト】に出たいって?」
「ハッハッハ!いやあ、年甲斐もなく恥ずかしい限りです。
とはいえ、筋肉コンテストと聞いては黙っていられませんのでな!」
「ん?筋肉コンテスト?」
父上が首を傾げる。
「そう!トーナメント制の武闘会、ガチンコ勝負ということでしょう?ハッハッハ、腕が鳴るなあ〜!」
タケミカヅチは両腕を曲げて立派な力こぶを二つ作り、自らの身体をパンパン叩いて音を立てた。
「ぶ、武闘会?」
気圧されながら、僕と父上は顔を見合わせた。
どうやら、根も葉もない噂が尾ひれをついて出回っているらしい。
二年前、建国パーティーにも国婿コンテストにも人が集まらず、適当に内輪だけでパーティーをして終了していた。
それにかなり気を悪くした女王はつむじを曲げて、結局、コンテストは中止のままになっていた。
それから二年が経ち、今になってぽつぽつとコンテスト参加希望者が国を訪れるようになり、最初はその都度追い返していたが、このまま応募者がある程度集まるならコンテストを開催してもいいのではないかという意見が出てきていたのだ。
「えーと、それについては協議中です。コンテスト開催の有無と詳細はこれから話し合って決定しますので、それまで御殿の客室に滞在してお待ちください」
「何と?まだ決まっていないというのか?
まったく········のんびりしていますなぁ」
気が抜けてブツブツと呟くタケミカヅチ殿を、僕たちは客室に案内する。
「では、僕はこれで……」
僕は父上に挨拶をしてこの場を立ち去ろうとした。
「どこへ行くの?」
「えーと、国内の視察です」
実は、僕は自分の領地にできそうな土地を探して尾張国を巡回しているのだ。
このまま順調に尾張国の家臣として出世できれば、いずれかの土地を所有できるはずだから、今のうちに各地の土地の特色を調査しておきたい。
「嘘つき、女王のところへ報告に行くんでしょ?」
「あ、はい。視察の後で行く予定です」
「………裏切り者………」
「えっ」
「タギシミミは僕の息子でしょ?それがなんでこの国の家臣をやっているのさ」
「それは、キスミミが、」
キスミミが、ツノヒメとしてこの国の王女に生まれてしまったから仕方がない。
幸い、僕自身もニギハヤヒ父上に息子として認識されている為、尾張一族の高位の子弟扱いで、ツノヒメとも叔父と姪という近しい関係を確立することができた。
僕も以前はニギハヤヒ父上を拒絶していたけれど、背に腹は代えられない。ワカミケヌ父上には申し訳ないが、僕はこの立場を利用できるだけ利用するつもりだ。
とはいえ、僕の後ろ盾には、日向国、出雲国、尾張国とあって複雑だからいつスパイを疑われてもおかしくない、慎重に行動しなくては。
「みんなそうなんだ!オシクモだって、僕の唯一の側近のくせに、今はすっかりカグヤマ殿の子息として振る舞っている!みんな自分勝手だよ!富と地位の為なら主君だって父親だって裏切るんだ!」
「父上」
「ーーーーーずるい!僕はこの国でいつまでたっても部外者なのに!」
ワカミケヌ父上は、地に泣き崩れた。
先程まで天子様と呼ばれてヨイショされていたとは到底思えない。
「ええと………父上も家臣になられては?」
正直、父上はここではちょっと浮いている。
居候よろしく無為に日々を過ごしているのだから当然だ。
「オシクモ殿も勧めてくれたじゃないですか。今や尾張国は大八洲一の先進国です。
カグヤマ殿が高貴な天神の血を引く父上に見合った立派な役職を与えてくれると思いますよ?」
カグヤマ殿はこの尾張国を実質切盛りしている。
黒百合国へ出征しているニギハヤヒ殿が帰国するまでは、国を動かす宰相として重い責任が彼の肩にのしかかっているのだ。
「じゃあ、婚約者になる」
「それ、役職ですか?」
僕は呆れてしまう。
「先日、断られていましたよね?」
しかも、ツノヒメ本人に。
実は、父上はツノヒメに求婚をし、公衆の面前で盛大にフラれるという大失態を犯していた。
ツノヒメはまだ2歳になったばかりの幼児だというのに、父上はどうしてしまったのだろう。
「だって、不安なんだ………
ツノヒメはみるみる大きくなるし、もしや、カグヤマ殿が婚約者を見つけてくるんじゃないかと……!」
「うーーーん」
確かに、高貴な身分の子女、特に王子王女は政略結婚で婚約者が早々に決められることはあるけど……
女王は都合の良い巫女を手放すはずがないと思う。
実際、ツノヒメの”夢見の力”は凄まじく、この尾張国が短期間で急成長を遂げたのもそのツノヒメの未来を見通せる神力によるところが大きい。
女王は何をするにもツノヒメを隣に置き、夢見をさせてから決定を下しているといっても過言ではない。それはまるで、ふと時計を見て時間を確認するぐらいに自然な行為となっている。
(父上の”恋愛脳”も困ったものだな………)
僕はこっそりため息をついた。
先日、ワカミケヌ父上がとんでもない求婚劇を繰り広げたせいで、女王は大いに周囲を警戒し、ツノヒメを連れて天王タワーの頂上へ籠もってしまっているのだ。
父上の軽率な行動のせいで、今やツノヒメに会うのが大変になった。
ツノヒメの身内であり家庭教師という立場上、僕は頻繁に訪れることを許されてはいるけれど、天王タワーを何度も上下するのは骨が折れる。
「で?ツノヒメに会いに行くんだよね?」
「うっっ、…………まあそうですけど、
父上を連れては行けませんよ?」
「そんなこと言わないでさあ」
「ち、父上」
とんでもない執念だ。
ちょっぴり情けない父上は、
こうやって僕に纏わりつくようになってしまったのだ。
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