470話目 雲も山も動く ニギハヤヒside
ニギハヤヒ視点です!
「うおおおおおおお!」
男に戻った俺は雄叫びを上げた。
「さっっすが頭領!」
「やっちゃってください!」
男アヒラ人間に乗り換えた臣下どもは喜んで湧き上がる。
「ハッ!彼女はどこだ!?ぼ、僕の女神様…………」
哀れにも、俺を探してキョロキョロ見回している、元の身体の持ち主の雛人形の商売人は、俺の入っていたシタテル人間に憑依したようだ。
やはり罪悪感を覚える。
俺は彼(彼女?)に近づいてポンと肩を叩いた。
「すまなかったな·······痴漢まがいの行為から逃れる為にやったこととはいえ、このままでは忍びない。どうだろう、お前も俺の軍門に下らないか?」
このシタテル人間の身体に不満があったわけではない。ただ性別に違和感があるというだけの話だった。
思い返せば、非常に素晴らしい身体だった。
なにせこの数年間、隅から隅まで大事にメンテナンスをし磨き鍛え上げてきた肉体だ。
もはや他人とも思えない。
できれば、これからは部下の身体として近くで陰ながら見守り続けてやりたいと思う。
「ゲゲケ゚ッッ!!なんだお前は!?男なんかが俺に馴れ馴れしく触るな!」
雛人形販売人は、男アヒラ人間である俺を見ると態度を豹変させ、肩に置いた俺の手を払った。
「ああ〜!僕の女神様はどこへ………」
雛人形販売人は泣きながらその辺を彷徨く。
そこへ、シタテル人間へ憑依した仲間たちが集まって来た。
「お前、そう落ち込むな。なぜ俺たちの身体が女に変わったのか理由が分からぬが、これで俺たちは罪人ではなくなったんじゃないか?」
「そうそう、これは幸運だ。あのまま男でいたら俺たちは残虐非道な女どもに殺されていたぞ?」
「よしっ!これからは、女として生きていこう!」
「女体万歳!」
「うう……………それもそう、…………………ね♪」
打ち拉がれていた雛人形販売人は、ニコリと笑うとしなをつくった。俄然、女になる決心をしたようだ。
そして、他のシタテル人間に憑依した仲間に励まされ、一緒に楽しそうに街の奥の方へ行ってしまった。
「フッ、フラれた、か。そりゃあ、そうだ……………」
男が男に誘われて喜ぶはずがない。
俺はシタテル人間の一団を見送り、ため息をつく。
やれやれ、あれではミサンドリー女アヒラ人間たちと大差ないではないか。
きっとあいつらは、今度は他の男アヒラ人間たちを虐げるのではないか。
不毛な話だ。
「お頭!目的は果たしたんだし、早く里へ帰りましょう!」
「そうだ!尾張に帰ろう!」
部下たちが大いに盛り上がる。
「ふーん、国に帰るのか?」
タカヒコが、呑気な口調で後ろから聞いてきた。
こいつまだいたのか。
「ああ、当然だ」
「なるほど、男体に戻る為にこの山へ来たってわけか?
男の身体なら新女王へ対抗できるとでも思ったか。
しかし、星神は正体不明の神だからなぁ………」
「は?”女王”?“星神”?………何の話だ?」
俺は意味が分からない。
「へえ?お前、何も知らないのか?
それなら、フフフ、昔のよしみで教えてやろうかな…………?」
タカヒコは実に愉快そうだ。
「なんだ!?勿体ぶるなよ!」
「────お前、国を乗っ取られるぞ────」
「はあ!?何だって!?」
「今頃、もう尾張では建国の祝賀パーティーが始まっているんじゃないか?
あの場所は時の流れが早いからな…………」
「ああ?時の流れが早い???
時間に何の関係があるんだ?」
「フフフ」
いつものようにタカヒコは思わせぶりな話し方で、相手を苛立たせる天才だった。
「”建国パーティー”とは??
タカヒコ!もっと分かりやすく話せ!」
俺はタカヒコの胸ぐらを掴む。
「うぐっ・・••止めろ•••話すって•••••馬鹿神力!」
「早く!!!」
「・・尾張地方に国が誕生するらしい。
先日、”尾張国建国パーティー”の招待状がこの黒百合国にも届いた」
「あああ!?”尾張国”!??••••••って、
国って、•••••••••••ええ!?」
俺は頭が混乱した。
尾張は確かに国も同然、俺たち有力豪族に統率されている地域だ。
しかし、天神タカミムスビ神のタカミ天王国の支配地域のど真ん中ということで、国を名乗るのは遠慮していたのだ。
俺は、正々堂々とタカミムスビ神を倒してから尾張国を立国しようと考えていた。
とはいえ、国府である天王タワーにタカミムスビ神はずっと不在で、今や廃墟となっている有様だったから、俺たちの野望はずっとお預けになっていたのだ。
「俺はここにいるのに、一体全体、誰が国王になるというのだ!?」
俺は疑心暗鬼になり、必死で思考を巡らせる。
「……………………………はっ!カグヤマだな!?」
当然、とっくに成人を迎えている長男に思い当たる。
「あいつめ!!とうとう、クーデターかっ!!!」
俺は頭に血が上り沸騰するような怒りを感じる。
最近、あいつは何かと俺と競いたがり、自分の派閥を作り権限を欲しがっていた。
まだまだ若輩者のくせに、実父に反逆など!
「お、お頭!」
「カグヤマ殿が謀反だなんて····」
「早く鎮圧に向かいましょう!」
「内乱だ!内乱だ!」
「────────ミトシだよ」
「へ?」
「詳しく説明するのも面倒だが……尾張国の建国王は女王だという。
そう、お前の末娘のミトシのことだ」
「••••••••••••••••••••••••••••••••••••は?」
なにが?
どういうこと?
「は、はははっ、愚かなことを·····ミトシは産後の身だぞ。今は安静にしないといけない大事な時期だ。
これから子育ても忙しいし、く、くだらないことをしている場合ではないはずだ」
俺の声は上擦っている。
「はあぁ~〜〜、本当にバカだな、お前は!」
タカヒコは調子づいて続ける。
「いいか?現実を見ろ……………
ミトシは婿までコンテストで決めるってんだぞ?
全•大八洲の津々浦々に婿募集の知らせを配布しているらしく、ここ黒百合国にも応募用紙が届いた。
ああ、各地から力自慢の立派なムキムキが集まって来るだろうな〜
なにせ尾張は肥沃な土地だ。王配になり富を手中にしたい奴は五万といるだろう」
「むむむむむむ婿ォォォォ!!!!!!?」
俺は強烈な禍々しいパワーワードに恐れ慄く。
「う••••••••••嘘だ!!!いい加減なデマを流すな!!!」
「嘘ではないぞ、確かな情報だ。いまだかつて俺がお前に嘘をついたことがあったか?」
「たくさんあるだろう!?」
俺はふざけたタカヒコの面を睨んだ。
それにしても、なぜ、タカヒコはこんなにも俺の国(仮)の異変を悉に知っているのだろう?
苛立つ心を何とか抑えつつ、思考を巡らせた。
(そうか………!奴の祖神•スサノオ神からの情報か。
かの神は、世界のあらゆる事象を見通すことができるアカシックレコード、天界ネットワークの最末端に繋がるタブレットを開発したと噂されている……………)
ならば、タカヒコがてきとうに法螺を吹いているというわけではないのかもしれない。
「くそっっ!それが真実だというなら、ミトシは騙されてるんだ!絶対に黒幕がいる!!
そうだ、その”星神”だろう!!」
「………」
正解だったのか。
タカヒコは返答を差し控えた。
「早く帰らないと!ミトシが危険だ!」
俺は居ても立ってもいられなく駆け出そうとした。
「バ〜カ!お前はここで朽ち果てるんだよ!」
「そんなに痩せこけたお前に何ができる!」
「フハハハ!処刑場へ行くぞ!!」
そこへ、女アヒラ人間たちが襲いかかる。
「「「「男を舐めるなヨォォォ!!!」」」」
俺たちは必死で応戦する。
もちろん俺は神力が高い方だが、それを相殺するほどに女アヒラ人間たちは神力が高いようで、
もしや、これがあの“ナミ濃度”というものに起因するのだろうかと俺は気がついた。
ざわわわ・・・・
ざわわわ・・・・
「んん!?」
俺は異様な雰囲気を察知して辺りを見回した。
いつの間にか、霧が出てきたようだ。
戦闘の最中、相手が見えづらく一時中断となる。
「王か」
「王だ」
女アヒラ人間がひそひそと声をひそめている。
「アラディア王、黄泉から戻ったか」
心なしか、タカヒコの口調が鋭くなる。
「え?アラディア?アラディアって、どこに?」
俺は霧の中へ目を凝らすと、一際大きな一人の女の影がこちらへ向かってくるのが朧げに確認できた。
そのアラディアとかいう女はかなり大きな女らしい。
「………………」
アラディア王は無言だ。
「また、男アヒラ人間を黄泉から連れて来たのか?」
タカヒコは怪訝そうに眉をひそめた。
よく見れば、アラディア王の背後には、数名の男アヒラ人間がついて来ていた。
(これがアラディア王?
無言だし、なぜ、はっきり見えないのだろう?)
アラディア王の周囲は特に濃い霧で包まれている。
存在自体が怪しさ満点だ。
「幾ら連れて来ても無駄だぞ。
俺たちが消しているからな」
まんまと騙されて連れて来られたらしい男アヒラ人間たちはざわめき出す。
「え?どういうことだ?」
「俺たちは美しい女たちがいる国で歓待を受けながら遊んで暮らすのではなかったのか?」
「力のある男は重用され、少し国を防衛するだけで遊んで暮らせると聞いたのだが?」
「お前たち、騙されたな。この国はミサンドリーの運営する処刑場だ」
タカヒコが彼らに冷酷に告げた。
「ハハッ!?何をバカな。俺たちは最高に美しいアラディア王直々に勧誘を受けて来たのだぞ」
「見ろ!ここに居るのは美女ばかりだ」
「極楽」
「みんな美しいなぁ、美人は皆顔が似ると言うが本当にそっくりだなぁ」
「俺は選べない。ああ〜、困ったな〜」
(アラディア王は美女らしいな?俺には全く見えないが……)
新人•男アヒラ人間たちは、愚かにもまだ状況を把握せず嬉しそうにしていた。
【ワーーーハハハハハハハハ!】
突然、
どこからか笑い声が高らかに響く。
青年ような、澄み渡る大きな笑い声だ。
急に、みるみる霧は晴れた。
その場所に立っていたのは、
鬼の形相の、
枯れ木のようにしおれている貧相な老婆だった。
皆、驚愕する。
「ゲッッ!?」
「オ、オニババ!!?」
どうやら、どんな処刑場へ連れて行かれるよりも、美女が鬼婆に変身した方が、こいつらには天国から地獄に転落したと悟らせるのに効果的と見える。
新天地を信じてはるばるついてきた男たちは、美しい大女の変わり果てた姿に恐れ慄き顔面蒼白になり、互いに身を寄せ合い団子のようになって震えている。
「ひっ!ひいぃぃぃ!!!?」
「おおお助けぇぇぇぇ!!!」
新参の男アヒラ人間たちはなぜか俺の背に隠れた。
俺も同じ男アヒラ人間の姿をしているので仲間だとでも思ったのだろう。
頭上でピカリと閃光が煌めいた。
雷かと、頭上を見上げれば、
鉛色の雲がすごい勢いで流れて行く。
「雲が…………、動いている…………」
俺は呟くと、
「山全体が動いているんだ」
タカヒコが言う。
「!?」
「この黒百合山はスサノオ神が占拠した。
アラディア王はもう力を持っていない」
山が、動くって?
不思議に思い、俺は首をひねっていると、
「恐らくは、スサノオ殿は尾張国を目指して向かっているんだろう」
タカヒコはニヤリと俺に笑いかける。
「えっ?」
「良かったな、手間が省けて」
「え?」
俺はもう一度聞き返していた。
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