469話目 オトナな男と女のちんぷんかんぷん ニギハヤヒside
ニギハヤヒ視点です。
黒百合国へ到着しました。
「棟梁!」
「お頭!」
男アヒラ人間たちが俺の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですか!?俺たちの憑依を先に優先して手伝ってくださって、申し訳ありません!」
「ようやく本来あるべき姿になりました!」
「お頭も早く、その辺の奴をとっ捕まえて憑依してください!」
俺たちは男の身体を奪取する為に、はるばる尾張から侵攻してきたシタテル人間の一団だった。
今や、俺たちは男アヒラ人間の一団へと変貌を遂げていた。
「お前ら、上手くやったようだな•••••••••しかし油断するなよ。この国で男の地位はかなり低いようだから、どんな目に合うか分からない」
「それは分かりましたから、早く憑依してくださいよ」
「あ、ああ」
今や、男に戻っていないのは頭領である俺一人になっていた。
しかし俺たちは男アヒラ人間を襲いまくったので、男アヒラ人間の姿はこの周辺ではもう見当たらなくなっていた。
俺たちの奇襲の噂を聞いて、街の片隅のどこかで震えて縮こまっているのだろう。
「どうせ、無実の人間を襲うのは気が向かないってんでしょう?全く、頭領は優しいんだから………」
「あいつらどうせ罪人らしいですよ?」
腹心の部下たちが俺の甘さを咎める。
「別に相手が死ぬわけじゃあないんですよ?
襲われた魂たちの多くは、俺たちが入っていたシタテル人間の身体へ鞍替え憑依しているんですから。
つまり身体を交換するってだけですよ?」
「そう、なんだが……」
頭では仕方ないと思いつつも、全くの丸腰の市民を不意打ちで攻撃するのは卑怯だし、上に立つ者として流石に気が引けるのだ。
(ああ、俺は愛する妻の為に男の姿に戻りたいと、こんなにも願っているというのに…………)
俺は葛藤に頭を抱え、
切なくなって空を見上げた。
キャー!キャー!
ギャイ ギャイ ギャイ
「騒ぎ声が聞こえるな、揉め事か?」
俺たちがその現場へ行ってみれば。
一人の男アヒラ人間を囲んで、女アヒラ人間が集団で騒ぎ立てている。
「お、お許しください!」
「お前は、犯罪を犯した!
罪人が更に酷い罪人になった!従って直ぐに処刑を行なう!」
女アヒラ人間集団のリーダー格のような女が厳しく断じる。
「ううう、どうせ毎日毎日、処刑ばかりではないですか•••••••
処刑・処刑・処刑・処刑・処刑・処刑 •••••••••
もう沢山だ、俺は普通の暮らしがしたいだけなのに••••••••」
その男アヒラ人間は、殴る蹴るの暴行を受けたのか、土と泥だらけの身体で地べたにしゃがみ込んで泣き崩れていた。
「待て待て………、何があったんだ?」
あまりに哀れな男の姿に、思わず俺は仲裁に入った。
「私たちは【新•勧善懲悪委員会】の警備隊だ。
こいつは、この路地で禁じられている商売を行なっていたのだ。
……………ん?旧型、シタテル人間だなお前?」
その女アヒラ人間は、俺という珍しいシタテル人間に気づいて目を丸くしつつも、事情を語ってくれた。
この国では、誰であってもあらゆる商売が禁じられているそうだが、警備隊の目をくぐってしばしば闇市が開催されているらしい。
露店を開いていたこの男は現行犯で捕まり、取り調べ中とのことだ。
闇市に集まっていた客も他の店主も逃げた後で、品物や露店のテントや棚や箱の散乱した様子から、この路地は幾つか店が出て賑わっていたのだろう。
「こんなもの!こんなもの!」
警備隊の女アヒラ人間たちはその男アヒラ人間の商品らしきものを蹴り散らかした。
「アアッ!止めてください!!」
男は商品を庇い、地面に突っ伏す。
「やめろ!」
泥まみれになったが、それは木片を削って彩色を施した小さな二つの人形のように見えた。
「これは”桃の節句の祝い雛”だな!!
違法品だ!こんなもの、この国には必要ない!!!」
どうやら、”雛祭り”というイベント用の飾りだという。男女揃いの人形を飾って祝うのがこの土地の古くからの風習らしい。
「そうよそうよ!男女揃いだなんていやらしい!」
「前時代的よ!野蛮で恥ずかしいわ!」
「早く処刑してくださいませ!」
辺りを見回すと、ギャラリーの女アヒラ人間たちが集まって来ている。
「フン、こんな卑猥なブツが流通すれば必ず風紀が乱れる!我々の仲間にもこっそりと買い求める者がいたようだがな…………?」
リーダー格の女アヒラ人間が周囲をぐるりと見渡した。
「ひっ!」
「うグッッ」
そう疑われると、ビクリと身を震わせ視線を逸らす女アヒラ人間も所々にいるようだ。
彼女たちには、この雛人形がとんでもなく恥ずかしいオトナの品物のようにでも見えるのか?
誰も彼も赤面してモジモジしているではないか。
「え?闇市って、そういうオトナのお宝を扱う的な?」
「おいおい、あんな木片が卑猥なわけがないだろう?」
「呆れたな……まるで無修◯エロ本かよ」
男アヒラ人間になった俺の部下たちは肩をすくめている。
「皆、記憶へ刻むことだな!
男女百歳にして席を同じゅうせず!
男女が一緒にいることは公序良俗に反する!
男女対の人形の所持は風紀を乱すものだ!」
「そうよそうよ!」
「下品な品物だわ!」
「最近の”雛祭り”には、可愛らしい市松人形かフランス人形と決まっているのよ!」
アヒラ人間の一部の堅物(?)の女たちは、やんのやんのと騒ぎ立てた。
(やれやれ、ちんぷんかんぷんな世界だな……まるで悪夢でも見ているような……)
俺は、この歪な世界の不条理を問題にせずにはいられなかった。
「••••••••••馬鹿め•••••••••」
俺はそう呟くと、
その人形を拾い、ついた泥を袖で綺麗に拭ってやる。
「「「「「!?」」」」」
女アヒラ人間どもは、ハッとして旧型シタテル人間の俺へ注目した。
もう言いたいことを言ってやろう。
「男女が当たり前に隣にいることの素晴らしさを知らぬのは馬鹿だと言ったのだ。
男女が互いに尊重し合い協力し合う世界はとても美しいというのに••••••••」
俺の極めて大人な発言に、
どいつもこいつも口をあんぐり開けて目を丸くしている。
「なんですってぇ!?あの旧型のシタテル女が私たちを馬鹿にしていますわ!!」
「それより後ろの男どもを殲滅するです!!!」
「生意気な男がいっぱいっっ!!!さあ、●しましょう!!!今日のノルマですわよ!!!」
女アヒラ人間たちは物々しい雰囲気にざわめいた。
女アヒラ人間たちは相変わらずの男差別。
彼女たちにとって『男』という単語は差別用語だ。男の存在は、問答無用で排除すべき対象なのだろう。
「おう!やっちまえ!」
男アヒラ人間の尾張の一団は、
断じてこのような差別は許さない。
皆、戦闘の態勢をとる。
ギャーー!!!
ワーーー!!!
戦闘が始まった。
【新•勧善懲悪委員会】の女アヒラ人間の警備隊はなかなか統制の取れた攻撃を仕掛けてくる。
部下たちは慣れない身体ながらも必死で応戦するが、分が悪い。
「お前ら!しっかりしろ!!せっかく男の身体に戻ったんだぞ!?その体たらくはなんだ!?」
俺は叫んだ。
俺の攻撃しか成果を上げていないではないか。
「そ、そう言われましても、この身体は筋肉も薄く、ガリガリのカラッカラでして…………」
「こんならいっそ前のシタテル人間の方が、鍛えていた分パワーがでますよ!」
「おいおい?男の潜在能力を舐めるなよ•••••••」
情けない部下たちに、俺は呆れる。
返す返すも、頭領である俺こそが今だにひ弱な女の身体であることがもどかしい。
「そこまでだ!」
男の声がする。
見ると、街路の向こうから一人の男がやって来る。
「おや、珍しいな、シタテル人間ではないか。
────?
お前…………………………………タタラヒメ?
いや、ニギハヤヒか?」
「!? っあ!!タカヒコ!!!」
そいつは、以前と変わらぬ姿で飄々と立っている。
「………………………なぜ、お前がここに来た?」
タカヒコは神妙な面持ちで尋ねた。
「お、お前こそ!!どうしてこんな山奥の辺鄙な国にいるんだ!?そういえば、お前、ずっと会わなかったな?遭難してると思ってたぞ!」
タカヒコとは、タタラヒメとして大和の大戦中に会ったきりだった。
「お前、女王になるんだろ?
こんな所で油を売っていていいのか?」
「────はあ?女王!?? 何を言ってるんだ?」
いつも通り俺をからかってくる。
こいつはいつも、望まなくてもふらりと俺の前に勝手に現れて、苦々しい憎まれ口を一言二言吐いて去っていくのが常だった。
「フン!出雲には寄りつかず、さぞかし御母上が心配しているだろう!大きい大人が行方不明だってな!
何、俺が手を引いて連れて帰ってやろうか??」
俺だって女の姿だからと負けてはいられない。口喧嘩なら尚更だ。
「あ〜ん?
勝手にふざけてろ。
この、臣下を道連れにした哀れな道化師、
亡国の家なき王が!」
「•••••••••ぐっっ!!」
痛烈な言葉の暴力に、俺は胸を締め付けられる。
「お頭ぁ。そこまでにしてくださいよぉ〜」
部下たちは俺たちの不毛な争いに呆れているようだ。
「タカヒコお兄ぃ様!ど、どうしてその女とそんなに仲がよろしいの!?」
「きいーーー!憎らしい!!!穢らわしい!!!」
「お兄様、私たちへの裏切りです!!!!」
アヒラ人間たちが不穏にざわめき出す。
「いや、お前たちの兄じゃあないから」
タカヒコは首を左右に振り、おまけに疲れたように肩をすくめた。
四方八方から、女アヒラ人間の腕がタカヒコに伸びて絡まっている。
(こいつら、男嫌いじゃなかったのか!?)
先ほどまで俺たちと闘っていた、彼女たちはあまりに態度を豹変させ過ぎではないか。
「おい……そいつらは、ヒメじゃないよな?なのに、お前を兄だって?まさか、お前が望んでそう呼ばせているのか??」
俺は気味が悪くなり、恐る恐る聞いた。
「女アヒラ人間は、オリジナルであるアヒラヒメの兄である俺を慕うことがデフォルトらしいのだ」
タカヒコは、服を引っ張られたり、胸板を弄られたり、もはや好き勝手になされるがままだ。
見るに堪えない。対の雛人形なぞ遥かに及ばない。
これこそ、公序良俗に反する破廉恥行為ではないか。
「お前……、異性の好意は無闇矢鱈に受け入れればいいというわけではない。時には断る勇気も必要だ」
「分かっているぞ」
タカヒコは平然と言い放った。
「••••••••••••」
タカヒコは特に女に親切というわけではないのに、いつも磁石のように女を惹きつけてしまうんだよな。地元の出雲ではタカヒコを巡って何度も血を見る刃傷沙汰が起きていたとヒメから聞いていた。
これこそ、まさに女難の相という他ない。
「お前!まだタカヒコ兄様を見ていますの!?」
「旧型のシタテル人間のくせして!!ブーーース!」
「そうよ!そうよ!ブーーース!」
「やれやれ、おまえらなあ········」
タカヒコは大きくため息をついている。
「「「「「ブーーース!ブーーース!」」」」」
「な、なんだってぇぇぇ!!?」
とうとう、女アヒラ人間は聞くに堪えない悪口を連呼し出した。
最愛のかつての美しくも愛らしい妻の姿を貶され、俺も黙っていられない。
もはや、男嫌い•女アヒラ人間の敵意は、男アヒラ人間ではなく、このシタテル人間である俺にひとえに向かっている。
「やるか!?かかってこい!!!」
もはや、俺の平静の糸はプッツン切れていた。
「「「「「キェェェーーー!!!」」」」」
女アヒラ人間たちはまっしぐらに俺目がけて襲いかかったてきた。
「チッッッ!」
ああ、やはり、
いの一番に俺こそが男に戻るべきだった。
この俺が男にさえ戻れば、こんな貧弱な女軍団なぞ一瞬で殲滅できただろう。
「ちくしょう•••••••••、後一人、後一人男アヒラ人間が通りかかるだけでいいのに•••••••••!」
そう言い終わると同時に、
ドンッッ
背中に鈍い衝撃を感じる。
「うっ!?!?」
しまった刺客か、と自らの背を見れば、瀕死の雛人形商売男アヒラ人間が後ろから俺に抱きついていた。
「結婚してください………………」
「は、はあ!?」
「お、俺と、け、結婚して……………
俺を救ってくれた、優しい女神様。
俺と、ひ、雛人形になりましょう」
「ゲッッ!?」
俺は、その男の言葉に身がよだつほどの恐怖を感じた。
「お頭!今です!」
「は!?何が!!」
「憑依ですよ!!やっちゃえ!!」
「あっ!••••••••••そうか!」
急に抱きついて戯言を抜かす、この男アヒラ人間の心は、まさに隙だらけだった。
ガクリ、
脳内から男の意識が途絶え、
その空間に、俺の魂は滑り込んだ。
「悪く思うなよ。
突然、淑女に抱きつくなんて、
”公序良俗に反する”行いだからな?────」
俺は破廉恥な男のおかげで、
罪悪感を一切持たず、
見事、男の身体へと復活を遂げたのだった。
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