468話目 パリパリ故郷へ帰りたい タカヒコ(保)side
タカヒコ(保)視点です!
「右子? …………………何だって…………………?」
「はあ!?実の妹を忘れちゃったわけ!?
あんた、保だよね!?」
そのタカミムスビ神の劣化版のような奴は、造作の完璧な顔に相応しくないほどにみっともなく騒いだ。
「……………………いいや」
もちろん、俺が自分の名よりも大事な名前を忘れているわけがない。
しかし、その名前を赤の他人から聞くことで、俺は最近では幻のように感じていた”現実世界”を、まざまざと認識し直すこととなった。
「あーあ、もう!早く現実世界に帰りたいのに!早く右子様を見つけないと!」
早く早く、と騒ぎ立てるこの神は、まるで少年のような振る舞いだ。
「お前、アイン王子か………………?」
俺は相手の正体を気づかないわけにはいかなかった。
ここで会ったが百年目、別に会いたくもなかったが、こんなところで出くわすとは。
「やあ、これで帰宅メンバーがまた一人揃ったというわけか」
すでに日頃やり取りをしている、オオクニヌシに憑依したカオン王太子が楽しげに言う。
今、この部屋には現実世界の住民しかいないという事実が、俺を非常に不思議な気分にさせる。
もはや遠い昔話のようだった現実世界が、まざまざと俺の脳内に呼び覚まされたのだ。
「右子…………………そうだ、右子を迎えに行かないと…………………」
俺は呆然と呟いていた。
右子に早く会いたい。
現実世界の記憶を持っていることは、帰る為の非常に重要な条件になっているとウカノミタマから聞いた。
アイン王子とカオン王太子のおかげで記憶が明晰になり、より安全に現実世界へ帰れるようになったというわけだ。
「ちょっと!保!もしかして右子様の居場所を知ってるの??どこ!?」
「おお、僥倖だね。これでようやく皆揃って現実世界へ帰れるじゃないか。
そうか……招待状を強請っていたな────
つまり、右子様は尾張国にいるということかな?」
やはり、カオン王太子は憎らしいほどに察しが良い。
「えええ!!そっかあ!?なるほど!!
きっとそ尾張国の王族に転生したんだね!」
アイン王子は嬉々として言った。
「────────帰る?どうしてだ?」
俺は冷たく言い放った。
ふと、こいつらと現実世界へ戻ることが煩わしく思えたのだ。
「はあ!? どうしてって……………」
アイン王子は眉を寄せた。
現実世界は俺にとって幸せな世界とは言い難かった。
そもそも、俺が現実世界で苦労しているのはコーリア国からこいつら兄弟が厄介事を持ち込んで来たからではなかったか。
こいつら、コーリア国の王太子と王子を信用するつもりは毛頭ない。
「当然、保君も帰りたいでしょう?
ここは私たちのような現代人には野蛮すぎるし。
それに、この神話の世界は、我々が引っ掻き回したせいで違う世界線のパラレルワールドになってしまい、私たちが来たように簡単に夢を伝って戻ることができなくなってしまったけれど……
しかし、このアインの巨大な神力をもってすれば、特別な苦労もなくみんな一緒に現実世界へ帰れるのだから!」
カオン王太子が意気揚々と言う。
「俺は、別に帰りたいなんて思ってはいない」
「えええ!?そうなの!!?ええええ???」
アイン王子は驚いて仰け反っている。
というか、こいつらと一緒に帰りたくない。
俺はこの神話の世界まで夢の扉を何度も開いて伝って来たので、ここは夢の世界だと思っていた。
しかし、いつの間にか別の異次元の世界……パラレルワールドというものになってしまったとは大誤算だ。
しかし、俺にはヘラクレスの金棒がある。
ヘラクレスの金棒は打ち出の小槌に変化する。
打ち出の小槌は、何でも願い事を叶えてくれる。
ハンドルを回した分に比例して願い事を叶えることができるチートな魔法の品物なのだ。
実は、以前からコツコツと回転数を貯めていたから、上手くすれば右子と帝と三人ぐらい帰ることができるかもしれない。
「そうだ。右子にも………もう構わないでもらいたい」
「な、なんだって!」
アイン王子は叫んだ。
(そうだ。寧ろ………)
どうにかしてこの神話の世界へこいつらを置いていけば、現実世界はもっとマシになり平和になるってもんじゃあないだろうか?
「ふふふふ」
実に都合の良い考えが浮かんだ俺は、
自然とほくそ笑んでいた。
「いやだよ!?右子様は僕と!帰るんだ!」
アイン王子はムキになってまくし立てる。
所詮は右子とはただの他人の関係だというのに、
しつこいものだ。こいつの執着心は異次元級だ。
「では、招待状を…………譲ってくれ」
「わ・・・渡すわけないだろ!!!」
アイン王子はカンカンだった。
バサバサバサッ
その時、
執務室の小さな小窓からカラスが一羽飛び込んで来た。
『ギョェーー!お便りカァ!遥々、尾張国女王からのお便りカァカァ!』
「?」
アイン王子がカラスの足から手紙を受け取り、内容を読み上げる。
「なになに……『尾張国建国祝賀パーティー招待状の追加内容?』」
「追加内容?
先日の招待状に不備でもあったのか?」
カオン王太子が覗き込んだ。
「『尾張国建国祝賀パーティーにて、女王の結婚相手を探すコンテストを行います。つきましては、参加国各位には必ず腕自慢の殿方を一人ずつ立候補させ、コンテストにご参加いただきますようお願いいたします』………………だって!」
「ハァァ!?」
「結婚相手?…………………王婿、王配、ということかな?」
カオン王太子は慎重に言葉を選ぶ。
「コンテスト?腕自慢の殿方?
はん!武闘会でもやるつもりか?」
俺も意味がわからない。
王配といえば女王にも等しい立場となる。それを強いというだけで、身も知らない異国の輩に務まるはずもない。
俺たちは、突拍子もない内容に愕然とした。
『ゲッッ!!!タカヒコ!!!カァ!!!』
よく見れば、使いで飛んできたのは俺の配下をやっていたカラスだった。
「ふん、ウマシマジのやつ………」
コトシロヌシのカラスが尾張国でこんな風にこき使われていると知ったらスサノオ殿が怒るだろうな。ウマシマジ(タギシミミ)は、かなり尾張国の中枢に入り込んで協力しているようで、スパイとしては上出来なのだが、最近は連絡を絶っていることから反目の疑念が拭えない。
「うわ〜ぉ!ま、まさか、お、男と結婚!!??
おぉ~〜、ここまでニギハヤが吹っ切れちゃうとは思わなかったよ!!」
アイン王子は興奮して言った。
「本当だな。彼は心の底から女王になってしまったのかもねぇ」
カオン王太子もしみじみと頷く。
「…………」
”尾張国の女王”とは、
ニギハヤヒではなくミトシに憑依した星神だと、俺はスサノオ殿のアカシックレコードの情報網から知っている。
(だが、面白い冗談だな)
ニギハヤ女王が逞しい男と結婚だなんて、確かに想像しただけで面白い光景だ。
「じゃあ、保…タカヒコには、こっちね!」
「は」
アイン王子は、
俺に『尾張国建国祝賀パーティー招待状の追加内容』の方の招待状を押しつけて渡してきた。
「お、おい!?」
俺が慌てて、招待状を取り替えようとしたその時、
バサバサバサ バサバサバサッ
突如、アイン王子は大きな白い鳥に変身した。
見れば隣にいたカオン王太子も同じく変身している。アイン王子に変身させられたようだ。
「うん?アイン?これは何だ?」
カオン王太子は驚きながらも妙に落ち着いていて、羽ばたきなんかして背中を確認している。
「プッ、その姿は………コウノトリ?」
その白い鳥の羽根の先は黒いことからコウノトリだと分かる。よく田んぼをつついている庶民的な鳥だ。
なぜそれを選んだのかと俺が苦笑していると、
「右子様の居所が分かったんだから、空を飛んででも急がなきゃ!さあ!急げ急げーー!」
バサバサバサバサバサバサッ!
羽ばたきが激しくなる。
「うーむ、久しぶりに鳥になって、どう飛んだらいいのか……むむ?こうだったかな?」
カオン王太子も、つい先ほどまで両腕だった部位を素早く上下して、ふわりと飛び上がった。
「じゃあーねーーー!タカヒコ!
お前は大カラスになって来たらいいよーーーー!ーーー!」
「全く………、”立つ鳥跡を濁さず”って言葉も知らないのか、自分勝手な奴だな」
代理王の仕事は放っていいのだろうか?
呆れることに、補佐官も連れて行ってしまった。
急に静けさが訪れた執務室。
俺は、”追加の招待状”を握り締めていた。
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