467話目 最新モデルはなかなか手に入らない タカヒコside
黒百合国、タカヒコ視点です!
スサノオ殿の新しい研究所は、黒百合城の牢屋部屋をワンフロアー貸し切った所にある。
「フッフッフ、たくさん、たくさんナミ人間を作り出すぞ…………」
人造人間製造装置を前にして、不敵に肩を揺らして笑う祖神スサノオ殿に俺の背筋は冷えた。
この神のナミ研究に対する執念は、現実世界で言えば三文SF小説に登場するマッドサイエンティストそのものだった。
この黒百合国でスサノオ殿に出くわしてから、俺は出雲国王アジスキタカヒコネの立場に引き戻され、再び祖神である彼の手足となり働かなくてはいけなくなってしまった。神の世界は厳しい縦社会なのだ。
彼の神の指示内容は、
第一は、この黒百合国をナミ人間だらけの国にすること、国民の身分はナミ濃度が高いか低いかで上から順に決める。
それには、国内に蔓延る囚人男アヒラ人間を一人残らず排除する必要がある。ちょうどこの地に滞在していた男嫌いのククリヒメがスサノオ殿の構想に同調して討伐隊の指揮を取ることになった。それから、ククリヒメは毎日毎日男アヒラ人間を殺戮して廻っている。
第二は、アラディア王の代理王であるタカミムスビ神を排除すること。
スサノオ殿の頭の中では暴君アラディアでさえイザナミ様の偉大なる一種と捉えているらしく、彼女が王でいることには異論がないようだ。
まあ、かつてはヤマタノオロチでさえイザナミ様の生まれ変わりとして大和湖で可愛がって育てていたし、彼のイザナミ様の魂に近いという基準は今一つ凡人には分かりようもないが……
とにかく、スサノオ殿にとって、反ナミ運動の象徴であるというタカミムスビ神がこの黒百合国を統治しているのが我慢ならないらしい。
タカミムスビ神は、一時期アマテラス神へ最高神の座を譲ったが、現在は二神は習合しているため、タカミムスビ神は超超がつく最高神であり、天地無双の唯我独尊状態である。
スサノオ殿は、どうやったら父神タカミムスビ神という目の上のたんこぶを除去できるかと、常に下剋上への謀を巡らしていた。
「ほうら、たくさん、たくさん、女を作り出すぞ…………」
スサノオ殿の人造人間製造装置からは次々と女アヒラ人間が生産されていく。
「は〜いはい♪どんどんやっちゃってください♫」
隣でウキウキと、装置のアクリル水槽からいくらでも湧いて這い出てくる女アヒラ人間の世話にククリヒメは夢中になっていた。
”ナミ人間”には新旧のモデルがある。
実は、そもそも新しいモデルの”アヒラ人間”を作り出したのは今は亡きクニトコタチ神だった。スサノオ殿が独自に開発した人造人間製造装置では旧モデルのナミ人間である”シタテル人間“”しか製造できていなかった。
しかし、イザナミ様の幸魂のククリヒメの所持品である翡翠玉を水槽に沈めることで、ナミエキスが溶液に充分に染み出し、新モデルのアヒラ人間を作り出すことに成功したという。
その玉は、スサノオ殿も羨むほどの、イザナミ様より拝領したという世にも珍しく特別な翡翠の玉だった。
ククリヒメがあのイザナミ様の幸魂だというのも虚言ではなかったということだ。
「ウッフッフ、本当に素敵な装置ですわぁ〜!」
ククリヒメは、不本意にも宝物の翡翠玉を貸し出すことになってしまったとはいえ、大量のナミ人間に囲まれて今は喜びを爆発させている。
この女は異常なまでの強火ナミ担なのだった。
「ハァ、まだまだ足りぬ………」
スサノオ殿は深くため息を吐いた。
「今の”現在のナミ”はこの様な姿をしていない·······これも旧モデルになってしまった………」
悲痛な顔をして見つめる、スサノオ殿の牢部屋の壁際に置かれたデスクトップの画面には、尾張一族首長の孫娘であるツノヒメという名の赤子の画像が映し出されていた。
「ああああ!私も早く新しいイザナミ様にお会いしたいですわ!!!」
「うむ。近々この黒百合国へ“現在のナミ”を呼び寄せるつもりだ。そう、可及的速やかに」
「ええ!ええ!そういたしましょう!」
ククリヒメとスサノオ殿は、利害関係が一致しており、かなり気が合う。
ククリヒメは、スサノオ殿が来る前はアラディア王の配下に甘んじていたが、数多の男奴隷を痛めつける王国を志していたアラディア王と、そもそも男を排除したいククリヒメとで意見が対立していたらしい。
「しかし、くそ…………!
ウマシマジ(タギシミミ)め、コトシロヌシを襲名しておきながら、祖神である俺の言う事を聞かないとは…………」
スサノオ殿はギリギリと歯軋りした。
今の美しい少年の姿には到底不釣り合いなほどの憤怒の感情が形相に表れている。
「まあまあ、あいつにも考えがあるのですよ。
ヒメは尾張のニギハヤヒ一族の子女に生まれ、高貴な身分ですし、母であるミトシもいるし、彼らの目を盗んでまでそう簡単に外には連れてこられないですよ」
「ウマシマジはそもそも連絡すらも絶ってしまったのだぞ!!?」
タブレットからの情報によると、ウマシマジはとっくにヒメの生まれ変わりであるツノヒメの元に辿り着いたという。
「うーん、あいつめ、俺が様子を見てきましょう」
コトシロヌシ襲名早々、ウマシマジに失脚されては困る。
俺はもうコトシロヌシなんて厄介な役目は御免被るのだから。
「うむ、そうだな。それならちょうど良いぞ。
尾張国では近々建国パーティーが開かれるという。
国内が外国人で大勢賑わうのなら紛れ込み易いだろう」
「尾張で建国祝賀会ですか? …………なるほど…………」
何と、ニギハヤはとうとう国を建国するらしい。
さすがスサノオ殿は情報通だ。
デスクトップにアカシックレコードをインストールし、あらゆる情報を収集している。それらを最先端の技術や研究に活かしているのだ。
「…………そうだな。建国祝賀会であれば、国交を結ぶためにも近隣諸国の国王が招かれるでしょう。もしや、黒百合国にも招待状が届いているかもしれないですね」
招待状があれば招待客として豪奢な外交団に装って大勢の兵士たちを引き連れ入国できるだろう。
「何だと? 俺たちはアラディア王とは面識もないし、代理王はあの父上だ。奴らが招待状を譲ってくれるはずがないだろう。無駄な徒労は止めておけ」
社交性の皆無なスサノオ殿は、はなから諦めてしまって手をひらひら振っている。
しかし、あちらの補佐官には元出雲国王オオクニヌシがいるので、交渉の余地はある。
男アヒラ人間に関しては対立しているが、あちらにとっても男アヒラ人間などは所詮は囚人であり、取るに足らない存在のはずだ。
黒百合城に居座っている我々を排除するような動きもなく、互いに不干渉の状態が維持されており、敵対しているというほどではないのだ。
俺は黒百合城の執政室へ向かった。
スサノオ殿はアラディア王の代理王とはタカミムスビ神だと言うが、俺はまだ一度も見かけたことすらない。
トン・トン・トン
執務室のドアをノックする。
この部屋もかつては牢屋だったはずだが、いつの間にかリフォームしたようで囚人の様子を覗く格子のついた小さな窓は無く、木製の洒落たドアに変わっていた。
「誰だ?」
いたって聞き慣れた声だ。
声の主は代理王の補佐官で、俺アジスキタカヒコネの父神であるオオクニヌシだ。
彼には現実世界のカオン王太子が憑依しているので、二重に俺とは知り合いというわけだ。
俺たちは時々城下町で会った時に、情報や物資を交換している。
「────俺です」
「ああ、タカヒコか。入れ」
「えええ!!タカヒコォォ!?」
中で素っ頓狂な声が響いた。
「…………………………ん?」
タカミムスビ神というには、あまりに子供っぽい反応ではないか。
俺は驚くほど簡単に部屋の中へ招き入れられた。
そこには、造化三神、原初の神と名高き、高皇産霊尊タカミムスビ神が神々しくも立っていた。
この神は途方もない世紀を越えてきたというのに、瑞々しい青年のような美貌を崩すこと無く維持している。全く化け物のような御方だ。
「────お久しぶりでございます」
日向国での災害の時以来だ。
あの時は災害に遭い身体を醜く欠損していたものだが、すっかり復元しているのを確認する。
俺は深々と平伏した。
「フフッ、従順だな、タカヒコ」
お気楽トンボの声が聞こえる。
オオクニヌシは本当に自分の立場を弁えているのだろうか?
この神に命じられれば地球上の天神であろうと地神であろうと、圧倒されて従わざるを得ないだろう。
この我が不肖の父神オオクニヌシも例外ではないはずだが、畏怖のネジが外れ飛んで行ってしまっているのではないか。
「申し上げます。
尾張国建国祝賀会の招待状が届いていますでしょうか?もしご欠席であれば、私が代理で出席したいと思うのですが、如何でしょうか?」
内心、どうせこの神は欠席だろうと思う。
たかだか地上の小国の建国祝賀会にわざわざ出向くはずがない。
尾張国側もまさかタカミムスビ神が代理王だと知って招待状を出したわけではないだろう。
「·············え、招待状··········?
ああ!もしかして、尾張国が祝賀パーティーを開くとかいうやつ?···········」
「……………………………はい」
「ダメダメ!僕はニギハヤの女王姿の勇姿を眺めに行くつもりなんだ!」
「おいおい、そんな所にいってる暇はないと言っただろう?」
「ええ〜でもさ······面白そうなんだもん。
そうだ!もしかしたらそこに右子様もいるかもしれないじゃない?
!そうだよ!転生って身近な親族に生まれることが多いっていうから、もしかしたら、尾張国に転生してるのかも!?」
「あのなあ、他でもない、お前が黄泉を造り変えて縁故転生できないようにしてしまったのを、もう忘れたのか?」
この二人のやり取りを聞いて、俺は訝しむ。
どうも、最高神と地神の端くれの会話とは到底思えない。
「いいや、彼女はそういうの関係ないのかも………って思うんだ。
一般人とは違う転生をする可能性があるよ。
何といっても、あの魂は生命の根源である造化三神のカミムスビなんだから…………!」
「へえ?そういうものなのか?
私は黄泉でずっと待っていたけれど、右子様は一向に来る気配はないし、ほとほと困り果てたんだけどねえ。
本当に、どこに居られるのか……………やれやれ」
オオクニヌシは肩をすぼめた。
「…………………………………………………………………右子?」
俺は目を大きく見開いた。
「ああ、そうだ!
ねえ、タカヒコの親戚とかに右子様は転生してない!?」
無邪気にも、
最高神は俺に質問した。
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