466話目 昔のカノジョは未練 アインside
場所が変わり、処刑場の国、黒百合国です!
アイン視点です。少し残酷な描写があります。
「“尾張国建国祝賀パーティー”?
………なんだこれ?」
僕は首を傾げた。
この立派な招待状は天神が使うような紙を使用しており、国の裕福さを感じさせるものだった。
僕は新しく設置した執務室で執務に当たっている。
僕はこの黒百合国の国王代理になっていた。
「ははっ、カラスが使いでこの手紙を届けて参りました!」
囚人である男アヒラ人間を、何名か小間使いとして雇っている。顔が皆同じなので見分けがつかないけど、その内の誰かがカラスから手紙を受け取ったとのことだ。カラスを使いに使うなんて、出雲国のコトシロヌシぐらいだと思っていたんだけど。
「ふう…………”尾張国”?
あの辺は今までは国じゃなかったってことかな?」
それを言えばこの場所、”黒百合国“の方がよっぽど新参国だろう。
どうやら、尾張とは交流は皆無だけれど、周辺国ということで儀礼的に招待状を送ってきたらしい。
「めんどくさいし不参加だな。もちろん」
僕は手紙を放り投げて、小間使いに出してもらったお茶を啜った。
(なんか虚しいな…………
僕って何のためにここにいるのかな…………?)
僕は右子様以外に関心がないはずなのに、こんな寂しい場所に留まっている自分が凄く憎らしい。
アラディアに頼まれたからとはいえ、僕が優し過ぎて断れないことをいいことに利用されてしまっているのではないだろうか、と思わなくもない。
(どうして、僕はアラディアの言いなりになってるのかな……………?)
いやいや、言いなりになってるわけじゃない。
僕はこの地球で最強の最高神で宗主神だ。
アラディアは強くて危ない魔女だから、最高神の僕ぐらいしか止められないんだ。
アラディアを放っておけば、この世界は彼女によって崩壊させられてしまうかもしれない。
「妙だな」
「え、何?兄さん?」
ドキリとして、僕は隣の補佐官の席で同じくお茶をすすっている男に聞き返す。
オオクニヌシに憑依した、カオン兄上だ。
「尾張といえば、ニギハヤヒ殿が治めておられるはずだな」
彼は僕の依頼で右子様を待つ為に黄泉の国に滞在していたけれど、全く来ないので諦めて僕の所へ戻って来た。
カオン兄上も現代世界の住民で、この神話の世界に来ている。
「何が気になるの?」
「ここに、尾張国女王を祝福──、とある」
兄さんは手紙の文字を指でなぞる。
「あれ?女王?」
ニギハヤヒは男だから王という表記になるはずだけど、書き間違いかな?
そういえば、文字は雑で汚く所々間違いがあるから、文字に不慣れな者が書いたのかもしれない。
「ふむ……ニギハヤヒ殿はシタテル人間に憑依していて不釣り合いな女の身体になっているらしいが……」
兄さんはこの世界でも情報通だ。
ニギハヤヒ。久しく憎いアイツに会っていないな。
愚かにも、シタテルヒメの元夫ということで、アヒラヒメを妻のように追い求めている不届き者だ。
「なるほど、女に!? アハハハッ!
それなら不思議はないね?」
なるほど女王かと納得し、僕は高笑いした。
「だけど、あの男らしくマイペースなニギハヤヒ殿が身体だけの理由で自ら女王と名乗るのは、どこか違和感があるような………」
「諦めたんじゃない?
いやー、どんな美しい女王なのか、見たくなってきたよ!僕、出席しようかなぁ?」
「そんな、呑気なことを言って────アイン?」
兄さんは呆れたようにため息をつきながら、かつての現代世界での僕の名を呼んだ。
「いやいや、分かってるよ!
でも、右子様が何処にいるのか分からないんだ」
僕たちは右子様を探し出してみんな一緒に現代世界へ戻ることを目標にしている。
本当、こんな辺鄙な山奥でアラディアの用事を済ませている場合じゃないのだ。
「王代理!!処刑場で騒動が起きました!!!」
突然、執務室へ小間使いが飛び込んできた。
「え、また?」
この国は罪人の国だ。
毎日、囚人たちは昼は城下の処刑場で拷問を受け、夕方になれば城の牢に帰って冷たい床で眠る。
そんな彼らの生活を、本来の王であるアラディアの代わりに僕が統括して管理しているのだ。
アラディアの方針は、『生かさず・ほぼ殺す』
とはいえ、僕は男アヒラ人間たちをただ拷問するだけではなく、食事や衣服の支給、食事の増量など、国民の待遇改善に努めたりしている。
国民がいなくなっちゃえば国として存続できなくなるだろうし……
だけど、そんな配慮が裏目に出たのか、却って反乱や争いが多くなってしまったようだ。
囚人たちは、以前は衰弱しきっていてそんな気力も無かったのに、待遇改善によって様々なことを不満に感じるほどの元気を取り戻してしまったようだ。
「首謀者をここに連れて来て」
小間使いに指令を出す。
僕は、見せしめに首謀者をちょっと痛みつけることでいつも場を収めていた。
「やれやれ、お前は甘いんだよ」
兄上が首を竦めた。
そりゃあ兄上には執政者の素質が充分にあるけど、次男の僕はそういうの皆無なんだよね。
(人に優しくすれば、優しさが返ってくるもんじゃないの?……………そうあってほしいんだけどなぁ……)
世の中は本当に不条理だ。
僕はため息をついた。
「というか、囚人の騒動にはスサノオ殿が暗躍しているのではないかな?さすがに回数が多すぎる」
兄さんが指摘した。
最近は、武装した女アヒラ人間が何処からともなく処刑場へ現れて、地獄の鬼よろしく、囚人の男たちを殺戮して帰るという。
今回の騒動も彼女たちが関係しているのかもしれない。
「うーん、あちら側には男嫌いなククリヒメもついているしね。男への個人的な恨みだと思ってたけど……」
女アヒラ人間はどんどん増えているようだ。
これから手強い反抗勢力になっていきそうだ。
「どうやらこの監獄城のスサノオ殿の牢部屋で女アヒラ人間を製造しているようだ。白い月に乗せていた人造人間製造装置をここまで運び込んだらしいが……」
「はあ!?」
そういえば、いつの間にか白い月はこの国の上空へ移動していた。月は遥か高くに浮かんでいるのでそう移動しているようには見えないけど。
「そもそも、兄さんはなんであっち側の情報を持ってるわけ!?」
僕は兄さんがスパイだなんて思いたくないけど、一筋縄ではいかない人なんだよな。
「ふふふ、ほら、タカヒコだよ。
あいつはスサノオ殿の都合の良い手駒だからね。
しかし、この神話の世界で私と奴は親子関係で、互いに弱みも握っている。味方ではないが、条件が合えば物資や情報を交換するんだ」
「はいぃぃ!?タカヒコがここにいるのぉ!?」
「お前知らなかったのか?本当、お前は世間に疎いなぁ。スパイには向いてないぞ」
「スパイなんてなりたくないよ!」
溢れるほどの神力があっても役に立てられなければ意味がないと、いつもの兄さんの小言が始まってしまう。
僕は両手で耳を塞ごうとした、
その時
ポチャン········ポタッ·········ポタッ········
「?あれ?何の音?雨漏り?」
頭の上から雫が落ちてくるではないか。
「排水漏れかもな。神力で止められるか?」
「それは簡単だけど………」
でも止めても、原因をつき止めないと根本的な解決にならない。
僕たちは顔を見合わせた。
「この執務室の上って、アラディア王の牢だよな…………」
「うん…………、イヤな予感がする…………」
僕たちは最上階の牢屋へ向かった。
現場へ到着し、その光景を目の当たりにして、僕は深くため息をつく。
「今度は入水●殺?いい加減にしてよ」
アラディアは、部屋の真ん中に置かれたバスタブの中、真っ赤な血に染まった湯に身を沈めて息絶えていた。
「最初は首吊り、次の日は服毒、次の次の日は切腹、そして焼身、煉炭 ………
対応するこっちの身にもなってよ!」
もう聞こえていないだろう、骸に僕は怒鳴っていた。
「また、あそこへ行ったのだろう?」
兄さんが言った。
そう、たぶんアラディアは黄泉まで行っているのだ。
どうしてか、アラディアは●殺行為を繰り返すようになっていた。
しかし黄泉に辿り着いた彼女に用意された転生先は無いようで、転生の川の渦に巻き込まれることはなかったそうだ。
そこで待機していた兄さんと出会い、兄さんを引き連れて一緒に黒百合国へ戻って来たのだ。
「もう道は覚えただろう。
自分で戻って来るだろうな?」
「うん……………」
とはいえ、幾度も黄泉へ行くなんて気持ちの良いことではない。
「全く、破滅的で趣味の悪いお嬢さんだな」
「ええと、アラディアは、右子様がいない世界では生き辛いみたいなんだよね。
現代世界の夢の中では、右子様を失ってどんどん夢の世界が腐っていくって言ってたよ」
「ふーーーむ?・・・・複雑だな・・・・
仲は悪いけれど、右子様は必要ということか?」
兄さんは苦悩している。
僕は浴槽からアラディアの身体を掬い出して抱き上げると、暫くしてアラディアの身体はすっと霧のように消えた。
もう黄泉へ着いた頃かもしれない。
「ああ、アレだからじゃないかな………
アラディアはそもそも”過去の右子”で、本体じゃないから……」
そうだ。
僕がいつもアラディアに弱いのは、アラディアと右子様はかつて同じ一人の人物だったからなのだ。
「本人は嫌そうだけどね。自由に生きられないから。
アラディアにしてみれば、右子様は目の上のたんこぶみたいな存在なんだ」
「過去の右子様ねぇ。本人は“荒魂”だと言っていたが…………」
兄さんはアラディアと会話をしたらしい。
往々にして”過去”は”悪いこと”や“失敗”と見なされることがある。
過去を否定して未来を賛美するのは、人間の生存戦略の常套手段なのだ。
その、嫌な出来事、悪い心、が過去と一緒に打ち捨てられ、”荒魂”と名を変えたのだと思う。
そう思うと、
だから僕は右子様の荒魂のアラディアを放っておけないのかと、合点がいくんだ。
この神話の世界にも”過去の彼女”は大勢いる。
寧ろこの世界のあらゆる女たる女の起源はカミムスビだ。
この神話の世界の女性とは、イザナミも含めて過去の彼女だ。
全て、カミムスビが産み落とし過去に捨てた存在だといえるのだ。
だから僕は、一番新しい“現在のナミ”を探さなくてはいけない。
僕が追い求める右子様はきっとそこにいる。
「あっ!」
彼女の名前を思い出すだけで、また、
(全く、未練がましい男はみっともないよ…………)
僕の中のタカミムスビの心が
チクリと痛んだ。
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