目撃
宮の火が次々と落ち、あたりを照らす篝火だけが揺れていた。
人の気配が完全に絶えた頃を見計らい――
サクはこそこそと忍び足で動き出す。
向かった先は、人の寄りつかない高床倉庫の並ぶ一角だった。
忍び足で裏手へ回り、高床の下へしゃがみ込む。
(……いた)
思わず頬が緩む。
暗がりの奥。
藁の上で、三匹の子猫が身を寄せ合っていた。
小さな身体。
ぴくぴく動く耳。
まだ頼りない鳴き声。
可愛くて仕方がない。
本当なら、母猫が世話をしているはずだった。
けれど、数日前から姿を見せなくなった。
最初は、そのうち戻ってくると思っていた。
だが、一日。
二日。
三日経っても、母猫は帰ってこなかった。
放っておけば、この子たちは死んでしまう。
そう思ったサクは、誰にも内緒で、こっそり面倒を見るようになっていた。
食事を運び。
水を置き。
藁を替え。
誰かに見つからないよう、まるで悪いことでもしているかのように。
(ちゃんと食べてるかな……)
(寒くないかな……)
(獣に襲われてないかな……)
気になって、気になって。
結局、こうして夜中に抜け出してきてしまう。
「みぃ……」
子猫の一匹が、小さく鳴いた。
「しーっ。大丈夫だよ」
サクは小声で囁きながら、そっと身を乗り出す。
その時だった。
かすかに。
キィン――!
と、澄んだ金属音が夜気を震わせた。
(……ん?)
サクはぴたりと動きを止める。
こんな時間に?
夜回りの兵だろうか。
でも、あんな鋭い音を立てるだろうか。
不思議に思ったサクは、子猫たちを振り返った。
「ちょっとだけだからね……」
小声で囁くと、高床の下から這い出した。
恐る恐る音のした方向へ近づく。
その瞬間――
黒い影が走った。
(……!?)
息を呑む。
次の瞬間。
月明かりの下で、二つの刃が激しくぶつかり合い、火花を散らした。
黒装束の男。
そして、もう一人。
低く身を沈め、紙一重で相手の刃を受け止める小柄な影。
(――何!? なに、なに!?)
頭の中が疑問で埋め尽くされる。
目の前の出来事に頭が追いつかない。
恐怖で全身がすくみ上がりながらも、目が離せない。
黒装束の男が鋭く踏み込み、刃が閃く。
小柄な影が身をひねり、寸前で躱す。
再び。
キィン!
火花が散る。
(ひっ……)
思わず口元を押さえる。
人が。
本当に斬り合っている。
それを理解した瞬間、全身から血の気が引いた。
次の瞬間――
雲に隠れていた月が、ふっと姿を現す。
銀色の光が差し込み、低く構える小柄な影の横顔を照らした。
さらりと揺れる黒髪。
まだ幼さを残した顔立ち。
そして、妙に落ち着いた目。
その顔を見た瞬間――
(……え?)
サクの目が大きく見開かれた。
信じられない。
信じられなくて、何度も瞬きをする。
けれど。
見間違えるはずがなかった。
(チガヤくん――!?)
いつも淡々としていて。
どこか面倒くさそうで。
食いしん坊で。
人の話を適当に聞いているあの少年が。
――今。
月明かりの下で。
息を呑むほど鋭い目をして、命のやり取りをしている。




