↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/10

パーティ

王命を受けた私たち五人は、装備を整えるため王都の街へ繰り出した。

 遠征に必要なものは全部王家持ち。

 さすが王族。

 こういうところだけは本当に太っ腹だ。

 それぞれ必要な品を買い込み、中央広場で合流すると、そのまま隠された遺跡へ向けて出発した。

 ……とはいえ。


 

「自己紹介する暇もないわね」


 

 山道は想像以上に険しかった。

 崩れた岩場、ぬかるんだ斜面、倒木。

 誰かが滑れば誰かが支え、荷物が落ちれば拾い、気づけば自然と助け合っていた。

 そして。

 昼前に出発した私たちが遺跡に辿り着いた頃には、空はすっかり茜色から群青へ変わっていた。

 山崩れの跡が生々しく残る岩肌。

 その中に半ば埋もれるようにして現れた古代神殿。

 歪んだ門は、まるで大口を開けてわたしたちを待っている怪物みたいだった。


 

「夜に遺跡へ入るのは危険だ。今日はここで野営しよう」


 

 レオニスの提案に全員が頷く。


 

「しかし、寝床を確保するのが骨じゃのう」


 

 ガイアスが辺りを見回して唸った。

 山崩れのせいで木や岩が散乱している。

 確かに、このままじゃ野営は難しい。


 

「じゃ、私に任せて♪」


 

 マジックバッグから小さな種を取り出し、等間隔に埋める。

 そして地面に手を当てた。


 

『大地の精霊グラウディスよ。汝の祝福を与え、土に命を!』


 

『――出てよ、ゴーレム!』


 

 もこもこっ!

 土が盛り上がり、巨大な人型が現れる。


 

「まさか……ゴーレムの種!?」


 

 メイアースが目を丸くした。

 五メートル級のゴーレム三体は、わたしの指示で倒木や岩を片付け始めた。

 あっという間に整地は完了。

 ついでに竈まで完成。


 

「はーい♪ お疲れ様!」


 

 核の種を抜き取ると、ゴーレムたちは土へ還った。


 

「すげぇ……」


 

 レオニスが呆然としている。


 

「じゃ、次はご飯ね♪」


 

 大鍋をイザークに渡す。


 

「悪い、水を頼める?」


 

「ああ」


 

 彼は短く答えて川へ向かった。

 その間に、じゃがいも、人参、玉ねぎ、干し肉を取り出して準備する。


 

「火は任せてください!」


 

 メイアースが火打石を取り出す。

 こういうところ、本当に真面目よね。

 ぐつぐつと煮込まれていくシチュー。

 味見してみる。


 

「うんっ♪ 今日も美味しい! 私って天才♡」


 

 すると男性陣から拍手が起こった。


 

「早く食たべたーい!」


 

 アジノが騒ぎ。


 

「腹減った!」


 

 レオニスが叫び。


 

「若いのぅ」


 

 ガイアスが笑う。

 そして全員でいただきます。


 

「美味しい!」


 

「いける!」


 

「うまい!」


 

「最高!」


 

 みんなの顔が一気に明るくなった。

 ……よかった。

 誰かの「美味しい」って、なんだか嬉しい。

 結局、大鍋は空っぽになった。

 片付けようと立ち上がると。


 

「座ってろ」


 

 ぽん。

 頭に大きな手が乗った。


 

「え?」


 

 顔を上げると、イザークが少し笑っていた。


 

「野営地を作って、飯まで作ったんだ。片付けくらい俺たちがやる」


 

「そうそう!」


 

 アジノも立ち上がる。


 

「お嬢さんは座っとれ」


 

 ガイアス。


 

「ご馳走様でした」


 

 メイアースまで頭を下げた。

 そして。


 

「ほら王子様! 民衆と一緒に労働労働!」


 

 アジノに引っ張られたレオニスまで連行されていく。


 

「おい! 引っ張るな!」


 

 そんな光景を見て。

 わたしは胸の奥がぽかぽかするのを感じていた。


 

「みんな……優しいなぁ……」


 

 そして。

 頭に触れられた場所が、妙に熱い。


 

「……何、この感じ」


 

 変なの。

 そんなことを考えながら、私はイザークの背中を見つめていた。


腹ごしらえも終わり、焚き火を囲んで一息ついた頃だった。

 ぱちぱちと薪が爆ぜる音だけが静かな夜に響く。

 遺跡へ向かう道中は慌ただしく、まともに話す時間もなかった。

 こうして全員が腰を落ち着けるのは、これが初めてだった。


 

「うーむ……」


 

 最初に口を開いたのはガイアスだった。

 大きな腕を組み、焚き火を見つめながら唸る。


 

「どうしたの?」


 

「いやな。王命を受けて集まった仲間同士だ。このまま無言というのも味気ないと思ってな」


 

 そう言うと、ガイアスは立ち上がった。

 改めて見ると、本当に大きい。

 座っていても大きかったけれど、立ち上がるとまるで熊だ。

 背丈は二メートルを優に超えている。

 炎のような橙色の短髪。

 同じ色の立派な髭。

 真紅のマントの下には重厚な鎧。

 背中には巨大な突槍と塔のような大盾を背負っていた。

 普通の人なら持ち上げることすら難しそうな装備なのに、この人は平然としている。


 

「では、年長者から名乗らせてもらおう」


 

 ガイアスは咳払いをした。


 

「俺はガイアス・ヴォルグ。炎の大陸ゼノ=フレア王国出身だ。今はセオリス王国騎兵団第二士隊隊長を任されている」


 

 低くよく通る声。

 いかにも歴戦の軍人という雰囲気だ。


 

「得意なのは前線維持と護衛。敵の攻撃を受け止めるのが役目じゃな」


 

 そう言うと背中の大盾を軽々と持ち上げた。

 ごんっ、と地面に置かれる。

 地面が揺れた。


 

「うわ……」


 

 思わず声が漏れる。

 重そう。

 というか絶対重い。

 私なら一センチも動かせる気がしない。

 しかし。

 そんな豪快な男が、急にもじもじし始めた。


 

「あー……それとじゃな」


 

 指先を擦り合わせる。

 頬が赤い。


 

「嬢ちゃん」


 

「はい?」


 

「わしゃ実は料理が好きでな……」


 

 全員が固まった。

 本人だけが真面目な顔をしている。


 

「その……さっきのシチューの作り方を教えてもらえんか?」


 

 沈黙。

 そして。


 

「ぷっ!」


 

 私は吹き出した。


 

「もちろん♪」


 

「おおっ!」


 

 ガイアスが嬉しそうに顔を輝かせた。

 見た目との落差がすごい。

 なんだこの人。

 可愛い。

 場の空気が一気に和んだ。


 

「じゃあ次は俺だな」


 

 レオニスが立ち上がる。

 焚き火の光を受けて、プラチナブロンドの髪が金色に輝いた。

 整った顔立ち。

 凛々しい碧眼。

 王子様という言葉が歩いているみたいな人だ。


 

「レオニス・アルセインだ」


 

 言わずと知れた第二王子。


 

「今回の遺跡調査の責任者を務める」


 

 短い。

 簡潔。

 王子らしい。

 だけど。


 

「それだけ?」


 

 アジノが首を傾げる。


 

「十分だろう」


 

「固いなぁ!」


 

 アジノが笑いながら背中に飛びついた。


 

「この人ねー、昔からこうなの!」


 

「おい」


 

「ちなみに剣の腕は王国トップクラス! 女性人気も王都トップクラス!」


 

「余計なことを言うな」


 

 レオニスが眉をひそめる。

 でも少しだけ困った顔になっていて、なんだか親しみやすかった。


 

「次は僕ね!」


 

 アジノが勢いよく立ち上がる。

 亜麻色の髪がふわりと揺れた。

 栗色の瞳は人懐っこく、見ているだけで楽しくなる。


 

「僕はアジノ・ルクヴェール!」


 

 両手を広げる。


 

「職業は王室御用達の絵師!」


 

「絵師?」


 

 私が首を傾げると、アジノは胸を張った。


 

「そう! 王家の肖像画とか歴史画とか描いてる!」


 

「へぇ」


 

「今回は記録係として参加なんだ。みんなの活躍を後世に残す重要な役目だからね!」


 

 そう言いながらスケッチブックを掲げる。


 

「あと可愛い女の子を描くのも好き!」


 

「最後いらないわよね?」


 

「大事だよ!」


 

 本当に自由人だった。

 続いて。


 

「つ、次は私ですね……」


 

 おずおずと立ち上がったのはメイアースだった。

 銀色の髪。

 華奢な身体。

 抱えるように持つ分厚い魔導書。

 見るからに魔法使いだ。


 

「メイアース・セルフィナと申します」


 

 小さな声。

 消え入りそうなくらい小さい。


 

「白魔法と治癒術を専門としております」


 

「回復役か」


 

 レオニスが頷く。


 

「は、はい……」


 

 メイアースはさらに小さくなる。


 

「王立中央図書館『叡智の森』の司書見習いでもあります」


 

「おお!」


 

 アジノが目を輝かせた。


 

「すごいじゃん!」


 

「い、いえ……まだ見習いですので……」


 

 謙虚だ。

 でも古代魔法や遺跡の知識なら、この中で一番頼りになるかもしれない。

 そして。


 

「じゃあ俺かな」


 

 静かな声。

 イザークだった。

 焚き火の向こう側で、赤い髪が炎に溶け込むように揺れている。


 

「俺はイザーク・カルデロ」


 

 短剣を指先で回す。

 それだけで妙に絵になる。


 

「城では隠密をやっている」


 

 さらりと言うけど。

 それって王家直属の諜報員ってことよね?


 

「罠解除、潜入、探索、鑑定が専門だ」


 

 ガーネットの瞳がこちらを見る。

 どくん。

 心臓が跳ねた。


 

「遺跡では役に立てると思う」


 

 そう言って微かに笑う。

 その笑顔が反則だった。

 綺麗すぎる。


 

「よろしくな」


 

「う、うん!」


 

 変な声が出た。

 しまった。

 絶対変な子だと思われた。

 なんで私ドキドキしてるの!?

 すると。


 

「最後はエミリウスだね」


 

 アジノがニヤニヤしながら言った。

 嫌な予感がする。

 ものすごくする。

 そして案の定。

 アジノが指を鳴らした。


 

「せーの!」

 


「ヒドラ斬りのエミリウス!」


 

 全員が声を揃えて叫んだ瞬間、焚き火の周りに笑い声が弾けた。


 

「だからその二つ名、やめてって言ってるでしょ!」


 

 真っ赤になって抗議すると、さらに皆が笑い出す。


 

「君、王都じゃ知らない人の方が少ないよ?」


 

 アジノが肩を揺らして笑う。


 

「まぁ、あのヒドラを数分で倒した娘が、こんな可愛らしい嬢ちゃんだとは思わんかったがな」


 

 ガイアスまで笑いながら頷く。


 

「もうっ! だからあれは生活費のためだったの!」


 

 恥ずかしさに耐えきれず、私は顔を背けた。

 焚き火の炎がぱちぱちと音を立てる。

 誰かが薪をくべ。

 誰かが笑い。

 誰かが空を見上げる。

 違う人生を歩いてきた六人。

 それでも今だけは、同じ炎を囲む仲間だった。

 ――この時の私は、まだ知らなかった。

 この遺跡の奥で。

 私たち全員の運命を変えてしまう「何か」が待っていることを。


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。