こんなハズじゃなかった
――そして、その夜。
「あーっ! もう! 絶対こうなると思ってた! 分かってたのよ、私! でも、もしかしたらって期待した私が馬鹿だったわ!」
私は木の根元にしゃがみ込み、頭を抱えた。
深い森の奥。
盗賊どもの根城になっている廃村を見下ろせる絶好の位置。
昨日、自分で目印をつけておいた木陰だ。
そして、私の隣には案の定、アジノ。
ここまではいい。
いや、良くないけど、百歩譲っていい。
問題はその隣。
長いプラチナブロンドの髪。
月明かりを反射する銀色の鎧。
無駄に豪華なマント。
腰には宝石だらけの高そうな剣。
暗殺や奇襲なんて言葉を知らなそうな、歩く成金みたいな男。
……誰よ、こいつ。
「アジノがついてくるのは予想してたわ。だから準備もしてきた。でも……」
私は引きつった笑顔で隣の男を指差した。
「なんで、こんなピカピカ光る奴まで増えてるのよ!? 夜襲よ!? 夜! 暗闇! 隠密! 分かる!?」
泣きたい。
本気で泣きたい。
「彼は――」
アジノが説明しようとする。
でも、もういい。
聞きたくない。
私は両耳を押さえた。
「私は一人……私一人……」
「エミリウス?」
「見えてない。何も見えてない。私はソロ。今日もソロ」
現実逃避していると、銀色男が小声で叫んだ。
「おい! 奴らが動き出したぞ! 出なくていいのか!」
「バッカじゃないの!?」
思わず振り向いて怒鳴りそうになる。
「いきなり飛び出してどうすんのよ! 少人数には少人数の戦い方ってものがあるの! 数で負けてるんだから頭使うの! 筋肉で解決しようとしない!」
「む……」
「『む……』じゃないわよ!」
まったく。
これだから脳みそまで筋肉の人種は。
「さて、と」
私は風向きを確かめる。
よし。
風下は盗賊ども。
風上はこっち。
完璧。
「ショータイムよ♪」
腰の袋から煙玉を取り出し、焚き火へ放り込む。
ボフッ!
白煙が一気に広がった。
「なんだ!?」
「煙だ!」
「前が見えねぇ!」
よしよし。
大成功。
盗賊どもは完全に混乱している。
「いい? 狙いは頭目だけ。頭目を人質にすれば全部終わるの。賞金首もあいつなんだから――」
スカーフで口元を覆い、飛び出そうとした、その瞬間。
「そんな姑息な戦法、俺の矜持が許さん!」
「は?」
銀色男が飛び出した。
いや、待て。
待ちなさい。
止まれ。
止まれって!!
そして男は剣を掲げる。
「風よ! 全てを薙ぎ払え!」
その瞬間。
――ゴォォォォッ!!
一閃。
凄まじい衝撃波が森を揺らした。
そして。
煙幕が真っ二つに裂けた。
「え?」
あたしの思考が止まる。
今の一撃。
まさか。
嘘でしょ。
あたしは目を見開いた。
「ちょっと待って……」
銀色の刀身。
翼の紋章。
風を従える伝説の力。
かつて空を翔けた英雄王が振るったとされる王家の秘宝。
国宝中の国宝。
誰もが名前だけは知っている神話級の魔剣。
その名も――『翼の剣』
風を断ち。
大地を裂き。
一振りで軍勢すら薙ぎ払うと伝わる伝説の聖剣。
普通の人間なら一生お目にかかれない代物。
そんなものを持った男が。
よりによって。
私の煙幕を消し飛ばした。
「…………」
いや、待って。
違う。
違う違う。
問題はそこじゃない。
問題は――煙が消えた。
盗賊たち全員の視線。
そして。
丸見えになった、私たち。
「ちょっとォォォォ!!」
あたしの悲鳴が森に響いた。
「なんてことしてくれてんのよ!!」
「正々堂々戦う!」
「誰も聞いてないわよ!!」
しかし、銀色男は得意満面。
剣を構えたまま、
「行くぞ!」
とか言いながら盗賊の群れへ突っ込んでいった。
「……あの馬鹿」
本日二度目の本音が漏れた。
「もう! 知らないんだから!」
知らない。
助けない。
絶対助けない。
……いや、死なれたら後味悪いし。
仕方ないから助けるけど。
べ、別に心配してるわけじゃないんだから!
私は舌打ちしながら、その馬鹿の背中を追いかけた。
頭目の姿を見つける。
あいつだけ捕まえれば――
そう思った、その時だった。
「おおおおおおおっ!!」
森の奥から鬨の声。
甲冑の音。
松明の光。
次々と現れる兵士たち。
そして先頭を走る男が兜を上げ、高らかに叫んだ。
「我らセリオス王国騎士団第二支隊!」
「隊長ヴァレンシア=ガーノルド!」
「レオニス第二王子殿下に続けぇぇぇ!!」
え。
第二王子?
今なんて?
私は固まった。
そして、目の前で盗賊より先に突っ込んでいく銀色男を見た。
プラチナブロンド。
銀の鎧。
伝説の『翼の剣』。
そして。
脳筋。
「……」
「……」
「アジノ」
「なんだい?」
「あんた、なんで王子なんか連れてきたのよ」
「いやぁ、成り行きで」
「成り行きで済むかぁぁぁ!!」
こうして。
私の完璧だった盗賊討伐作戦は、王子様と騎士団の乱入によって、盛大に爆発四散したのである。




