いざ!クエスト開始!
――トントントントン。
私の指先が、一定のリズムで木製テーブルを叩く。
城下町でも有名な冒険者酒場《金獅子亭》。
昼間だというのに店内は満席で、酒と笑い声が飛び交っていた。
その喧騒の中で――私の周囲だけが妙に静かだった。
理由は簡単。
私の正面で、男が二人そろって土下座寸前だからである。
「ごめん! 本当にごめん!! エミリウス!!」
涙目で叫んだのはアジノ。
亜麻色の髪を振り乱しながら、隣に座る美青年の頭を無理やり押さえつけている。
「ほらレオンも謝って!」
「ぐっ……苦しい……!」
押さえつけられているのはレオン。
金糸のようなプラチナブロンドに碧眼を持つ、絵に描いたような美男子だ。
なお、現在進行形でアジノに頭をテーブルへ押し付けられている。
店中の視線がこちらに集まっていた。
まあ、当然よね。
美男二人が美女に説教されてる構図だもの。
見世物としては満点だ。
「で?」
私はにっこり笑った。
笑顔だけど。
笑顔だけどね?
「自分たちが何をやらかしたのか、ちゃんと理解してる?」
アジノがびくりと震える。
レオンは首を傾げた。
あ、この顔。
全然分かってない顔だ。
「特に――」
私が言いかけると
「あああああっ!!」
アジノが慌てて私の口を塞いだ。
「ダメダメダメ!! その話は後で!!」
「むぐっ!?」
「ここ酒場だから!! 酒場!!」
確かに。
ここで『第二王子』なんて単語を出したら騒ぎになる。
私は渋々アジノの手を払いのけた。
その時だった。
「おーい!!」
奥の席から男の声が飛んできた。
「昨日の英雄に一杯追加だ!!」
店内から歓声が上がる。
「嬢ちゃん最高だったぞ!」
「盗賊どもを一晩で潰しやがって!」
「俺たちの酒代より安く街を救いやがった!」
なんか褒められている。
非常に複雑だ。
私は営業用の笑顔を貼り付けた。
「どうもありがとうございますー」
全然嬉しくない。
本当に全然。
するとマスターが蜂蜜酒を持ってきた。
「ほれ!」
どんっ。
大ジョッキが置かれる。
「特級冒険者になった翌日に盗賊団壊滅だろ?」
「たまたまよ」
「しかも宝を全部街に還元したんだってな!」
「別にいらなかっただけ」
「格好いいじゃねぇか!」
バシィッ!!
「ぶふっ!」
背中を叩かれた衝撃で酒が飛び散った。
マスターは豪快に笑いながら去っていく。
私は引きつった笑顔のままジョッキを持ち上げた。
ぐいっ。
一気飲み。
そして空になったジョッキを置く。
コトリ。
静寂。
私は再び二人へ向き直った。
「――で?」
背後に黒いオーラでも見えそうなほど静かな怒りを漂わせる。
アジノが青ざめる。
レオンもようやく危険を察したらしい。
「とりあえず」
私は優しく微笑んだ。
「説教の前に殴らせて?」
ぎりっ。
革手袋が嫌な音を立てる。
「待って!!」
アジノ絶叫。
「話せば分かるから!!」
「そうだ!」
レオンまで便乗した。
しかも少し不満そうというか、私がなぜ怒ってるのか分からない様な口調で憮然としていた。
「たしかに……君の計画を潰してしまったのは謝ろう。しかし、善行を成し遂げ、街の人々に感謝され、騎士団からセオリス功労勲章まで授与されたんだ。何が不満なんだ?」
私は固まった。
数秒沈黙。
そして――
「は?」
レオンの襟首を掴んだ。
ぐいっ。
「ちょっ――」
顔を近づける。
さらに近づける。
レオンが後ずさろうとしても逃がさない。
「何が不満かですって?」
にっこり。
「私はね?」
にっこり。
「静かに冒険者になって」
にっこり。
「適当に依頼をこなして」
にっこり。
「目立たず生きていきたかったの」
にっこり。
「分かる?」
「……」
「なのに」
私の額に青筋が浮く。
「誰かさん達が勝手に騎士団呼んで」
「誰かさん達が勝手に功績報告して」
「誰かさん達が勝手に勲章推薦して」
「気付いたら私、『盗賊団壊滅の英雄』になってたんだけど?」
レオンが目を瞬かせた。
「だが名誉だぞ?」
「いらない!!」
酒場中に私の叫びが響き渡った。
客たちが爆笑する。
アジノは頭を抱えた。
レオンは本気で理解できていない顔をしていた。
ああ……ダメだ。
この人たち。
本当に悪気がない。
だから余計にタチが悪いのよ!!
「……私はね」
レオンの胸ぐらを掴んだまま、低く呟く。
「勲章とか栄誉とか、そういうの一切いらないの」
その声音は静かだった。
静かすぎて逆に怖い。
レオンもさすがに察したのか、顔色がみるみる青くなっていく。
「世間知らずの坊ちゃんには分からないでしょうけどね」
私は襟を放し、どかっと椅子に座り直した。
「私はお宝と報酬目当てで働いてるの。依頼をこなして、お金を稼いで、美味しいもの食べて、のんびり暮らしたいだけ」
カップを握る手に力が入る。
「それ以外の面倒事なんて、一ミリも望んでないのよ」
ぴしっ。
カップが小さく軋んだ。
アジノが青ざめる。
レオンも無言になる。
「特級取ったのだって理由があるの」
私はため息を吐いた。
「最初に派手に実力見せておけば、変な絡まれ方もしないし、依頼の取り合いもしなくて済むでしょ?」
楽したかった。
本当にそれだけだった。
「なのに」
どんっ!
私はジョッキをテーブルに叩きつけた。
「なんで盗賊退治が英雄譚になってるのよ!」
酒が跳ねる。
「なんで功労勲章授与されてるのよ!」
さらに跳ねる。
「なんで街中で『英雄様』って呼ばれてるのよ!!」
酒場の一階から
「英雄様ー!」
という声が聞こえてきた。
「ほらまた!」
私は天井を指差した。
「全部あんた達のせいじゃない!」
アジノとレオンが同時に目を逸らした。
「二人とも」
にっこり。
「絶対に許さないから」
アジノが震えた。
レオンも初めて危機感を覚えたらしい。
「エ、エミリウス……」
アジノが情けない声を出す。
「誤解なんだよ……! 本当に偶然が重なっただけなんだ!」
栗色の瞳を潤ませながら見上げてくる。
子犬か?
いや。
騙されない。
この顔で何人落としてきたと思ってるのよ。
「その顔で誤魔化せると思わないで」
「うっ」
会心の一撃だったらしい。
アジノが沈んだ。
「まぁ、ここで話すのもなんだからさ」
アジノは気を取り直して立ち上がった。
「マスター! 二階の個室借りてもいい?」
するとマスターが豪快に笑う。
「今度うちの嫁さんと娘を描いてくれるなら貸してやる!」
「喜んで」
「あと、その嬢ちゃんも描いてくれ!」
「なんで私まで!?」
思わず立ち上がる。
店中が笑った。
やめて。
ほんとやめて。
もう目立ちたくない。
しかし私の願いなど誰も聞いてくれない。
「さ、行こう」
アジノが背中を押す。
「ちょっと!」
「ほらほら」
「押すな!」
「エミリウス、声大きい」
「誰のせいよ!」
そんなやり取りをしながら二階へ向かう。
階段を上がる途中も
「英雄様ー!」
「盗賊狩りのお姉さん!」
「功労者殿!」
などと好き勝手な声が飛んでくる。
私は本気で泣きたくなった。
個室に入った瞬間、椅子へ崩れるように腰を下ろす。
レオンは向かいのソファへ。
アジノはドアに鍵をかけてから私の正面に座った。
そして神妙な顔を作る。
「それじゃあ弁明を――」
「待った」
私は片手を上げた。
「アジノ、あんたはいい」
「え?」
「だいたい分かってるから」
アジノが固まる。
「どうせギルドで私の話を盗み聞きして、面白そうだからついてきたんでしょ?」
「あはは……」
図星だったらしい。
「ご明察」
苦笑しながら頭を掻く。
私は呆れたようにため息を吐いた。
「やっぱりね」
そして視線を隣へ向ける。
プラチナブロンドの青年。
この国の第二王子。
レオニス・アルセイン
私は目を細めた。
「で?」
レオニスことレオンの背筋がぴんと伸びる。
「レオニス殿下」
逃がさないわよ。
「あなたは何でついてきたの?」
二日前――中央王都セオリス冒険者ギルド。
その日もギルドは朝から騒がしかった。
依頼掲示板の前で仲間と相談する冒険者。
討伐報酬を換金する者。
酒を飲みながら次の仕事の計画を立てる者。
いつだってギルドは活気に満ちている。
私はそんな喧騒を横目に、掲示板の前へ歩いていった。
すると――
ざわっ。
人の流れが真っ二つに割れた。
まるでモンスター避けの結界みたいに。
……何これ。
最近ずっとこんな感じなんだけど。
正直やめてほしい。
私は普通に依頼を探したいだけなのに。
けれど周囲の冒険者たちは、遠巻きに私を見てひそひそ話をしている。
聞こえてるからね?
全部。
私は聞こえないふりをしながら掲示板へ視線を向けた。
すると一枚の依頼書が目に入る。
内容はこうだ。
【中級依頼】
街道を荒らす盗賊団の討伐
報酬:古代金貨一枚
条件:五名以上のパーティー
頭目は生け捕り
財宝はギルド分配後、国庫へ上納
私はにやりと笑った。
「へぇ……悪くないじゃない」
盗賊退治。
お宝あり。
報酬あり。
しかも頭目は生け捕り。
簡単そうだし、ちょうどいい。
私は依頼書を引き抜いて受付へ向かった。
カウンターに到着すると、受付の青年が営業スマイルを浮かべる。
「中央王都セオリス冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「盗賊退治」
私は依頼書をひらひらさせた。
「これ受けるわ」
「かしこまりました」
受付が依頼書を確認する。
そして数秒後。
申し訳なさそうな顔になった。
「あの……こちらは中級依頼になりますので、五名以上のパーティーが必須となっております」
はいはい。
予想通り。
私はため息をついた。
そして胸元から鎖を引っ張り出す。
そこにぶら下がっていたのは――特級Sランク冒険者バッジ。
受付の前でぷらぷら揺らした。
「特級でもダメ?」
「え?」
「規定くらい読んでるわよ。特級冒険者は指定依頼以外、単独受注可能でしょ?」
私は片目を閉じて微笑む。
受付の顔色が変わった。
バッジを見る。
私を見る。
またバッジを見る。
そして――「ヒドラ斬りのエミリウス!?」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
何その恥ずかしい名前!?
初めて聞いたんだけど!?
すると近くで酒を飲んでいた冒険者が笑う。
「おいおい、本人が知らねぇのか?」
「今や有名人だぜ?」
「王立アカデミーでヒドラを瞬殺した女魔剣士!」
「その名も『ヒドラ斬りのエミリウス』だ!」
「ギルド中で噂になってるぞ!」
やめて。
本当にやめて。
私は片手で顔を覆った。
耳が熱い。
たぶん真っ赤だ。
恥ずかしい。
穴があったら入りたい位恥ずかしい。
「誰よそんな二つ名付けたの……」
小声で呟く。
今すぐ消したい。
というか埋まりたい。
穴ない?
ないか。
そうですか。
受付は慌てて背筋を伸ばした。
「し、失礼いたしました! エミリウス・レイヴェル様! ただちに受注手続きを行います!」
敬語まで強くなってる。
やめて。
普通に接して。
お願いだから。
私は観念して契約書へサインした。
指先を軽く傷付け、一滴の血を落とす。
血は魔法文字へ染み込み、契約が成立した。
「これで受注完了です。期限は一週間以内となります」
「了解」
私は書類を受け取る。
そして踵を返した。
その瞬間――
「頑張れよ! ヒドラ斬り!」
「盗賊なんか一瞬だろ!」
「伝説見せてくれー!」
ギルド中から声援が飛んだ。
私は振り返らない。
振り返ったら負けだ。
でも耳まで真っ赤になっている自覚はあった。
(もう最悪……)
本当は静かに依頼を受けて、静かに稼ぎたかっただけなのに。
なのに気付けば、ヒドラ斬り。
王都の英雄候補。
期待の新人。
そんな変な肩書きばかり増えていく。
私は深いため息を吐いた。
「……とりあえず盗賊どもから金目の物を回収して、全部忘れよう」
そう決意した私はまだ知らなかった。
この依頼が――
私の平穏な冒険者生活を、盛大にぶち壊すことになるなんて。
――その夜。
盗賊を見つけるのは、思っていたより簡単だった。
まずは酒場。
こういう連中は不思議なもので、闇に生きるくせに酒が入ると口が軽くなる。
だから私は適当に護衛連中から話を聞き、それっぽい男を見つけて尾行する。
気付かれないように。
撒かれないように。
そして殺気を出さないように。
これが基本だ。
男が森へ入ったら次は痕跡探し。
獣の足跡があるのに寝床も糞もない。
そういう場所は大抵当たり。
動物は安心できる場所で食事をして、安心できる場所で寝る。
それがないなら――そこは人間の縄張りだ。
そして三人目。
ようやく大当たりを引いた。
森の奥にある廃村。
盗賊どもはそこで大宴会を開いていた。
「明日は商隊を襲うぞー!」
「お宝がっぽりだー!」
……うん。
頭悪そう。
思わずそう感想が漏れそうになるくらい頭悪そう。
見張りは酔いつぶれてるし、頭目は大声で作戦を叫んでるし。
これでよく今まで捕まらなかったわね。
私は木陰から人数を数える。
二十人前後。
武装は剣と斧が中心。
弓持ちが三人。
頭目は大剣。
よし。
私は短剣を抜き、木の根元に動物の爪痕を模した目印を刻んだ。
その時だった。
「へー。今すぐ踏み込むんじゃないんだね」
耳元で声がした。
「――っ!?」
危うく叫ぶところだった。
反射的に短剣の鞘を口に突っ込み、悲鳴を飲み込む。
心臓が跳ねる。
振り向く。
「アジノ……っ!?」
いた。
いたじゃないのよ。
なんでいるのよ。
『こいつ今どこから湧いた!?』
気配がまるでなかった。
盗賊どころか私ですら気付かなかった。
何なの?
絵師なの?
暗殺者なの?
「やぁ」
爽やかに手を振るな。
「やぁじゃないわよ!!」
私は即座にマントを掴んだ。
そして引っ張る。
容赦なく引っ張る。
「ちょっ、首っ!」
「黙って歩け!」
そのまま森の外まで強制連行。
十分離れたところでようやく解放した。
「で?」
腕を組む。
左手で右腕をトントン叩く。
完全に説教モードである。
「王室御用達の宮廷絵師様が、なんで盗賊のアジトの真横にいたのか説明してくれる?」
アジノは悪びれもせず笑った。
「いやー、面白そうな依頼だったから」
嫌な予感しかしない。
「続けて?」
「君が依頼を受けてるのを見て」
「うん」
「ちょっと後を――」
「尾行したのね」
「見守ってただけだよ」
同じである。
「今日一日?」
「うん」
「尾行じゃない」
「尾行よ」
即答した。
「というか!」
怒りが頂点に達した。
私はアジノの襟首を掴み、そのまま街道脇の茂みに引きずり込む。
「アンタねぇ!? あそこで見つかったらどうするつもりだったのよ!」
「痛い痛い痛い! 首が伸びる! 芸術家は繊細なんだよ!」
「知るか!」
ぐわんぐわんと揺さぶる。
こいつ、本当に貴族か?
王室御用達の宮廷絵師らしいけど、危機管理能力だけは野良犬以下なんじゃないかと思う。
「お願いだから静かにしておくれよ。まだ人目がある時間だろ?」
「原因を作ったのは誰よ!」
思わず怒鳴り返しかけて、私は口を押さえた。
……確かにその通りだった。
今ここで騒げば、盗賊どころか街の巡回兵まで飛んでくる。
「君といると創作意欲が湧くんだよ」
「知らないわよ」
「だから明日の討伐、見学させてくれない?」
「断る」
「即答!?」
むしろ何で許可が出ると思った。
私は呆れてため息を吐く。
けれど、ふと思い出した。
この男、変人ではあるが実力は本物だ。
王立アカデミーの資格試験でも妙な魔法を使っていた。
確か――。
「そういえばアンタの魔法……色彩魔法じゃ――」
「これで手を打とう」
話を最後まで聞け。
私が口を開いた瞬間、アジノは一枚の紙を差し出してきた。
広げてみて、思わず黙る。
「……は?」
盗賊のアジトの見取り図だった。
しかも異常な精度で。
見張りの配置。
建物の構造。
人数。
焚き火の位置まで描かれている。
いや待って。
「アンタ……いつ描いたの?」
「今日」
「今日!?」
「現地取材は創作の基本だからね」
「創作のために盗賊の巣を調査するな!」
何なのよ、この人。
いや、本当に何なのよ。
私は頭を抱えた。
結局、宿へ戻ることになった。
テーブルに見取り図を広げながら、私は感心半分、呆れ半分で呟く。
「よくここまで調べたわね……」
「褒めてもいいんだよ?」
「調子に乗るから嫌」
「もう乗ってる」
「じゃあ褒めない」
私は銀貨十枚を取り出して差し出した。
「情報料」
「安い!」
即座に返された。
「安くないわよ!?」
「僕のスケッチ一枚の値段を知ってるかい?」
「知らない」
「古代金貨一枚」
「はぁ!?」
思わず椅子から立ち上がった。
古代金貨一枚。
銀貨百枚分。
下手な冒険者の一か月分の稼ぎだ。
「紙切れ一枚で!?」
「芸術作品と言ってほしいな」
「盗賊のアジトの見取り図が芸術作品でたまるか!」
「いや、構図がね?」
「知らないわよ!」
私のツッコミが追いつかない。
そこでふと気になった。
アジノが羽織っている深紅のマントだ。
「そういえば、そのマントって何なの?」
聞いた瞬間。
アジノの動きが止まった。
「……え?」
「え?」
「知らないの?」
「知らない」
「本当に?」
「本当に」
アジノは額を押さえた。
まるで頭痛に襲われた患者みたいな顔をしている。
「君さ……王都に来たことある?」
「あるわよ」
「社会勉強したことは?」
「ケンカならある」
「そういう話じゃない」
失礼ね。
私は常識人よ。
たぶん。
きっと。
おそらく。
少なくともこいつよりは。
それから三十分。
アジノのマント講座が始まった。
赤がどうだの。
青がどうだの。
王立アカデミーがどうだの。
王家がどうだの。
延々と。
本当に延々と。
「――つまりだ!」
アジノが机を叩いた。
「君が王立アカデミーの外部契約魔法剣士になれば、もっと大規模な遺跡調査や国家規模の依頼を受けられるんだ!」
「ふーん」
「反応が薄い!」
「だって明日の盗賊討伐の方が大事だし」
「夢がないなぁ!」
夢より報酬である。
私は衝立の向こうへ移動した。
鎧を脱ぎながら言う。
「はい、話終わり」
「まだ終わってないよ!?」
「私は終わったの」
マントを掛ける。
ブーツを脱ぐ。
明日の準備をする。
うん、忙しい。
「というわけで、そろそろ帰って」
「理不尽!」
「あと明日の討伐、見学禁止」
「えぇぇぇ!?」
私はブーツを投げた。
綺麗な放物線を描いて飛ぶ。
「危なっ!?」
「避けられるなら大丈夫ね」
「そういう問題じゃない!」
「はいはい、お帰りはこちら」
扉を指差す。
アジノは肩を落とした。
「僕は君の活躍を記録したいだけなのに……」
「だったら結果だけ聞けばいいでしょ」
「現場に芸術があるんだよ!」
「盗賊討伐に芸術を求めるな!」
こうして私は、泣きそうな顔の宮廷絵師を部屋から追い出したのだった。
……明日も絶対面倒なことになる気がする。




