加奈の機転で何とか敵を押し戻した…俺達の方も損害が出た…そして…真鈴が…。
すっかり数を減らした逃げる敵。
最後尾を走っていた悪鬼顔の奴が振り向きざま狩猟用のライフルを撃ち返してきた。
ライフル弾が俺の頭のすぐ横をかすめて飛び、俺達が撃ち返した弾を浴びライフルをとり落とした奴はリリーのエレファントガンで上半身を粉砕されて死んだ。
止めを刺すまでもない。
「止まれ!
ここで止まれ!
周囲を警戒!
損害を確認しろ!
戦死者と負傷者の後送を急げ!
各自弾の補充をせよ!
各班長は損害を調べ再編成をしろ!」
リリーが叫んで俺達はその場に止まった。
俺はインカムで呼びかけた。
「ワイバーン、損害は!
皆大丈夫か!」
インカムからジンコの震える声が聞こえて来た。
「彩斗…真鈴が…。」
後ろを見ると真鈴が壁にもたれて足を投げ出して座り込んでいて頭を垂れている。
ジンコが真鈴の前にかがみ込み、真鈴の名を呼びながら胸ぐらを掴み体を揺さぶっていた。
真鈴のヘルメットが大きく欠けていてそこから真鈴の黒髪がはみ出て肩に垂れていた。
「真鈴!」
俺は真鈴に駆け寄った。
壁から血まみれで出て来た四郎と明石も、喜朗おじも、加奈も真鈴に駆け寄った。
「あああ!真鈴!
しっかりして!
目を開けてよぉ!」
負傷者の面倒を見る支援班の中年男が走って来て真鈴の胸ぐらを掴んで叫ぶジンコを押し退け、真鈴のヘルメットをそっと外した。
真鈴のバラクラバも大きく裂けていて顔に血が付いていた。
真鈴の目は閉じ、力なく頭を垂れたままだった。
俺は真鈴に近寄り立ち尽くした。
ジンコは両手で顔を覆い泣いている。
加奈が立ち尽くし口を押え目を見開いて体を震わせて真鈴を見つめていた。
真鈴、俺が吸血鬼の生贄の処女の乙女にしようとしていた真鈴、
大学で法律を学んでいた真鈴、
なにげにファッションセンスが光る真鈴、
正義感が強く罪無き人達を質の悪い悪鬼達から救うために戦おうと言い出した真鈴、
俺の気弱さを真剣に怒ってくれた真鈴、
足が臭い疑惑を押し付けてしまった真鈴、
実は歴史ある侠客団体の6代目の真鈴、
事あるごとに俺を弄って大笑いしていた真鈴、
ボルボが納車されて子供のようにはしゃいだ真鈴、
ユキと付き合うまでは少しだけ、少しだけ気になっていた真鈴、
いつの間にか親友だと思うようになった真鈴…俺は…俺は…。
支援班の男が真鈴のバラクラバを脱がし、顔を持ち上げ側頭部の傷を確かめた。
そして腰のポウチから消毒スプレーを取り出して真鈴の傷に吹きかけてガーゼを当てた。
「大丈夫、でかい弾がかすっただけだ。
ショックで失神しているだけだぞ。
ちょっと顔に傷が残るかも知れんが、なに、髪の毛で上手く隠れるだろう。
俺なら彼女に傷があっても口説くよ。」
男は気付のアンモニアの容器を開けて真鈴の鼻の前で振った。
力なく頭を垂れていた真鈴の目が開き、顔を上げ、膝の上のサブマシンガンを構えた。
支援班の男がやさしくサブマシンガンの銃口を横にどけた。
「気が付いたな。」
「私…まだ戦えるわ!戦えるわよ!」
「そう、その意気だ。
君は充分戦えるよ。」
真鈴が叫ぶと支援班の男は真鈴の頭に包帯を巻きながら笑顔で言った。
「あああ!真鈴!良かった!」
再びジンコが泣き崩れ、俺達もほっと胸を撫で下ろした。
ワイバーンはまだ戦死者を出していない。
「肝が冷えたぞ。」
「やれやれ良かった。」
「真鈴良かったよ!」
「心配したよ真鈴。」
「顔の血を拭いてやれ。
美人さんが台無しだぞ。」
「良かったじゃの!
真鈴が死霊の仲間入りする所だったじゃの!」
俺はヘルメットを脱いで真鈴の膝に置いた。
「真鈴、これを被ってよ。
咲田組6代目を死なせちゃ俺の命が危ないからね。」
ジンコと加奈に顔の血を拭きとられながら真鈴が俺を見上げた。
「ありがとう、使わせてもらうわよ。
かか様はとても怖いからね、ケツ花火彩斗。」
そう言って真鈴が微笑んだ。
こんな時に変な事言いやがってと思いながらほっとした俺の目から涙が零れた。
四郎と明石を見ると物凄い返り血を浴びていた。
「四郎、景行、蜘蛛の化け物を始末したんだ。」
四郎と明石はバラクラバに付いた血を拭いながら苦い顔をした。
「うむ、厄介な奴だったがなんとか始末したぞ。」
「どうやら『若い奴』らしくてな、灰にならずにあのでかい臭い図体は通路横のトンネルに詰まったままだ。」
弾薬のバッグを抱えた支援班員がやって来て俺達の銃の弾薬を配った。
かなり撃ちまくったので残りの予備マガジンは1つだけになっていた。
予備マガジンと同時にもらったバラの弾を今のマシンガンのマガジンに補充して残りの弾をポケットに突っ込んだ。
通路には多数のアレクニドが倒れていた。
人間が半数近くいたし、死んだ悪鬼も灰になる奴はほとんどいなく、腐乱して悪臭を放っていた。
そして、俺達側の戦死者や負傷者も…。
「生きてる!
こいつは生きてるぞ!」
声が聞こえた方を見ると怪我を負ったアレクニドのメンバーが頭を上げようとしている所をスコルピオの戦闘メンバーがマシンガンの台尻で頭を殴りつけ、マチェットを握りしめている手を踏みつけ、マチェットを奪った。
「拘束しろ!
そいつは人間だな、出口に連れて行け!」
リリーの声が聞こえた。
アレクニドの男は後ろ手に拘束具をはめられて突入口に引き立てられていった。
リリーがやって来て真鈴を心配そうに見た。
「真鈴大丈夫?
めまいとかしていない?」
「リリー大丈夫、全然戦えるわよ。
わがままとか言わないでね。」
「ふふっそうね、じゃあ、まだ暴れてもらうかな?」
リリーが笑顔で答え、俺を見た。
「彩斗、ワイバーンは全員大丈夫そうね。」
「うん、運が良かったよ。
リリー、スコルピオの方は?」
リリーの眉が曇った。
「うん…戦闘メンバーが5名、支援班員が2名、処理班が1名戦死したわ。
あと、後送しなきゃならない負傷者が戦闘メンバーで1名、支援班が2名、処理班で2名ね…それと…あほ兄弟の小次郎とナナツ―…。」
「え…。」
「小次郎もナナツ―もいざと言う時は別物志願だったのよ。
ナナツ―は別物になる処置をしてまだ寝ているわ…小次郎は…頭部を粉砕されて即死…とても間に合わなかった。」
リリーの言葉を聞いた俺達は黙ってしまった。
あの陽気なあほ兄弟の片割れは死んでしまった。
ナナツ―は悪鬼として生まれ変わる。
「…リリー…とても残念だよ…。」
「彩斗、ありがとう。
他にカスカベルでも7人くらいが戦死したようだわ。
ノリッピーの方は幸い無傷だったらしいけどね。
…でも今は泣いている暇は無いのよ。
こちらで今敵の人間メンバーを捕虜にしたわ、そしてノリッピーの方でも別物、悪鬼メンバーを2匹捕虜にしたわ。」
「…」
そして、この損害、いや戦死者の数。
俺達は1割の戦力を失った。
これは戦争なんだと、俺達は戦争をしていて、しかもまだまだ前哨戦だと俺は思い知らされた。
「でも、喜朗おじの…なんだっけネオ…ヲタ地雷のおかげでかなり助かったとノリッピーが言っていたわよ。
向こうの方もここくらいの敵が湧いて来て戦闘できるメンバーはノリッピーを入れても6人だったからね。」
ヲタ地雷を使ったとしてもノリッピーの指揮班6人で俺達を襲ったほどの大軍を蹴散らして捕虜をとって損害無しとは恐れ入った。
あのブリーフィングの時の軽い調子のノリッピーだが、だてにスコルピオの指揮官じゃないと思った。
「あと、加奈!
お手柄よ!
私も操る奴を探したけど見つからなかった。
おかげで挟み撃ちになるのを免れたわ!」
「そんなぁ…私は、はなちゃんに頼んだだけですぅ。」
加奈が顔を赤くして答えた。
「そうね、はなちゃんもお手柄よ!
ありがとう!」
「なんのじゃの!」
「さて、それで壁横のトンネルだけど、あまり長く掘られていなかったわ。
何人か送り込んで探ったけどすぐに行き止まりどまりだった。
恐らくあの思念攻撃の前にすでに掘られたトンネルに奴らが潜んで何かの粘液で蓋をした様ね。
私達を待ち受けるために短いトンネルを掘ってそこに伏兵を隠していたと言う事よ。
弾の補充と再編成が済んだら奥に進むわよ。
今の攻撃で、敵は合計で200位湧いて来て私達はその8割がたを始末したけど、あとどのくらい敵がいるのか判らないのよ。
損害を補充できない状態だけど前に進むしか無いわね。
そしてドローンが壊されたわ。
幸いこの通路を進むドローンが広い場所を探し当てたのよ。
その瞬間に壊されたけど、そこまでの地図は出来たからこの通路を進むわ。
広い所に出たらそこからまた勝負って感じ…あと、気になるんだけどね…。」
リリーが言葉を切った。
「リリー、何が気になるの?」
「う~ん、どうも襲ってきた奴らはほとんどすべてが『若い奴』なのよ。
あの蜘蛛の化け物でも灰にならなかった。
カスカベル襲撃の時は死んで灰になる何体かの手強い『歳古りた奴』がいたんだけどね。
『若い奴ら』って2軍みたいな物なのに、アレクニドはどう考えているか判らないのよ。
地下奥に強い奴らを温存しているか…あるいはカウンター攻撃を狙ってここにはもう居ないのか…まぁ、でも私達の拠点は感づかれていないからね。
とにかく要注意よ。
ワイバーンは2班の後から付いて来て。」
リリーは先頭で警戒しているメンバーの所に行った。
「よし!用意はいいか!進むぞ!
第2班が先頭!
クラは私の横に来い!壁に注意!あと、床や天井にも注意するように!
進め!」
続く




