喜朗おじはいつの間にかヲタ地雷をネオアームストロングヲタ地雷と改名していた…それはともかく、俺達は地下に突入した。
「皆大丈夫?
いけそう?」
リリーが俺たちの所にやって来た。
「ああ、リリー、四郎の顔の痣が出来た事とはなちゃんのおでこにひびが少し入った程度だよ。
俺達は全員行けるよ。」
「そう、良かった。
四郎の痣はどうしたの?」
「うむ、加奈が撃ったアゼネトレシュがわれの顔の横10センチ位の所を通り過ぎてな、痣が出来たが薄くなりつつあるぞ。」
「あら、うんこ漏らしマイケルが元のハンサムに戻って嬉しいわ。」
リリーがニヤリとした。
「うむ、盗み食いリリー、おかげさまでな。
あのリリーママが作ったケーキを食べてしまおうと言ったのはリリーだからな。」
「あらそうだったっけ?」
リリーと四郎が見つめ合い、やがて笑顔を交わした。
やはり全員にそれぞれのイメージが流れ込んでいたのだろう。
俺の悲惨な過去も全員に知られてしまった。
残り3つと2分の1のより悲惨な過去は死守せねば。
あれを知られたら今度は同情どころか嘲りの笑いの対象になるだろう。
「リリー、誰か死んだって…。」
ジンコが尋ねるとリリーは俯いて顔をしかめた。
「ええ、処理班の若い男の子が頭を撃ちぬいたわ。
彼は別物、悪鬼だったのだけれどショットガンを咥えて頭を吹き飛ばして再生が出来なかったわ。
今、遺体を回収している暇がないから遺体袋に入れて運ぶことにしたわ。
ヘリポートが出来たらすぐに運ぶわ。」
リリーの言葉に俺達は俯いて黙ってしまった。
それぞれ自身の死を考えてしまってお悔やみの言葉を掛ける余裕さえ無くしてしまった。
「はなちゃん、ありがとう。
もう少し攻撃を受け続けていたらもっと戦死者が出たかもしれない。」
「いや、わらわがもう少し早く…」
「ううん、しょうがない事よ。
もしも次に来たら宜しくね。」
「判ったじゃの。」
「もう少ししたら出発よ…みんな生き残るのよ!」
リリーはそう言い残すとノリッピーたち指揮班の方へ歩いて行った。
「そうだね、俺達は全員生き残るよ。」
俺はゆっくりと言って皆の顔を見回した。
皆が無言で俺の顔を見つめて頷いた。
樹海をうろついている死霊の姿がめっきりと減っていた。
あの思念に驚いて動けるものは逃げていったのだろう。
死霊の一人が俺に近づいてきて肩を叩いた。
うつろな青い顔が俺を見つめ、あんな酷い目に…気を落とさないでね…そう言ってフラフラと歩いて行った。
明石達悪鬼が苦笑いを浮かべた。
「彩斗は死霊に慰められたか。」
「うむ、やはり死霊はお友達だな。」
「彩斗、金玉は本当に燃えてしまったのか?
この前皆で風呂に入った時はちゃんとついていたような気が…。」
俺は明石達の言葉を黙殺してたばこを消して携帯灰皿に突っ込んだ。
「さてと、もう一度各自装備を確認。
出発準備をするように。」
やがて俺達は出発した。
第10騎兵ヴァナルガンドと第15騎兵スキュラは別の出入り口の監視に向かうためにここで別行動となった。
突入口の洞窟に辿り着くまでに更に4体の自殺した遺体を見つけ、GPS付きのカードを服につけて進んだ。
やがて洞窟の入り口に到着して見張りをしていた戦闘メンバーと合流した。
配置に着いてから敵の出入りは無いと報告された。
支援班が護衛付きで洞窟奥まで進みドアを爆破する準備を始めた。
リリーが待機する俺達の所にやって来た。
「ねえ、あの…ヲタ地雷だっけ?
彩斗達は何個持って来てる?」
「4個だよ。」
「あれの爆破コードはどれくらいの長さなの?」
リリーの質問に喜朗おじが答えた。
「うん、ヲタ地雷、正式にはネオアームストロングヲタ地雷と言うのだが、30メートルのケーブルをつけてあるぞ。」
「それは良かった。
その…ネオ…」
「ネオアームストロングヲタ地雷。」
「そうそう、それを用心のために突入口に向けて一個設置したいんだけど。
ドアを爆破した途端に敵がわらわら飛び出て来た時の為にね。
あれなら奴らを一掃出来るでしょ?」
「そういう事か。
判ったぞ。」
「ドアを吹き飛ばす爆薬は指向性だからネオ…アーム…。」
「ネオアームストロングヲタ地雷。」
「そうそうそれに影響は出ないと思うのよ。
良いかしら?
本当はドアを爆破した瞬間に奴らに飛び出て欲しいんだけどね。
そうなればこの…地雷でかなり敵を減らせるんだけどね。」
「うん、そうだなリリー。
仮に使う機会が無ければまた回収して使えるから損は無いだろうな。」
リリーとヲタ地雷を持った喜朗おじは洞窟に入って行った。俺達の背後では別の支援班がチェーンソーなどを取り出し、ノリッピーの指揮で急造のヘリポートを作る準備を始めていた。
その傍らに戦死したメンバーが入っている遺体袋が寝かされていた。
「こちらカスカベル、突入口に到着した。
突入準備に入る。」
「スコルピオ、コピー。
爆破は同時に行います。」
「カスカベル、コピー。
準備が済んだら連絡する。」
インカムからスコルピオや同盟チームから次々と連絡が入っている。
ヴァナルガンドやスキュラも別の出入り口に配置が完了している。
やがて洞窟からリリー達が出て来た。
洞窟の入り口には偵察用の小型ドローンが数機待機していて、その横でタブレットを持った支援班がいた。
爆破して敵が飛び出してこない場合、センサーと小型カメラを積んだドローンを飛ばして偵察して敵や罠の有無を確かめながら奥に進み、リアルタイムに地下地図を作成してゆくとの事だ。
果たして敵に壊されずにどこまで進めるか判らないが、地下の全容が掴めない俺達には必要な物だった。
「皆、ドアを爆破するよ!
用心のためガスマスク装着!
ドローンのセンサーで危険が無い事を確認するまで外さないように!」
俺達はヘルメットを外してガスマスクを装着してまたヘルメットを被るとお互い装着に不備が無いか調べた。
もしも地下で戦闘中にガス警報が出たらと思うと恐ろしかった。
戦闘中にこんな悠長な事をしている暇はないので一時安全な所まで後退するしかないのだ。
リリー達は喜朗が設置したヲタ地雷の横に据え付けたカメラ画像を覗き込んだ。
「いい!爆破するよ!
爆破して安全を確認したら突入する!
全員、簡単に死ぬな!仲間を見捨てるな!敵を撃滅しろ!
5!
4!」
秒読みが始まり、俺達はサブマシンガンやエレファントガンやバトルライフルを構えて伏せ、洞窟に注目した。
「3!
2!
1!」
こもった爆発音が聞こえ、洞窟から煙が吐き出された。
待機しているドローンが浮上して洞窟の奥に向かって行く。
ヲタ地雷横に据えたカメラ画像には敵は映っていなかった。
人気が無い通路が奥に広がっていた。
「敵発見せず!
毒物関知せず!」
ドローンモニタを見ている支援班員が叫んだ。
ドローンはさらに奥に進んでゆき、タブレットの画面に地下の地図が作成されてゆく。
「皆ガスマスクを外せ!
第1班を先頭に警戒態勢で入るぞ!」
リリーの声が聞こえ、俺達はガスマスクを外しフォーメーションを組んで洞窟に入って行く。
カスカベルの方でも同時に爆破して突入すると報告が入った。
ヲタ地雷の出番が無くて少しほっとした。
俺たちの背後でチェーンソーの音が響き渡りヘリポートの為の伐採が始まった。
喜朗おじがヲタ地雷を回収してポウチに入れた。
喜朗おじが2つ持ち、俺の背中のリュックにも、はなちゃんとともに2つのヲタ地雷が収まっている。
バトルライフルを構える2人の戦闘メンバーのすぐ後ろにリリーと加奈、エレファントガンを構える2人とクラ、そして俺達がサブマシンガンを構えて進んだ。
すぐ後ろではタブレットを覗きながら支援班員と他の戦闘メンバーが続いている。
先を進むドローンがリアルタイムに地下地図の線を伸ばしていた。
クラが少し入った所の床を指差した。
そこだけ床の木材が新しくなっていた。
クラの潜入映像でクラが脱出するのを助けて蜘蛛の化け物の酸で溶かされたカスカベルメンバーの男がいた場所だろう。
その先には適当に洗ったらしい夥しい血の跡があった。
手榴弾で突破口を作り、しかし悪鬼達に掴まり生きたままずたずたに引き裂かれたカスカベル女性メンバーの跡だろう。
俺達は血の跡を踏まないように銃を構えて上下左右を警戒しながら先に進んだ。
「はなちゃん、アレクニドはどう?
奴らはいる?」
リリーが前方を警戒しながら小声ではなちゃんに尋ねた。
「いや、鳴りを潜めているじゃの。
今のところ気配は感じないじゃの。」
だが、奴らはどこかでじっと身を潜めながら襲撃の機会を狙っているだろう。
俺達は警戒しながら進んだ。
奴らの巣は不気味に静まり返っていた。
続く




