俺達は樹海に潜入する…はぁ、死霊なんて見えなきゃ良いのに…突如リリーのお母さんが出現して驚く俺…それどころか…。
「え?
リリー、見えるから気を付けてって…雑音に気を付けてって…。」
俺が問い返すとリリーがますますににやにやした。
「四郎や明石から聞いた方が良いかも、ああ、ナナツ―も見える人間だし、偵察で樹海に入ったから聞けばわかるわよ。」
リリーがそう言い残して運転手の方へ行った。
リリーの後ろ姿を見送りながら真鈴が青い顔をしている。
「彩斗…リリーの言う事判るでしょ?
私達、これから夜の樹海に入るんだよ。」
真鈴がそこまで言って目をぎゅっと閉じた。
加奈の隣に座っていたナナツ―が笑顔で話し出した。
「彩斗リーダー、死霊が見えるんでしょ?
私、この前樹海の奴らの出入り口まで行ったよ。
もう判ってる出入り口全てに監視で2人の戦闘メンバーが張り付いているんだけどね。
侵入口までの道の確認で私も行ったんですよ。
そしたら樹海って…。」
そこまで行ってナナツ―の顔がオエッと吐き気を催すような表情になった。
「ナナツ―、もったいぶらずに加奈にも判るように行ってよ。」
「加奈、見えない人にはなんとなくしか判らないと思うけどね。
あそこ、樹海は奥に行けば行くほどね居るんだよね…。」
「ナナツ―、それってやっぱり…。」
ジンコが問い、ぶるっと身を震わせ、真鈴が小声でエロイムエッサイムと呟いている。
だからそれは悪魔を召喚する呪文なんだってば。
ナナツ―が続けて説明をした。
「そう、自殺した者達が今も沢山いるんだよね。
死霊なんてさ、死んだ後は好きな姿になれるはずなのにね…何を好き好んでか判らないけど、あそこは死んだすぐ後とか、中には自分の体が腐敗してゆくのに合わせた姿をする奴もいたんだよね。
初めて見た時は私はアレクニドの奴らが死体を操って攻撃してくると勘違いして撃ちそうになっちゃったよ。
落ち着いて見ればすぐ生きてる人間と区別はつくからあんまり心配する事は無いよ。」
ナナツーがそこまで言って笑顔になったが俺はかえって心配になった。
「ただね、中にはすぐ近くにまとわりついて自分の不幸や恨みつらみを耳元で嘆く奴がいて、ウザいからね~。
リリー姉が言った雑音ってそう言う意味でもあるかな~。」
…これからとんでもない激戦をしに行くかも知れないのに、気味の悪い死霊がうようようろついていて、運が悪ければ腐乱死体の姿の奴がまとわりついて耳元で恨みつらみを囁くのか…。
「ひぃいいいい!
やだ怖いよ!」
真鈴がぎゅっと目をつぶって地団太踏んでいるが、何を言ってるんだ、俺は真鈴と違って見えるし聞こえるんだぞ!と言いたくなった。
ジンコと加奈がまあまあ、私達には見えないし聞こえないからさ、と真鈴を慰めている。
誰か、見えるし聞こえる俺を慰めてくれよ!
四郎、明石、喜朗おじがにやにやして俺を見ていた。
横に置いたリュックからはなちゃんが俺を見上げた。
「彩斗、死霊はアレクニドと違ってお前を取って食うなどせんから大丈夫じゃの!
大金払ったリアルなお化け屋敷と楽しめば良いじゃの!」
「はなちゃん、気楽な事を…。」
四郎が煙草を俺に差し出した。
「うむ、彩斗、あまり気にするな。
死霊は味方と、われが言ったではないか、迷子になった時に道を教えてくれるかも知れんぞ。
樹海に入れば禁煙になるかもしれないからまぁ、吸え。」
俺は四郎が差し出した煙草をくわえ、四郎が火を点けてくれた。
窓を開けると少し涼しくなったが依然として湿気がある外の空気にタバコの煙が流れていった。
俺達は煙草を吸ったりガムを噛んだり、ナッツバーを齧りながら椅子に座り、バスが出発地点に到着するのを待った。
バスは街灯以外全く電灯がついていない家が並び、人気が途絶えた住宅街を抜けて樹海に近づいていた。
樹海の侵入口。
機動隊がずらりと並んでいる場所でバスは止まった。
俺達がバスを降りると機動隊の連中が物珍しそうに俺達を見た。
俺も彼らの装備に目が行った。
いつものヘルメットいつもの防護服いつものジェラルミンの盾いつもの警棒、みんな拳銃は身につけているし、中にはライフルを持っている者もいるが…もしも少数のアレクニドが現れても簡単に蹴散らされそうだ。
恐らく短時間で皆殺しにされるかも知れない。
彼らは悪鬼との戦いなんかまったく経験が無い。
やはり彼らは俺達が守らなければならないだろう。
「皆いいかい?
バトルライフルを持つ者、そしてエレファントガンを持つ私と加奈を核にいくつかのフォーメーションを組んで進むよ。
今の所、見張りから出入り口に動きは無いとの報告が入っている。
左右に1班ずつウィングが固め、私達本隊のすぐ後ろにノリッピーの指揮班と支援班、処理班が続くよ。
支援班は重い装備を持っているし樹海の中では歩き辛い、警戒しながらゆっくり進むよ。
私達に大きな幸運を。」
俺達は機動隊が見守る中、ヘルメットの暗視装置を下げて暗い樹海に入って行った。
先頭中央を歩くリリーの横にナナツ―と加奈が付いている。
時々インカムからやはり樹海に侵入したカスカベルからの連絡などが聞こえる。
インカムに関しては事前に連絡系統が決められていて、ワイバーンリーダーの俺にはリリー達上層部の会話が流れて全体の状況が判った。
エレファントガンを構えて進むリリーが言った。
「彩斗、はなちゃんに前方の索敵をお願いして。」
「うん、はなちゃん頼むよ。
「任せとけじゃの!」
「頼んだわよはなちゃん。」
俺はバスの中で死霊の話を聞いて少し怖かった。
アレクニドの迎撃に出くわすよりもそっちの方が気になったかも知れない。
幸い暗視装置越しに死霊は見えなかった。
少し安心しながら俺達は凸凹してところどころ岩が露出している樹海を進んだ。
最先頭を歩くスカウトマンの戦闘メンバーが左の拳を上げて止まった。
俺達も止まって身を屈めて周囲を警戒した。
「あ~死体、いや遺体を発見。
目立つ外傷無し、自殺者と思われます。」
スカウトマンの声がインカムから聞こえて来た。
支援班の人間がスカウトマンがいる所に行き、木の根元にあるであろう人の死体にかがみ込み、死んでいる事を確認した後で腰の袋から何かカードのようなものを出して死体の服につけたようだ。
「残念だけど回収している暇はないからね。
GPS付きのカードを付けて後で回収する事になってるよ。
前進。」
インカムからリリーの声が聞こえた。
俺達はまた周囲を警戒しながら進んだ。
俺達が突入する出入り口まで直線で3キロほどだが、この調子だとかなりの時間が掛かるだろう。
そして、死体でなく生存者を見つけた場合誰かをつけて、場合によっては担架で運んで戻る事になり人員が減る事になる。
やれやれと思いながらマシンガンを構えて注意深く進んでいる俺の耳元で何かしわがれた声が囁いている。
なんだ?と思って横を見ても暗視装置越しの視界では何もいない。
俺は暗視装置をヘルメットに跳ね上げた。
目の前に腐乱した死体の顔があった。
俺の顔の数センチ前に腐乱した顔があり、俺の顔を覗き込んで何やら呟いていた。
「うわっ!」
思わず声を上げて俺は顔を横にそむけた。
暗視装置を外した樹海、微かな月明かりが照らす樹海はあちこちうろつく様々な姿の、しかし一様に精気の無い気味わるい姿の死霊がうろついていた。
俺の顔から血の気が引いた。
ぱたんと暗視装置が降りて再び普通の視界に戻った。
すぐ横にナナツ―がいた。
彼女が跳ね上がった暗視装置を降ろしたのだ。
「彩斗リーダー、生の目だと見えますよ。」
インカムからくすくすと笑い声が聞こえた。
「彩斗、雑音に気を付けな~。」
リリーの苦笑交じりの声が聞こえた。
「リリー、コピー。」
俺は答えて深呼吸して再び周囲を警戒しながら前進を始めた。
多少涼しくなったとはいえ湿気を含んだ重い空気が充満している樹海で俺の背中に冷や汗が流れた。
「彩斗、死霊は友達だからな。」
インカムから四郎ののんびりした声が聞こえた。
「うん、コピー。」
俺はまだすぐ横で何やら呟く腐乱死体を無視した。
更に進むとリリーの足が止まった。
「オーケー、全体止まれ。
ここからヴァナルガンドとスキュラは別の出入り口の監視に向かうよ。
今の所見張りからは動きは無いよう…う!」
インカムからのリリーの声が途切れた。
何かと思った時、リリーが叫び始めた。
「違うの!違うのよママ!
ケーキはマイケルが全部食べちゃったのよ!
本当なのよ!
マイケルが全部!
私は一口も!一口も!
あああ!ごめんなさい!私も一口!
ごめんなさい半分くらいは食べてしまった!
ごめんなさいごめんなさい!
お仕置きは勘弁してぇえええええ!」
急にリリーの見える世界が俺の頭の中に流れ込んで来た。
鬼のような形相のインディアンの年老いた女がすりこぎ棒を握りしめて怒りに身を震わせながらリリーを睨みつけていた。
「やめて!お仕置きは勘弁してぇ!
いや!いやぁあああ!」
リリーだけじゃなくインカムから色々なメンバーの悲鳴や釈明やお詫びの言葉が流れ込んで来た。
大混乱だ。
思わず俺はインカムを頭からずらし、暗視装置を跳ね上げた。
周り中でメンバーが頭を抱えたり両手を前に出して激しく首を振ったりして混乱に陥っていてその全ての思念というか見える光景が俺の頭の中に流れ込んで来た。
俺の背負ったリュックのはなちゃんまでもが叫んでいた。
「おのれ!根絶やしにしたはずじゃの!
まだ生きておるかぁ!
皆殺しにしてくれるじゃの~!」
樹海の先の木の陰から何かがぱちぱち光を放ちながら俺に向かって走って来た。
ズボンとパンツを降ろされて足首に巻き付いた状態でお尻の穴に花火を刺されて点火している状態の少年がお尻の花火から火花を吐き出しながら、泣き叫びながら俺の方へ駆け寄って来た。
俺は固まってその姿を見つめた。
男の子は俺のすぐ前まで来て俺に向かって泣き叫びながら飛び跳ねた。
そのおでこには『肉』とマジックで書かれていた。
男の子は涙と鼻水と涎を垂れ流しながら俺に訴えた。
「助けてよ!誰か助けてよ!
お前も彩斗なんだろう!
顔に凄い傷が有るけど!
僕と同じ!彩斗なんだろう!
助けてよ!僕を助けてよ!
花火が全然消えないんだよ!
おちんちんも金玉も燃えてしまうよ!
女の子になっちゃうよ!
もう、向かって左側の金玉に火がついてるよ!
助けてよ彩斗!
僕をここから連れ出してくれよぉおおおおおおお!」
固まって動けない俺の前で小学生の俺が彩斗が俺が彩斗が泣き叫びながら飛び跳ねていた。
視界の端でメンバー達が人間と悪鬼の区別なく、そして樹海の死霊達まで頭を抱えながら叫んでいた。
大混乱だ。
「彩斗!助けてくれよぉ!
僕を助けてくれよぉ!
ひぃいいい!
金玉は全滅しそうだよ!
ちんぽこにも火が移って来たよぉおおおお!」
続く




