奴らは人工衛星まで撃墜するのか…しかしノリッピーの演説で俺達の士気が上がった。
「うっ!なんじゃろか?」
突然はなちゃんが声を上げた。
「なに!はなちゃん!なに!
何が起きたの!」
はなちゃんの声に反応した真鈴が悲鳴を上げた。
「なに!おちるの!これおちるの?」
「大丈夫じゃの真鈴、ただ、何か思念の塊のようなものが空高く昇って行ったじゃの。」
「え?何だろうねそれ?
私達には何も感じないよ。」
「え~加奈も感じないけど。」
ジンコと加奈が言い、四郎達も首を傾げた。
「俺達にも特に…何か起きたか?」
四郎が言った途端、ヘリが急降下をしてジグザクに飛び始めた。
そして軽い衝撃が走り、胴体下部から何やらきらきら光る物と火の玉を次々に吐き出した。
「きゃあ!何これ落ちるの?
落ちるの~!エロイムエッサイムエロイムエッサイムエコエコアザラク~!」
真鈴がパニックを起こして足を踏み鳴らして呪文を唱えているが、こんな時に悪魔を召喚するような呪文が意味があるのだろうかと俺は思った。
「現在、脅威の回避の為に低空で飛行、チャフとフレアーを発射しています。
当機の飛行に支障はありません。」
パイロットから機内アナウンスが流れ俺達は胸を撫で下ろした。
大型ヘリはかなりの低空をジグザグに飛び続けた。
樹海近くの小学校と思われる場所の校庭にヘリが着陸した時は真鈴は顔が青くなり吐きそうになっていた。
俺達も少し生きた心地がしなかった。
あほ兄弟に案内されて俺達は校舎の1階教室の一つに案内された。
後で出撃前のブリーフィングを体育館で行うのでそれまで待機してくださいとあほ兄弟に言われて俺達は教室に装備を置いた。
上空から見た学校の周りは厳重に警察が固めていて民間人の姿は全く見えなかった。
ヘリから降りる時にちらりと見たら福島県警とか広島県警と書かれた警察車両が校庭の端に止まっていた。
「やれやれ、なんか日本中の警察が来てるよ。
確かに凄い騒ぎだね。」
「彩斗、テレビでもあれだけの騒ぎだと報じているからな。
警察も手が足りないのだろうし全国から応援を呼んだとしても不思議じゃないと思わせたいのだろうな。
毒ガスを所有したテロ集団か、うまいフェイクを考えた物だな。」
明石が感心しながら言った。
「しかしさっきはなちゃんが感じた思念の塊とか、ヘリコプターが急に低空飛行したのは何だろうね?
あんな火の玉撒き散らしながらさ。」
加奈が不思議そうな顔をしたが誰もそれに答えられなかった。
校舎内は戦闘服を着たスコルピオの戦闘メンバーや支援班員、処理班の人達でごった返し、中には顔見知りの人もいて俺達は挨拶しながら教室まで行った。
長い日も少しづつ傾き始め、夕方の空になりつつあった。
四郎が校庭の隅に喫煙所があり、人だかりがしているのを見つけた。
「おお、喫煙所があるぞ。
さすがに校舎の中ではタバコは遠慮していたがな。
行こうか。」
「そうね四郎、何か情報収集になるかも知れないよ。」
俺達はぞろぞろと校庭の隅の喫煙所に向かった。
準備を済ませた戦闘メンバーが多かった。
ある者はのんびりと、ある者は少しはしゃぎ気味に、ある者はむっつりとしながら煙草を吸っていた。
俺達はおしゃべりをしながら煙草を一服した。
その間に米軍の低軌道衛星のうち2つが機能不全を起こし、1つは制御不能になって大気圏に突入して燃え尽きたとの事と、カスカベルの戦闘メンバーを運んでいたヘリコプターが謎の攻撃を受けたらしくエンジンが不調になり不時着したとの事を知った。
未だ因果関係は判らないが恐らく樹海地下のあの集団の攻撃かも知れないと飛んでいるヘリコプター全機に警戒が出たとの事だった。
「なるほど、はなちゃんが言ってた思念の塊ってやっぱり…。」
はるか上空を移動する衛星にまで思念を飛ばせるのかと俺達は謎の集団が少し空恐ろしくなった。
俺達は教室に戻り、圭子さんが作ってくれたお握りを頂く事にした。
「しかし、はなちゃん、人工衛星なんて遠くの物まで影響を当たえる事なんてできるの?」
ジンコがおにぎりを頬張りながらはなちゃんに尋ねた。
「ジンコ、人工衛星とやらが何かを知っていて尚且つそれがわれらを監視していると判れば邪魔は出来るじゃろうの。
ただ、そう言う事をするにはある程度科学知識を持つ者とせめてわらわ並みに、いや、わらわ並みとはいかなくともある程度の思念の力を持つ悪鬼でさえやろうと思えばできるじゃろうの。
空は邪魔するものはないから多少距離があっても関係ないじゃの。
それより地面の近くを飛ぶヘリコプターを見つけて落とす方が難しいじゃの。」
「なるほど、奴らの集団には科学知識を持つ者と強い思念を持つ悪鬼がいると言う事ね。
なんかそれって…。」
そこまで言ってジンコは黙った。
そう、それは何年も前にとんでもいない事件を起こした狂った宗教団体のような感じがした。
あの団体にも高い科学知識を持つ者や医者などのインテリ層が狂った教祖の側近でいたのだ。
「どちらにしろ俺達が攻撃を掛けようとしているのは明白にばれていると言う事だな。
まぁ、あのテレビを見れば判るだろうしな。」
と喜朗おじが言った。
「やれやれ、奇襲をかけるのははなから期待はしていなかったがな。」
明石がおにぎりを飲み込んでいった。
「俺達はよっぽど気を引き締めないとね。」
俺が言うとみんながその通りだと頷いた。
「俺達は全員生き残るよ。」
俺は自分に言い聞かすように言って、圭子さんの鮭おにぎりを食べた。
すっかり日が暮れて強力なライトに照らされた校庭の外は暗闇が広がっていた。
俺達は静かに待っていた。
「メンバーは体育館に集合。くりかえすメンバーは体育館に集合せよ。」
校内放送が流れて俺達は体育館に集まった。
ぞろぞろと歩く人込みに紛れながら体育館に行くと椅子が並べられていた。
なんだかんだで200人くらいが集まっている。
スコルピオの戦闘メンバーと支援班員、第10騎兵ヴァナルガンドや第15騎兵スキュラなどの同盟チーム、処理班などがずらりと並んで座った。
ざわざわひそひそと隣り合う者達との会話が聞こえる中、スコルピオ指揮官のノリッピーが笑顔で手を振りながら、誰彼とも名前を呼び、元気かい!と声を掛けながら演壇に向かって行き、拍手と歓声を受けた。
「四郎、なんかノリが良いね。」
「うむ、作戦開始時などは緊張するからな、リリーから聞いたがあれはノリッピーのいつものスタイルらしいぞ。
ノリッピーはアイン何とかと言う科学者より知能指数が高いとリリーが言っていたな。」
真鈴とジンコが息を呑んだ。
「え?それってアインシュタインの事?」
「うむ、誰か良く知らんがな、確かそう言う名前の者だがそいつよりも頭が良いらしい。
そして、誰でも一度見て話すと名前も必ず覚えるようだな。
少々軽い雰囲気があるが人気が高くメンバーたちの信頼も勝ち得ているとの事だ。
勿論戦闘の腕も大した物らしい。
人は見かけとは違うものだな。」
ノリッピーは人気があるらしく、盛大な歓声と拍手が起きた。
演壇に登ったノリッピーが良く通る声で話し始めた。
「さて諸君!元気そうで何よりだ!
今回はわれらの組織の歴史に残る大作戦だ!
孫やひ孫や玄孫に自慢できる戦いになるぞ!
もっともガキどもは退屈して話の途中で寝てしまうかも知れないがな!」
笑い声が起きた。
「さて、皆も今までの経緯は知っていると思うが、俺達は今回地下に潜む凶悪な奴らを退治する事にしたぞ!」
演壇の大スクリーンに樹海の衛星写真が映し出された。
この前リリーが見せてくれた赤や青の丸付きの写真だった。
ノリッピーが長い指揮棒を持ち赤い丸に当てた。
「この上側の赤い丸はカスカベルが突入する!
南側の赤い丸はわれら第3騎兵スコルピオと第5騎兵ワイバーンが突入する!
北側の青い丸はカスカベル指揮下の同盟チームが、この南側にある3つの青い丸は第10騎兵ヴァナルガンド、と第15騎兵スキュラが固めるぞ!
俺達にあぶりだされて敵が湧いてきたら容赦なく撃滅してくれ!
もっともお客さんが沢山すぎてオーダーをこなしきれなくなりそうなら連絡をすぐにくれ!
待機状態で腕がむずむずしている第2騎兵タランテラがすぐに駆け付けるからな!
カスカベルと第8騎兵ヤクルスのメンバーが潜入した映像を皆見たと思うが、酸を吐く蜘蛛の化け物などびっくりしちゃう奴もいるから油断はしないようにな!
そして、あの地下のアリの巣の様な映像、そして第8騎兵ヤクルスの蔵前君の証言と第5騎兵ワイバーンリーダー吉岡君のヒントを貰って戦い方も研究した!
後ほど血まみれリリーから説明を聞くと思うが良く頭に叩き込んでくれ!
そして、奴らを未だに謎の集団と呼んでいたが名前を付ける事にした!
この中でロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』を知っている者はいるかな?
おちゃらけたおふざけ映画の方じゃなく小説の方だ!」
会場の半数以上の者が手を上げ、俺とジンコと真鈴、明石と喜朗おじも手を上げた。
「おお!インテリぞろいでノリッピー嬉しいな!
そう!今回の敵はどうやら蜘蛛か蟻の様な体制を作り上げている集団なんだ!
俺達は奴らをハインラインに敬意を表して『アレクニド』と呼称する事にした!」
アレクニドとはアメリカの小説家ハインラインが書いた『宇宙の戦士』の人類の敵である蜘蛛の化け物の種族の名前だった。
「そう!
普段、俺達は騎兵と名乗っているが、今回は地球連邦軍宇宙陸軍機動歩兵としてアレクニドの連中の地下に突入するぞ!
奴らが待ち構えている危険極まりない穴倉に突入する!
皆には小説の様に小型モビルスーツの様なパワードスーツを着せてやりたいがそんな予算も科学技術を俺達は持っていない!
だが、俺達は長い戦闘経験と持ちうる限りの火力とたぐいまれない戦闘技術!
そして!そして何よりも安心して後ろを任せられる信頼して命を預けられる仲間がいるんだ!
今まで俺達が体験した事が無い重要な事が起きている!
このまま放置すれば俺達の文明が崩壊しかねない事態だ!
この戦いに負ける訳には行かないんだ!
皆の未来は!平和な未来は!素晴らしい未来は!俺達に掛かってるぞ!
存分に暴れろ!」
会場に拍手と歓声が沸いた。
「それではノリッピーの話はおしまいにして細かい作戦手順と戦術については、みんな大好き血まみれリリー、紅のリリー、ルージュリリーに任せるよ!
最後にみんなでいつもの奴をいくぞ!」
ノリッピーが大きく息を吸った。
「皆!行くぞ!
簡単に死ぬな!
仲間を見捨てるな!
敵を撃滅しろ!」
会場はノリッピーに合わせて大きな声で宣言し、拍手と歓声が沸いた。
ノリッピーが大きく手を振りながら笑顔で退場した。
「おお!士気が上がったな!
これは負ける気がしないぜ!」
明石が拍手しながら言った。
俺達も同感だった。
続く




