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吸血鬼ですが、何か? 第7部 紛争編  作者: とみなが けい
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樹海地下での惨劇…俺達はリリー達と作戦打ち合わせをする…とてもシビアな状況だった。

洞窟らしき中を進んでゆく画像。


「侵入したメンバーはカスカベルの新庄、海老嶋、飯岡、女性は黒崎、そしてヤクルスの蔵前の5人よ。

 私達は彼ら彼女らの功績を絶対に忘れないわ。

 映像は唯一生還した蔵前君のカメラよ。」


蔵前君の前を男3人女1人が進んでゆく。

先頭の男2人はスーツをノーネクタイでやくざの様な、残りの者達はチンピラ風の姿だった。

先頭の男が洞窟の奥まったところに立て掛けてあるベニヤ板をどかすと洞窟の岩肌に似せた鉄板のドアが現れた。


「おお。何じゃこりゃ?」


先頭の男がわざとらしくも聞こえるやくざのような口調で言いながら黒いドアノブを開けようとしてガチャガチャ動かしたがドアは開かなかった。


「丈二、開けてみいや。」


男が後ろに下がると丈二と呼ばれたチンピラ風の男がポケットからケースを取り出しドアノブに近づき、ケースを開けてピッキングを始めた。


画面が一時停止してリリーが言った。


「実戦ではピッキングなんてする暇がないからドアを爆破して突入するわよ。

 どうせ私達が近づいた時点で敵は感づいていると思う。

 突入時は罠に充分注意してね。

 用心のために突入時はガスマスクを装着するわよ。」


画面が再び動き出し、ドアを開錠した一行は口々に『ここは何じゃ?』とか『色々隠すのに都合よいのう』とか言いながら中に入って行く。

樹海特有の溶岩層をくりぬいたような通路が伸びていて所々蛍光灯の明かりが灯り多少薄暗いながらも行動に支障は無さそうだ通路の床は木材の板が敷き詰められていた。

通路の幅は3メートル、高さは2・5メートルと言ったところだろうか。

樹海の地下は富士山が噴火した際の溶岩が固まった岩盤の塊なので鉱山の様な落盤防止の補強材は見られなかった。


「これならヲタ地雷は設置できそうだな。」


床の木材を見て喜朗おじが呟き、俺達は頷いた。

床も溶岩をくり抜いた作りならヲタ地雷の固定方法を新たに考えなくてはならないので助かる。

先頭の男がベルトに差したトカレフ拳銃を抜いてスライドを引き初弾を薬室に装填した。


「何が出てくるか判らんから用心しいや。」


男がカメラの方に言うと一行はそれぞれベルトから拳銃を抜いた。

通路は緩やかなカーブを描いて先に延びている。

蔵前君のカメラが上下左右をチェックしているが監視カメラやセンサーの類は見つからなかった。

一行は用心深く進んだ。

通路の両側はドアもなく溶岩の壁が続いている。

ただ掘削しただけと言うよりも幾分表面が滑らかだった。


「これは掘削した所を何か酸のような物で表面を溶かしたらしいと言う事だわ。

 別物、悪鬼の中には強力な酸を吐く者もいるからそいつらが作ったのだろうと言う事よ。

 でなければ秘密裏にここまで広い空間を作るのは不可能だと言う結論を出したわ。

 そして気を付ける事は…先を見れば判るわね。」


通路は緩やかに下がって行き、二股に分かれる場所に来た。

案内板の様な類は無かった。

先頭の男は耳を澄ませて指を一本立てて風の流れを見た。


「左側に行くけえの。

 クラ、後ろに気ぃつけえよ。」


一行は進んでゆく。

カメラが時々後ろを振り向き警戒していた。

やがて少し通路が広くなって奥の方からざわめきが聞こえて来た。

先頭の男がカメラを振り向いてビンゴと囁いた。


再び進むと奥からのざわめきが消えた。

通路の遥か先に若いと思われる女が俯いて立っていた。

トレーナーにジーンズ、長い髪がその顔を隠していた。


「なんじゃわれ!

 お前らはどこの者じゃ!

 ここはどこじゃぁ!」


先頭の男が叫び、一行は女に向かってピストルを構えた。

女がするすると近寄って来たと同時に一行は撃ち始めた。

高速のトカレフ弾が女の胸元に何発も当たり、女は苦悶の叫びをあげて血が噴き出たが、女のスピードは衰えなかった。

そして女の背後から毛剥くじゃらで頑丈な蜘蛛のような脚が8本飛び出て壁や天井を足掛かりに女の体が宙に浮いた。

先頭の男が狙いすまして女の頭を撃った。

女の眉間をトカレフ弾が撃ち抜くと女は苦悶の表情を受かべて頭ががくりと傾いたが女の背中から出ている足の動きは変わらなかった。


「逃げろ!」


先頭の男がトカレフを連射しながら叫んだ。

暫く躊躇するようにカメラはトカレフを撃ちまくる男を映していたが、廻れ右をして走り出した残りの者に体を掴まれ向きを変えて走り出した。


振り向いたカメラの先で女の後ろから顔を出した異形の顔が口から何かを吐いてトカレフを撃っている男に掛かり、男は体から白い煙を出して苦悶の声を上げた。


リリーが映像を止めた。


「こいつはワイバーンが前に遭遇したように合体している者と思われるわ。

 女の体を生きた防弾チョッキと言う感じに使ってる。」


俺は個人タクシーをしながら殺人を繰り返したあの悪鬼のつがいを思い出した。


「本体なのかどうか…後ろの奴が本体だ。

 厄介なのはあの酸ね。

 かなり強力だから気を付けて。」


止まった映像で、トカレフを撃っていた男の体の輪郭が崩れていて、強力な酸で瞬時に焼けながら溶けていた。


映像再開。


「お前ら先に行け!

 俺が足止めする!」


切迫した声が聞こえてカメラが振り向くともう1人やくざ風のスーツの男が懐から手榴弾を取り出し、安全ピンを外して握りしめながらも迫りくる蜘蛛の怪物に向かってピストルを連射しながら走って行った。


「内緒で手榴弾も持って行ったようだけど、そうでなかったら全員殺されていたかも知れないわ。


カメラが再び振り返り走って逃げている。

轟音が鳴り響き、カメラが振り返ると手榴弾の爆発煙を突き破って蜘蛛の化け物が迫って来た。

女の体はボロボロになり腕や足が吹き飛んでいた。

蜘蛛の化け物は女の体をぼろきれの様に引き千切って捨てるとこちらに向かってきた。


リリーが映像を止めた。


「手榴弾の爆発程度では洞窟は崩れないようね。

 あの厄介な蜘蛛の化け物は新しく生きた防弾チョッキを手に入れている可能性があるわ。

 私達には当然の事だけど、決して見かけに騙されないようにして。」


映像再会。


カメラに先ほどの分岐点が映った。

そして分岐点のもう一つの通路からわらわらと悪鬼の集団が出て来た。


「くそ!突っ切るよ!」


女性メンバーの声が聞こえ、チンピラ姿の女性メンバーがカメラの前に出ると走りながら手榴弾のピンを抜き、安全レバーを弾き飛ばした。


「死人が1000人~!死人が2000人~!」


煙を吐く手榴弾を持ったまま女性メンバーが少し間延びした声で数えて湧いてきた悪鬼に向かって投げつけた。


「瞬時爆発の要領だな。

 あれなら絶対に投げ返されないぞ。」


明石が呟いた。

手榴弾が悪鬼の集団に到達した瞬間に爆発し、数体の悪鬼を吹き飛ばし、もう何体かの悪鬼が破片を浴びてうずくまってもがいた。

カメラは悪鬼に向かってトカレフを連射しながら突っ切った。


「あ!くそ!」


女性メンバーの声が聞こえ、カメラが振り向くと女性メンバーの足が酷く切り裂かれて、よろよろと何歩か進んで倒れた。

カメラが女性メンバーを助けようと走り寄ると女性メンバーがカメラに向かって叫びながら悪鬼にトカレフを連射している。


「にげろ!ばか!

 にげろ!にげるんだよ!」


女性メンバーはトカレフを撃ち尽くし脇からナイフを抜いて振り回したがナイフを持った腕ごと悪鬼に食いちぎられて悲鳴を上げた。

残った腕を振り回して抵抗する女性メンバーの体は殺到する悪鬼の体で見えなくなった。


「ちくしょう!

 痛い!ちくしょう~!

 ちくしょう~!」


悪鬼の塊の中からまだ女性メンバーの絶叫が聞こえていた。

カメラが突然ぶれた。

恐らくカメラを殴ったと思われる男性メンバーのアップが映る。


「ばか!にげるぞ!

 誰かがこの情報を持ち帰るんだ!

 走れ!」


男性メンバーが目から涙を流しながらカメラに叫び走り出した。

やがて入って来たドアが見えて来た。

いつの間に追い抜いたのか、ドアの天井付近からあの蜘蛛の化け物の足が降りて来た。


男性メンバーがトカレフを連射した途端に足が伸びて来て腹を貫いた。

男性メンバーの体を貫通した足の先端が背中から飛び出している。

男性メンバーは撃ち尽くしたトカレフを捨て、片手で体を貫通した足を握りしめ、もう片方の手でナイフを抜き、足が深く突き刺さるのも構わずに蜘蛛の化け物に向かって進んだ。


「この隙に逃げ…ぐばぁ!」


血を吐いた男性メンバーの声は吐血で途切れた。

一瞬立ち止まったカメラは手に持ったトカレフを撃ちながら蜘蛛の化け物の横をすり抜けた。

ドアに辿り着きドアを閉める一瞬蜘蛛の化け物に掴まった男性メンバーの顔が見えた。

血を吐いた顔は半分が酸に溶かされていた。

ドアを勢い良く閉めてカメラは洞窟の中を走った。

カメラに酷く切り裂かれて指を何本か骨折した左手が映った。


映像は終了した。

俺達は蔵前君が左手に包帯を巻いていた理由が判った。


「これが私達が手に入れた地下の情報よ。

 犠牲者を出してしまったけど内部の様子はある程度分かったわ。

 貴重な情報を持って帰ってくれた蔵前君だけど…」


リリーが言う途中で蔵前君は立ち上がった。


「俺も連れてってください!

 まだ右手は動きます!

 足手まといになる時は奴らと自爆します!」

「…本人の意志がとても固いから連れて行く事になったわ。

 もっとも私のすぐ横から離さないけどね。

 自爆は許さないよ。」


蔵前君が座った。


「あの酸を吐く蜘蛛の化け物は要注意ね。

 見た通り通路は狭いから接近戦になるのは避けられないけど充分注意してね。

 銃やクロスボウなどの飛び道具を沢山持って行くわよ。

 そして先ほど別物、悪鬼の集団に手榴弾を投げた映像を解析したけれど人間の者も何人かいたわ。

 私達が突入した時に電源を切って真っ暗になる確率は低いとは思うけど暗視装置は必ず持って行くわよ。

 それと、敵はガスを使う可能性があるからガスマスクも持って行くように。

 ガスマスクは少しの隙間でも、髪の毛を数本挟んだだけの隙間でも致命的なミスになるからしっかり装着する訓練をしておいて。

 ガスマスクは視界が限られるから突入する時にガスの心配が無い事が判ったら外して良いからね。

 唯一救いと言えるかどうか…敵はあまり飛び道具を持っていない様ね。

 この前のカスカベルとヤクルス襲撃の時でもあまり飛び道具で武装している奴はいなかったわ。

 それでは作戦部署と編成について説明するわよ。

 ちょっと喉が渇いたわ。

 一息入れましょう。」


俺達は客達にコーヒーを淹れた。

蔵前君はじっと椅子に座り黙ってコーヒーを飲んでいた。

ヤクルスの生き残りのもう一人は両腕を切断されてもう戦う事は難しいとの事でヤクルスのメンバーは彼一人になってしまった。

微かにそばかすが浮いて純朴そうな青年に見える蔵前君。

俺達は彼にも絶対に生き残って欲しいと思った。


プロジェクターに低軌道衛星の樹海の写真が映し出された。

リリーがスティックで二つの赤く丸い円で囲まれた部分を指し示した。


「今回。樹海の北側の穴からはカスカベルが、南側は私達スコルピオが突入するわ。

 カスカベルは半数を失ったけど、まだ戦闘要員は私達より多いからね。

 付近にある数か所の青い丸は別の出入り口、スコルピオ担当のこの3か所のうちに2か所は第10騎兵ヴァナルガンド、1か所は第15騎兵スキュラが固めて奴らの逃走を防ぐわ。

 北側4ヶ所の出入り口はカスカベル指揮下の同盟チームが固める。

 その外周は警察の機動隊と特殊突入部隊が固めるけど、彼らにあまり期待は出来ないと言うのが実情よ。

 私達のラインで食い止めないとね。

 そして第5騎兵ワイバーンは私達と共に突入してもらうわよ。」


リリーが横目で俺達を見た。

俺達が頷くのを見てリリーは続けた。


「タランテラは突入口以外から大量の敵が湧いて来た時の為の機動部隊として速やかに問題個所に展開して敵を押さえる。

 今の所岩井テレサの本陣ががら空きになるから半分しか動員出来ないけど、岩井テレサが要請している特殊行動を担当する隊が到着すれば全力でタランテラは現場に展開する予定よ。

 さて、地下はもっと枝分かれしている可能性が有るけど、分岐があるたびに分散してゆくと私達の戦力が落ちてしまうからなるべく本道と思われるルートを固まって前進するように努めるわ。

 どんなに最低限でも必ず4人以上で行動してね。

 支援班は入り口を固めると同時に何人かが私達先鋒に同行してリアルタイムで地下地図を作成してゆきます。

 その情報は小型タブレットで順次更新するからタブレットを壊されないように気を付けてね。」

「うむ、やはり明石が言う通り缶スプレーは用心に持って行った方が良いな。」


四郎が小声で言った。


「良い心がけだわ四郎、タブレット情報が万全と言いきれないからね。」


リリーが笑顔を四郎に向けた。


「さて、同時に処理班からの志願者が私達のすぐ後続について行くわよ。

 負傷者が出た場合は直ぐに処理班が出口に連れて行き適切な治療を施す態勢を整えたわ。

 誰も殺されない…いや、被害は本当に最小限に抑えたいのよ。

 負傷した人間メンバーは特に、まだ戦えるとかわがままを言わないで大人しく収容されてね。」


俺達は苦笑を浮かべた。


「突入と同時に入り口付近の樹木を伐採整地してヘリコプターが離着陸できるようにするからね。

 もっともいきなり大工事を始める訳に行かないから突入する隊は徒歩で突入する入り口まで進むことになるから、少々きついクロスカントリーを覚悟して置いて。

 各自連絡はこまめにとるように、特にリーダーは全体の状況把握を維持し続けてね。

 それと今回はいつもの殲滅と言う訳じゃ無く最小限の捕虜をとる必要があるわ。

 奴らの情報が全然無い状態なのよ。

 情報は必要で重要なのよ。

 本当は一匹残らず殲滅したいけどね。

 その辺りの指示はリーダーに従って頂戴。

 リーダーは捕虜に出来るかどうかの判断も求められるから頼むわよ彩斗。」


リリーの言葉を聞いて改めてリーダーのやる事が多いなと俺は思って緊張した。

そしてリリーの言葉を聞いて俺達は更に緊張した。


「要所に立てこもる敵に対する攻撃は最低でも3倍と言う法則があるけれど、実際あの地下にどれほど敵がいるか判らないわ。

 私達突入班はカスカベルを合わせても100に足りないくらいなの。

 実際に無謀な作戦だと言われても仕方が無い。

 相手の武装が貧弱で有る事は判っているから私達の強みの武装の充実さを生かして可能な限り火力で制圧してゆくわよ。

 当然接近戦で止めを刺す必要は出てくるけど、間合いがある間に出来る限り敵の戦力を削りたいのよ。

 サブマシンガンやショットガンの弾は直ぐ打ち尽くす事態になると想定されるから支援班が出来る限りの銃弾を携行して補給するわよ。

 弾が無くなりそうになったらすぐ連絡してね。

 突入口から角々に簡易アンテナを設置するから地下でもインカムは繋がる事を実験してわかっているから安心して。

 あの蜘蛛の化け物もそうだけど、あの地下には私達が想像もつかない化け物がいるかも知れないわ。

 加奈、『加奈・アゼネトレシュ』持って行くでしょ?

 特殊弾も何発か持って行った方が良いわよ。

 それと…これは覚悟を決めておいて欲しいけどね。

 よほど絶望的な状況じゃない限り撤退は許されない事は伝えておくわよ。

 今回は私達、いや、下手をすると人類文明の崩壊を引き起こすかも知れない事態なの。

 今回共闘する事になった対立組織でも他の個所を襲撃する時は全力で事態終息に当たると取り決めをしているわ。

 よほど許容できない被害を出さない限り私達は撤退しないわよ。」






続く






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